探偵は全員根こそぎ救う
選択肢としては
「受け入れてくれる高校がそもそも無いんです。それに高校の途中で転入ってなったら学業面でも相当高いハードルですし・・・」
なによりももっと大事なことは。
三都くんは自分の高校を愛してる、ってことだよ。
「知ってるよ、三都くんの高校。映像文化研究部っていうのが有名なんだよね」
「
知ってるも何も、偏差値やら将来の就職やらを無視して純粋に行きたかったのはこの高校なんだから。
そして映像文化研究部に入りたかったんだ。
映像文化研究部はいわゆる『オタク部』なんて呼ばれてたけれども、漫画、映画、アニメ、音楽、小説など、あらゆるエンターテイメントの創作者を目指す地元中学生の憧れの部だった。
何人ものクリエイターがここから輩出されてる。
そしてなんと三都くんは部長に抜擢されて充実した高校生活を送ってた・・・のに・・・
「僕は漫画を描いてたんです」
「あら、どんな漫画?」
「はい、王子様。大学生の男の子と、経済的理由から大学を中退してビジネスホテルのスタッフとして働き始めた女の子のラブコメで。一応電子書籍化されたんです」
「わ、凄いんだね!」
「すごいすごい!」
「で・・・それが学校内で知れわたっちゃって・・・『印税貰ってんだろ?』なんて2年の男子4人からしつこく絡まれて。気がついたら金をむしりとられる奴隷みたいになってました。そんなに売れてるわけないのに」
「そうだったの・・・」
「だから、僕は中退じゃなくて『休学』にしたんです。1年遅れちゃいましたけど、絶対ウチの高校卒業して、漫画家として生きていく道を切り拓きたい」
「休学中は描いてたの?」
「緋糸ちゃん、それがね・・・どうやら僕の創作意欲の源泉はノーランだったみたいなんだ。部屋で漫画を描いてて煮詰まるといつもノーランが膝に乗ってきて。僕はノーランを撫でながらキャラたちをどうやったらハッピーエンドに導いてあげられるかな、なんて描き続けたんだよね」
「でもノーランは母親になりたかった」
「は、はい。王子様のおっしゃる通り、避妊手術をしようって家族で打ち合わせてる時にノーランがいなくなって・・・きっと僕たちの言ってることが分かったんですね」
「でもノーランは自らの意思でこうして子猫を授かった。三都くん、今度は三都くんの番だね」
「うん。緋糸ちゃん。頑張るよ」
アタシたちはストレートな方法をまずは取った。三都くん、王子様、アタシ、桜花・・・それからねえ・・・
「にゃあ」
「ね、猫の持ち込みは困ります!」
「あら。ちゃんとケージに入れてるから問題ないでしょ?」
しれっと王子様は三都くんの高校の女性教師に正論をぶつける。
人間4人と猫4匹で三都くんの高校に押しかけたんだ。
要求は単純。
「では申し上げます。①三都さんの復学。三都さんの自己都合による休学とは言えませんから、残り半年間のカリキュラム履行のみでの卒業認定を求めます。②三都くんをいじめ、金銭を略奪した生徒4名の退学」
「②はちょっと・・・」
「あら? どうしてですか? 義務教育じゃないんだから別に問題ないでしょう?」
「事実認識が三都本人と異なりますので・・・」
「呼び捨てはダメでしょ! 『三都さん』か『三都くん』。はい、先生、言い直してください!」
「三都・・・くんの主張と4人の主張が異なりますので」
「当たり前じゃないですか。加害者が都合の悪い発言する訳ないでしょ? 何年教師をやってんですか?」
アタシは王子様の袖を引いて、そっと囁いた。
『ちょっと王子様! 先生を敵に回してもいいことないんじゃ?』
『緋糸クン、心配ご無用。ちゃんとなるようになるわよ』
教頭と元担任の女性教師が今度は三都くんに質問する。
「三都くん。この人はこう言ってるが、キミ自身の認識と意思を確認したい」
三都くん、相当緊張してる。
よく見たら膝が小刻みに震えてるんだよね。
でもね。
膝の上に乗ったんだ。
桜花の手が。
「桜花ちゃん・・・」
「三都くん。だいじょうぶ」
彼の顔つきが変わった。
精悍な、そう、本来のクリエイターの顔に。
漫画家の顔に。
「僕は復学して映像文化研究部に再び貢献したい。そのためには彼ら4人の退学は譲れません」
三都くんはきっぱりと言い放ったよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます