探偵は野獣に勝つ?

 ひとりで買い出しの時は自転車を使うんだよね。桜花おうかを乗せないから後ろの荷台が空くので。


 なんとなく風に当たりたくてスーパーからの帰りのルートはウチの街で一番大きな一級河川の堤防沿いにしたんだ。


「ふう・・・結構あったかいな」


 汗ばむぐらいだったからウインド・ブレーカーを脱ごうと思って自転車を止めたら目が合ったよ。


 白猫と。


「ノーラン!?」


 半年経ってるから薄汚れた毛並みとやせ細った体だろうっていう先入観でいたんで一瞬躊躇したけど、写真のノーランと瓜二つ。


 特に、あの利かん気そうな目と表情が。


「あ、待って!」


 堤防沿いの舗装路の脇にずっと続く桜やケヤキ並木の下地にクローバーが絨毯を作ってるところをノーランは俊敏な動きで走っていく。

 自転車じゃ無理だからわたしはそのまま下りて駆けたんだ。


「ノーラン!」


 ノーランて名前は『野良ネコ』をもじったって三都さんとくんから聞いてた。子猫の時から飼ってるんじゃなくって、ある程度の若ネコになってた時に出会ったって。


 さすがは『野良』出身。

 きっときちんと舐めて毛繕いを怠らなかったんだね。まるでサヴァンナの豹みたいに美しい毛並みのまま。

 体躯だってスリムで筋肉の動きが見えるみたい。


 人間のアタシごときが敵わない野生のスピード。

 見失っちゃった。


「ふうむ。ここで諦めちゃ王子探偵社・助手の名がすたるってものよね」


 アタシは探偵助手。

 ならば、野生にはない『推理』を展開しようか。

 そしてサヴァンナの王たる野獣と同じネコ科の敵に立ち向かおうか。


 しばし思案。


「ううむ。クローバーが茂っているとは言っても背丈の低い草。見通しは良好」


 アタシはすうっ、と堤防のずっと先までを見越すように顔を上げる。


「加えてこの陽光・・・人間のアタシですら汗ばむ中、毛皮を着たネコちゃんが全力疾走をした後で潜むならば涼しい所を選ぶはず。ならば」


 アタシは台詞をキメたよ。


「日陰、かつ、背丈の高い草周辺!」


 まあ別に推理でもなんでもないよね。

 アタシはひときわ大きな木陰を作るケヤキの木の下の、草むらに当たりをつけて、そうっ、と歩いて行った。


 そしたらね。

 白い一匹の母猫がお腹を見せて三匹の子猫たちにお乳を飲ませてた。


「ノーランって、メスだったの!?」

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