探偵は15歳の少女を最大限に活用する

 アタシが15歳の女の子であるということの優位性発揮については王子様が指示してくれた。


「そっと、ギタリストの話を聞いてあげて」


 ベスパでベイビーくん含め5人で帰る事はできないので借りた軽四の中で助手席からの風景を見ながら後部座席に座るギタリストの話をただ、聞いてあげた。


「わたしたちはデビュー目前で浮かれてたの。デビュー曲のレコーディングが終わった夜、ドラマーはわたしを・・・わたしひとりで妊娠に気づいてどうすればいいか分からなくなって。レーベルも事務所もわたしたちのデビューに進退かけてたから怖くなって」

「うん」

「逃げたの。普通に考えたら堕ろせ、って言われるだろうと思ったから。場所はね、紛れるなら横浜かな、って直感で。この子を産んで、あのカフェで働き始めて3年・・・なんだか惰性にしろ人生動き出してたんだけどな」

「ドラマーの人生は止まったまま」

緋糸ひいとちゃん。あなたが羨ましい。だって、まだ15歳でしょう?」

「もう、15歳です。それにわたしは中学を卒業してません」

「え・・・そうなんだ。ごめんね」

「いいえ。もしわたしが15歳だけど少しだけ人生の過酷さを知ってることであなたの話を聞く資格があるんだとしたら、とても嬉しい」


 こういう女同士の深い話をしてるってのに、王子様は高身長の長い足でクラッチとアクセルを操作するもんだから、エンジンがガクガク言って車が揺れる。


「王子様、大事な所なんだけど」

「緋糸クン、追われてるわ」

「え?」


 サイドミラーを覗くとちっこいバイクが着いてきてる。


「なんだろ」

「ギタリスト、身に覚えは?」

「多分、スカウト。わたしが前のバンドでメジャーデビューしそうだったことを知ってたプロデューサーが居て。しつこくカフェにも通って来てたから」

「そうか。ギタリスト、あなたの思う通りにしていいのよ」

「わたしはドラマーにこの子を見せに行きます」


 オーライ! って王子様はクラッチとアクセルとブレーキをまるでドラムのフットペダルを両足で操るように踏み上げしたんだ。


 ちっこい軽四だから猫背でさあ。


 王子様はスピードで振り切る代わりに、小路地へ、クン、と軽四を滑り込ませたよ。


「わわわわ」


 アタシの平衡感覚がぐるぐると揺さぶられる。狭い道なら小回りで優位なはずのバイクがまったく王子様の運転についてこれない。


「あれ? 王子様!?」

「なんだい、緋糸クン」

「ロンドンブーツで運転してる!?」


 途端にアタシは恐怖にかられた。

 どこの世界にロンドンブーツで軽四のマニュアル車を運転する人間がいるっての!?


 でも、アタシの動揺なんか王子様は一向に知らぬ顔でキビキビと軽四を走らせ、完全にバイクを振り切った。

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