探偵は15歳の少女と5歳の幼女をこき使う
アタシが15歳の女の子であること。
その優位性を最大限活用する!
まずは桜花が先陣だったのよね。
「あの・・・入園希望なんですけど」
「は、はい?」
王子様がグラムロックのお姫様ファッションで桜花の手を引き訪れたのは横浜の繁華街のはずれにある小さな幼稚園。
先生が王子様の出で立ちを見て躊躇している。一応、『母親』と誤解してくれてはいるようだ。
ただ、グラムロックファッションのフリフリの衣装やメイクの奇抜さについてはできればスルーしたがっていることがありありだ。
けれども幼稚園の先生は驚くべき職務への責任感を見せる。
「ご、ご入園希望ですね。何歳ですか?」
「5歳です」
「で、では、年中さんのクラスにご案内します」
家族で横浜に引っ越してきたという設定で王子様と話を合わせる。アタシと桜花は実姉・実妹だから不自然さのカケラもない。
一通り年中さんのクラスを案内してもらうと王子様は先生にこう言った。
「あの、赤ちゃん保育のクラスも見せていただけないかしら」
「赤ちゃんの、ですか?」
「ええ。わたし、今3人目がお腹にいるものですから」
なんのつもり? と訝るアタシに対して桜花は、
「わあ・・・弟かな? 妹かな?」
とファンタジーのようなリアクションをする。
ああ・・・桜花、やっぱりかわいい。
とにかくも王子様のリクエストに応えて赤ちゃんクラスを案内してもらうとこれまた桜花に負けず劣らず、
「か、かわいー!」
桜花とアタシは2人同時に歓声を上げちゃった。
そこにはベッドやお布団にゴロゴロしてるベビー服の赤ちゃんや、少し大きな1〜2歳ぐらいの子たちがちょこちょこと遊んでいた。
王子様はこんなことを言った。
「わたし、こっちではカフェで働く予定なんですよ。でもシフトが結構夜遅くまでで・・・」
「あ、カフェで夜シフトで働いてるお母さん、おられますよ? ほら、あの子のお母さんがそうですよ」
先生が指差したのは2歳ぐらいの男の子。
「あ、そうなんですか・・・そのお母さんの働いておられるカフェって分かりますか?」
「すみません。一応わたしたちもご父兄の個人情報はちょっと・・・」
王子様はそこで話を切り上げた。
「ありがとうございました。少し夫とも相談してみます」
幼稚園を出ると王子様は仕事モードの顔でベスパにまたがり、アタシと桜花に告げた。
「間違いないわ。あの子の母親がギタリストよ」
えっ! と軽く驚いたけれどもこれまでの経緯を考えれば王子様ならあり得る結論だよね。アタシは恐る恐る訊いてみたよ。
「それは、推理?」
「いいえ、事実よ。わたしは3年前にもう分かってたわ。多分本人も気づいてなかったろうけど、メジャーデビュー直前のライブハウスでのギグの動画を観てね」
「え」
「病院に行っても多分分からないお腹もぺったんこの早い時期。でもわたしには分かった。彼女は妊娠してたのよ」
「動画を観ただけで、分かったの?」
「分かった。妊娠が彼女の失踪の理由よ」
だから、それが、なんで、分かったの!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます