ベスパ・ベイビーズ
「田代、マシンを横づけて」
「へいへい」
およそ執事らしからぬ応答を探偵社の社長である王子様に対してする田代さん。田代さんの社でのポジションを聞いたら、専務なんだそうだ。なんでも王子様と田代さんは創業時から二人三脚でやってきた仲だそうで、10代の終わりには2人でガンアクションもやったなどというホラ話を時折王子様自ら茶飲話に語ってくれた。
などと回想している間に『マシン』が洋館ブランチの蔦の這う入り口の前に引き出されてきたようだ。
「さあ、お嬢さん方」
「わあ♡」
カワイイ!
それはキュートなサイドカーのついたバイクだった。色はなんと淡いピンク。
「これって、ベスパ? ローマの休日の?」
「そうよ
桜花はなんと猫耳のついた可愛らしいヘルメットを被ってサイドシートに。アタシは銃弾の鉛が潰れたようなデザインの真っ赤なバラがペイントされたヘルメットを被って王子様の後ろのシートに。
「緋糸クン、嫌かもしれないけれど、わたしにしがみついてね」
そう言って王子様は、キュロン! とエンジンをスタートさせた。
ふうーっ。
この街って、こんなに都会だっけ?
不思議なことにベスパのバックシートから王子様の背中越しに過ぎ去る風景がほんとにローマのように見えてしまう。
「おっといけない」
王子様はバイク用のカーステを流してくれた。
アタシの耳に入ってきたのはたどたどしい詩の朗読。
「これは・・・英語?」
「フランス人の英語」
「わお」
それだけでカッコいい! って瞬間的に判断できた。
「ねえねえ王子様。なんて曲なの?」
「ヴァージンVSの『ベスパップ・スカウト』」
「ヴァージンって?」
「そうねー・・・まだまだ子供って感じかな?」
桜花と王子様のきわどいやりとり。わたしはスルーする。
けれどもその曲は東京の都会っ子たちのことを歌ったようなポップでキュートなナンバーだった。きっとずっと昔のバンドなんだろうけど、アタシは一聴で好きになったな。
ベスパに乗ってベスパップ・スカウト。
王子様はウィンカーを点滅させて街中の小さな喫茶店の狭い駐車場にベスパを滑り込ませた。
「さあ、お嬢さん方、着いたわよ」
「ここは?」
「この街のデータ・ベースよ」
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