探偵の定義がガラガラ崩れ落ちてくんだけど
お姫様のような
まあ、15歳のアタシは最初から張り合うつもりなんかなかったけど、5歳の
「お姉ちゃん。王子様はオカマなの? わたしよりも綺麗なのに・・・」
「桜花。オカマじゃないよ。よく見たら一応男の格好だし」
「えー。だってかわいいフリフリの服なのに」
「あれはねえ。グラムロックの服装なのよ」
「グラムロック?」
アタシだってそんなの知らなかったよ。
知らないからネットでちょこちょこ調べたらさあ。
『グラムロックは主にイギリスで1970年代から流行したロック・ミュージックのジャンル。グラマラスなファッションも特徴で、メイクを施し、きらびやかな衣装に身を包んだ男性アーティストも多数。代表的なのがT-REXのマーク・ボランや、デヴィッド・ボウイなど』
だって。
問題はどうして探偵社の社長であり自らも探偵として仕事してる王子様がグラムロックのファッションしてるのかってことよね。
しかも、最初ハイヒールを履いてるのかと思ったら、ロンドンブーツってやつだったしさあ!
「バイトする」
アタシは未成年だから一応母さんに話したらさ、大喜びしちゃってさあ。
「ああ・・・とうとう
「探偵」
両親と大ゲンカになった挙句、中学を卒業保留中のアタシはそもそも求職すら難しいってことでやらせてもらえることにはなった。
ただね。
桜花も連れてってることは、絶対に言えないけどね。
「お嬢さん方、いらっしゃーい。コーヒー? 紅茶? それとも、ミルク?」
「アタシにはコーヒーを。桜花にはミルクティーを」
「了解。クッキーは?」
「わあ、王子様、クッキー焼けるの?」
「そうだよ、桜花クン。できる男の嗜みよ」
中世の王子様って、クッキー焼いたのかな。
「緋糸クン、クッキーは?」
「要ります。それで、社長」
「せっかくだから桜花クンと呼び方統一して。それからフレンドリーに会話を」
「・・・王子様。この洋館でブランチ開設してから依頼人は来たの?」
「まだよー。焦らない焦らない」
もう半月近く、アタシと桜花は毎日お茶飲みに寄ってるだけなんだけどなー。
そもそも今まで本社でどうやってたんだろ。
「王子様。探偵の仕事って、何やるの?」
「浮気の証拠収集とか、大企業が中途採用でヘッドハンティングする時の相手の素行調査とか」
「へえ。マトモ。で、王子様はまさかそのカッコでやってたわけじゃないよね」
「どうして? このカッコでやってたわよ」
「ウソ・・・」
「失礼な。おかしくないでしょ? 桜花クン?」
「うん。グラムロックってそういう服装なんでしょ?」
グラムロック探偵・・・
正直、王子様の容姿は桜花の世間に対する常識の感覚を歪めまくってるな。
「さて。じゃあそろそろ今日あたりから営業しなきゃね」
「営業?」
「そうよー、緋糸クン。待ってても依頼人は来ない。こちらからアプローチしないとね」
「あの・・・王子様を見たらお客が逃げてくんじゃ」
「失礼ねー。こんだけ目立つんだからいっぱい集まってくるわよー」
何を根拠に・・・
とにかくも洋館を出て街へと3人で繰り出した。
当然だけれども、みんな避けて通る。
「王子様ー。どこまで行くのー?」
「ふふ。桜花クン、いい質問ね。ここよ」
げ。
駅前ロータリー?
何する気だろう?
「あの、王子様」
「なに」
「さっきから気になってんだけど」
「なになに」
「なんでギター持ってんの」
「あら。営業には必須よ」
まさかと思ったけどほんとにやった。
「ヘイヘーイ! エヴリバディ! 奥さんの浮気、気になってないかーい!?」
アンプを置いて、ギターをつないで弾いて。
意味不明なコールアンド・レスポンスをやり始めた。
「ヘイ! 気になる人は、say yes!」
誰もレスポンスしない。
「そ・れ・か・ら! 超新星のメンバー加入、緋糸っ!」
わたしは俯いたまま、片手だけ上げた。場の空気が、冷たい・・・
「それと、桜花っ!」
ギャラリーがざわざわしてる。
どう考えてもアタシと桜花を王子様と名乗るお姫様がこの異様なストリートライブへの出演を強要しているようにしか見えないだろう。
「王子の探偵事務所、絶賛営業中っ!」
学校辞めといてよかった。
次の日、幼稚園へ桜花をお迎えに行った後、いつものように洋館ブランチへ寄った。
「ほらほらお嬢さん方、遅いわよー。早速のお客さんよー」
え。
あれで来るの!?
「あの・・・3年前に行方不明になったウチのバンドのギタリストを探して欲しいんです」
はあ?
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