ミステリの作法を知らない探偵
naka-motoo
探偵はお姫様?
探偵は家事手伝いの片手間にできるのか?
ボーイッシュを自認するアタシ。
名前まで少年ぽいのよ。
「
「あー。ごめんごめん、母さん。火、強すぎたねー」
現在のアタシの職業は『家事手伝い』。
何?
どうしてもニートだって言い張りたいわけ?
どっちでもいーよ。
緋糸っていい名前だよね。両親に感謝だわ。
でもね、みんなわたしのことカタカナでヒートって呼んでたんだよね。
中学をドロップアウトするまでね。
「緋糸、
「へーい」
ああ。清々しい。
新入学やら新学期やらで学生が目立つから春は好きじゃないんだけど、桜を見てほっこりしない人は日本にはまずいないんじゃないかな。
こんなアタシですら目を細めて白に近いピンクを見上げてるんだからさ。
この幼稚園の桜もひときわきれいな白だな。
「よ。
「あ、お姉ちゃーん!」
うーん、桜花。かわいい奴。
中性っぽくて少年ぽい風貌のアタシと違ってまだ年中さんだっていうのにほんとに女の子っぽいよね。
「先生、さよならー」
ちゃあんと挨拶もできる。
えらい奴だ。
「桜花、スーパーに買い物寄るけどいい?」
「いいよぉ」
「なんか買ったげよか」
「要らないよぉ」
お利口だし。
最初から歩くつもりだったけどエコバッグを前カゴに積んでラクして歩きたいから自転車を引っ張ってきてた。
のせたげよか? って訊いても桜花は、歩く! とわたしの膝の辺りに体を擦り寄せてくる。
ああ。なんたる可愛き存在よ。
「サ、サ、サクラバナ、サクラバナっは、きれいだな」
「おねえちゃん、なにそれ?」
「桜花の歌」
「やだぁ、恥ずかしいよぉ」
でもやめないもんね。
かわいいから。
「ねえ、お姉ちゃん」
「ん?」
桜花が立ち止まって指差したのは、いつも横目でチラ見しながら通り過ぎてる洋館だった。
地元の衣料品メーカーが自社の季節ごとの新作を、モデルを雇ってファッションショーのようにしてプロモーションしようとした建物なんだけどさ。随分前に売りに出されて放置されたままなんだよね。
桜花が小さな指で、つん、と指し示したのは円錐形の屋根が乗っかってる2階の窓。
「開いてるね」
「ねえ、お姉ちゃん。誰か居るのかな?」
「うーん。ちょっと探検してみよっか?」
「えー。こわいー」
「大丈夫大丈夫。ほら、おいで」
入り口のドアは片側が開けられてストッパーが置かれてる。
「桜花、お靴脱いで」
「え? なんで?」
「だってほら。音立てて見つかったらさ」
「う、うん・・・」
「バン! なんてね」
わたしは拳銃で桜花を撃つ真似をした。
「やだ、怖いよぉ!」
あ、しまった。
桜花、大声出しちゃった・・・ってわたしのせいか。
2階から誰か降りてくる。逃げようにも桜花と一緒だしなー。
「何してる」
「そっちこそ何してる」
あれ? ダメか?
「ここはアタシの親戚の持ち物なんだけど。窓が開いてたから変だと思って」
「
うわ。
なんか、絵に描いたような敵キャラって感じだな。日差しが強くもないのにサングラスしてダークスーツで口髭ちょび、で。
あ。もう一人降りてきた。
「お嬢さん方、どうしたかな?」
わたしが反応する前に桜花がまた大きな声だしたよ。
「あ、お姫様!」
「ははは。ありがと、sweet heart. おい、田代」
「な、なんだよ」
「この美しいお二人にコーヒーをお淹れして。あ、紅茶の方がいいかな? お嬢さん方」
「妹はコーヒーが飲めないので紅茶を」
「ははは。そうだね。おい田代。早くしないか」
「なんだってんだよ」
うわ・・・にしても足、ほっそいなあ。背高いけど体の線が柔らかで胸はそんなにないけど腰も細くて。
フリルのついたブラウス着てるし髪も長いし。
桜花が言う通りほんとにお姫様みたいだな。
アタシと桜花はその『お姫様』に丁重に2階に案内され、砂糖たっぷりのミルクティーをサーブしてもらったのよ。
「驚かせて申し訳なかった。ちょうどこの家の内覧だったんだ」
「ナイラン?」
「おっとごめん。家を買うときにお部屋の中を見せてもらうことだよ、sweet heart.」
「スゥイート・ハートなんて名前じゃないもん」
「ごめんごめん。お嬢さん、お名前は?」
「桜花」
「桜花クンか」
桜花クン?
「もう一人のお嬢さんは?」
「アタシは、緋糸」
「緋糸クンか」
「あの・・・なんでクンて呼ぶんですか」
「ああ。わたしは探偵なんだ。探偵は大体『クン』づけで人を呼ぶだろう?」
なんでも探偵社の社長さんなんだそうだ。それで新しくこの洋館を
「でもどうして田代サンのことは呼び捨てにするの?」
「桜花クン、田代はね、わたしの会社の部下なんだ。それに、執事風にやりとりしてるから。執事にはクールに、田代、の方がカッコいいからね」
「そうなんだ」
まあわたしたちが忍び込もうとして嘘ついたことも許してもらった。
さあ帰ろうと思って席を立ちかけたらお姫様に呼び止められた。
「緋糸クン、キミは仕事は?」
「家事手伝いです」
「ふうむ・・・多忙で責任の重い仕事だねえ」
あれ?
こんなこと初めて言われたな。
「どうだろう。忙しいとは思うが、このブランチを手伝ってもらえないかな?」
「え? アタシが?」
「うん。募集してるんだけど、なかなかね」
「でも・・・探偵なんて怖いし、それにここに常駐するのは社長さんだけなんでしょう? 女ばかりだと不安だし・・・」
「ん? 女だけじゃないけど?」
「え?」
「わたしは男だけど」
えっ?
「わたしの名前は、『
ええー?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます