あの日の紅い花びら


今日は一日、あの人のことを考えながら、旅をしていた。

その人が私だけに言ってくれた言葉を

心の中で反芻していた。幾度も、何度でも。



心ここにあらずで見ても、何倍にも色鮮やかに語りかけてくる風景。

ファインダーに映る日常の切り取りが

いとおしく想えてくる瞬間。



こんなきもちをくれた人に、この六月が特別になったことを言いたくて

水色の風船に伝言を結んで、そっと手から空に放した。



いつか、ゆっくり、もっと先に届くように。

その時、まだ一緒に、ずっと横にいてほしいと、願いをこめて。



あの人、と言ったら、またさみしく笑うだろうか。

「あの」は過去。 もう遠いってことだよって。

君の屈託ない笑顔と笑い声が、いつまでも私の中に響いていく。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る