ハシタイロ、に想う。



桜の色が、今よりも濃かったら、ここまで人々を魅了しただろうか。

そんなことを考えてみる。



半分の半に色と書いて、半色はしたいろ、と読む。

あるいは、半端のパの色、端色はしたいろ。ハシタイロ。



平安時代、高貴な者だけが身につけた色は、濃く深かった。

深紅や濃い紫色に代表される、はっきりとした、強い印象の色合い。

他の者には使うことが許されず、禁色きんじきとなった色。



でも、だからこそ存在した、中途半端な色があって。

浅い色は反して、許色ゆるしいろとなる。

私は寧ろ、こちらに気品を感じるのは何故かしら。

淡く揺れる、すみれのような薄紫が、やさしく映る。



水面に似合うのはどちら。

このみも人によって色々かしら。だからいいのね。



私は今日も、到底届かないであろう夢を見上げて

薄ぼんやりと、淡い色の中で溶けてみたくなるのです。

実は、そんな場所の方がすきなのだけど。浸っていられるから。

半色に似合う、中途半端な心地。どちらでもなく。



許されない恋をしていた時

薄手のコートの腕を少し引っ張ったら、あなたが振り向いてしまった。

だから、そっと腕を組んで、桜の散る道を歩いた。



喧騒の中、私たちだけが黙って

いつまでもこの道が続くことを願ったのなら

そこに降る花は

やはりハシタイロの花びらがお似合いだったろうか。





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