きさらぎデーモン tale2

005


「鬼」

すぐ思いつくのは、角が生えた、体が赤や青の色をした化け物か。

違う例でいえば、吸血鬼なんかも鬼なのだろう。


以下、回想。


「ーーーあとは...鬼、かな。」

「鬼!?」

鬼ってあれか?巨体怪力の鬼?角の生えたやつ?

ムリムリだよ、あんなのは桃太郎に任せておこうぜ。

いや...大丈夫、対処法はあるはずだ。だから巫さんも話しているんだろうし。

「もし現れたら...どうすればいいんだ?」

「うーん...多分、君の考えてる、想像している鬼とは少し違うかな。」

違う?童話的な鬼じゃあないのだろうか。

だとしたら、吸血鬼のような...


「それも違う。吸血しないこともないが。」

しないこともないのか。

「鬼、多分如月くんの考えは半分当たってる。多分角がある、みたいな。」

「ああ、考えた。一本とか二本とか、頭に生えているよな。」

「そう、とにかくそのイメージは当たっている。違うのは...主に体格や能力かな。」

僕の考える、想像する「鬼」の能力なんて怪力ぐらいだが。


「そうだねぇ、怪力か、それも間違っちゃいない。けれど根本的には違う力なんだ。」

根本的...?

つまり、怪力は本来の能力による副産物という事だろうか。

それとも怪力ではなく、物を軽くして怪力に見せるという逆転的発想か。

「前者だね。まぁずばり言ってしまえば、変身だ。」

「変身?それは...え。」

変身、変身だって?

そんなの無理じゃあないか。


詰みだ。


感知すら不可能って事だし。

「いや、変身と言っても、万能じゃない。感知はできる。」

感知...できるのか?

もし通行人がいきなり襲って来たとして。

とてつもない怪力で一方的に...怪力?

そんなものは万能だ。力を隠しながら使えるならそれは、まぎれもなく...


いや待てよ?

万能ではない。

まさか...かなり当てずっぽうだが、

「変身した人や生物によって...力は変わるって事か? 」

「さすがだねぇ。しかも角は残る。昔話では筋肉質な鬼が描かれる事が多いだろう。それは鬼は元来知能が低い。だからいつも大きな力を持つ状態を保っていた訳だ。」

なるほど...人間に変身しての騙し討ち、という考えが無いのか。

「さらに言えば、不意討ちという考えも無い。むしろ怖がらせる事の方が大切なんじゃないか、と私は思うよ。」

つまり、もし戦ったら正々堂々戦う事になる訳か。

「まぁ、基本的には私が倒すから安心しなさい。」

そして、彼女はこう言った。


「アレ」には個人的に借りがあるもんでね。」


006


時は戻って現在へ。

拝啓、死にそうです。

もし今状況報告をしろ、と言われたとしたら。

「鬼を見つけて不意討ちでお札はっつけて巫さんのとこに移動させようと思ったらお札だけ転移した」

とか言う間抜けな展開だ。


多分このお札は、他の物を巻き込んで異常を起こすことはできないのだろう。

変化はできても変幻自在ではない。

ダメだ。これはまずい。

多分このグダグダ具合では、どうがんばってもライトノベルの主人公にはなれないだろう。

くっそ...足が痛い。


とりあえずどうする...?札で逃げるべきだろうか。

お札は残り一枚。

命もあとひとつ(あたりまえ)。

体力が尽きた時が命も尽きる時だ。


川が見える。


反射して見える鬼の体に黒いもやがかかる。僕が初めて鬼に出会った時に見た姿だ。

童話的な鬼から変わった姿。それは。


「鳥!?」

鳥だった。

っていや、おかしくないか?

巫さんは基本的に鬼の姿は変わらないと言っていたはずだ。

それはかなり鮮明に覚えているし、実際さっきまでそうだった。

怖がらせるほうを優先しない個体ってことなのか。

確かに合理的ではある。

それはつまり


まさか...こいつ知能が...

高い...とか?

...詰みました。人生が。


まずいまずいまずいまずいまずい!!!

スピードがさっきまでとは桁違いだ。

確かにさっきまでの姿は、力は強くても速さは遅い判定だった可能性は高い。

ついでに言えば防御力も落ちているだろう。

このままじゃ...体力が尽きて死ぬ。

反撃...反撃?


...そうか、そうだった。

逆に言えば今は近づこうがただ速いだけ。


僕は体に急ブレーキをかけさせる。

そして、立ち止まった。


007


今回の終わり話。

ちなみに、大体の方は分かっていると思うが。

前章で僕が立ち止まったのは、体力が尽きた訳ではない。

確かに10kmは同じ所をぐるぐる走っただろうが、そういう訳では...断じてない。


そして、僕はちゃんと生きている。

あの後、僕がどうやって鬼を倒したか。

簡単な話だ。

突っ込んできた鳥鬼(今考えた)を、切り裂いた。

どうやって切ったかと聞かれれば、札を薄い金属板に変化させたのだ。

あとは鳥鬼の、鳥自身のスピードで真っ二つになった。

鬼の姿では、きっと(多分)、刃など通らなかっただろう。

鬼は急には止まれない。

鬼も急には変身できない。

鬼は絶命した後すぐに消えたが、多分もう会う事はないだろう。

だが、本当に倒せて良かった。


そういえば巫さんの「借り」と言うのは何だったのだろうか。

まぁ、倒せてしまったのならもういいか。


初めて独りで駆除した異常だ。


きっと、永遠に記憶に残るだろう。


それにしても、意外とあっけなかったな。





















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異リ物ノ独リ歌 録青蛾 @rokuseiga

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