異リ物ノ独リ歌
録青蛾
きさらぎデーモン
000
如月 朱音、僕は異常である。
それは人間由来の「普通」ではないという訳であるが、生物として異常だ。
何故そうなったのか、何故そうなるべきだったのかは時を遡らなければいけない。
だけれど、それが事故的な物ではなく、僕自身の意思で受け取り、受け止めた物であるという事もまた明白であることを忘れてはならない。
それが僕の異常で、僕の償いなのだから。
001
如月 朱音は異常である。
まぁ一文前で言った事を忘れてしまう人間なんて居ないだろうけれど、一応もう一度言っておく僕だった。
人間誰だって忘れる事が有る。
忘れ物だってするし、約束事をすっかり忘れる奴だって居る。
僕が思うに「忘れる」という行為、というか現象は価値観の低さが原因なのではないか
と思う。
どうでもいいから忘れる。
単純で簡潔だ。
「だからと言って私との約束を破った言い訳にはならないわよ? 」
「はい、すみません。」
何故僕は怒られながら下校しているのか。
つらつらだらだらと理屈並べしていたのは、導入にこういう文が有れば許されるかなー
みたいな言い訳だった。
もう一度言おう。言い訳だった。
「それに、その理屈だと私との約束がどうでもいいって事になるけれど。」
「どうでも...とまではいかないけれど...。」
「じゃあ、どこまでいくの?」
「そうでもない...ぐらい。」
時は二日前、学生心待ちに待った土曜日だ。
僕はこの女、おっと間違えた。各爽川 灯と約束をしていた。
何も伝えられず、場所だけ教えられそこに来いと。
後から聞けば「買い物に付き合え」という事らしかったが。
僕は行かなかった。いや、行けなかったと言うべきか。
「何故来れなかったか三文字で。」
「巫サン」
「六文字なのであうとー。」
ええ!漢字駄目なのかよ。
そうしたら必然的にその三文字は「ムリだ」になるぜ?
「仕方ないわね、で? 巫さんと何を?」
またまた二日前に遡るけれど。
僕は巫さん、もとい僕に異常そのものを与えた人と会っていた。
というか会わされた。無理やり。だって引き摺られて連れてかれたからね。
まぁあの人は最近忙しいみたいだし、効率的に動くのは別にいいのだけれど。
スケールがおかしい。可笑しい。
ちなみにここは愛知県だ。数時間で僕は北海道に連れていかれた。
方法は不明だ。
分かっているのは少なくともこの辺りで巫さんに捕まり、いつの間にか気絶している間に北海道まで連れていかれた。
全く、文章にしても意味がわからないぜ。
目が覚めたら北海道だったなんてある意味異世界転移モノより
ぶっとんでると思うのだけど...。
「あの人本当に大丈夫なの? 」
「どうだろう、でもこれを渡してくれたんだよな。」
そう言って僕は二粒の錠剤を差し出す。
「あの子の異常性を戻す為の薬だよ。」って巫さんは言っていたけれど...。
そもそも何故いくつもの県をまたがないといけなかったんだろうか。
ちなみに帰りは自分で帰らされました。
「とりあえず渡しておく。」
「分かったわ、ありがとう。如月くん。」
何か急に名前呼ばれるとドキっとするな...。
あっ、あとそうだ。
「あと副作用でかなり強い睡魔に襲われるらしいから飲む時は...」
そこまで言いかけて、僕はベンチに横たわる各爽川に気がついた。
002
言っておくけれど、こんな理由で女の子の部屋に入ったりはしない。
よく漫画で「なんでこうなった!?」みたいな事を言いながら部屋に居座る主人公が
居るけれど。
帰ればいいじゃん、だって誰も帰る事は規制してないんだぜ!?
結局各爽川を家に帰した後、僕は一人とぼとぼ帰路に着いていた。そういえば各爽川は大丈夫だろうか、巫さんの言っていた睡魔とやらが異常性由来の物じゃあないといいけれど...
あー、考えるのは疲れるな。
なんというか、運動したい気分だ。
たまにはちょっと走って帰ろうかな。
などと考えていると。
「食ってやろうか」
うーん? 聞き間違えだよな?
多分今後ろから聞こえて来たのは、「食ってやろうか」じゃなくて「買うてやろうか」みたいな事を言っていただけだ。
そうに違いない。
「食ってやろうか?」
僕は全力で振り向かずに走った。
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。
最悪。最も悪いパターン。
大丈夫、家にさえ着けば大丈夫。
落ち着け。
大丈夫大丈夫大丈夫。
そして僕は、どうにか玄関にたどり着いた。
003
大丈夫?
うん...誰だ?
「大丈夫?」
「各爽川!?」
嘘だろ...。
「あなた、短期間で何度力尽きるつもり?」
「え、ああ、すまん。」
また異常がらみだと思って駆けつけて来てくれたらしい。
まぁ、今回はかなり異常がらみなのだけれど。
ーーー
「ふうん、鬼、ね。」
「まさか出会ってしまうなんてな。もっとちゃんと説明を聞いておけばよかった。」
「巫さんは今どこに?」
「北海道。やることがあるとかなんとか。」
ああ、なんであの人がいないタイミングで出会ってしまうのだろう。
つくづく不幸だ。
まああの人なら「不幸がない世界なんてつまらない」とでも言うんだろう。
「私はどうすればいい? 」
「え?」
「何をすればいいかと聞いているのだけど。」
いやいやいや、今回に関してはある意味僕が引き金なのだから、自分で解決するべきだ。
危険すぎるってレベルじゃない。
「じゃあ何、解決できるの?」
「うん、算段はある。」
いや、正確には方法はあるけどそこまでもって行けるかだなあ。
「私がいて、成功率は上がる? 」
「まぁ、そりゃ」
しまった!あー終わった。
「なら手伝う。無理矢理。」
「いやいや!もう薬飲んだんだろ?大丈夫だから。」
あの薬をもう服用してしまっている。使ってしまっている。
それはつまり、もう彼女の命は保証されないという訳だ。
任せられない。付き合わせる訳にはいかない。
「大丈夫なんだ。よくよく考えたら、二人も一人も成功率は同じだった。」
「本当に?」
「ほ、本当さ。」
各爽川が、僕の瞳を覗き込む。
つぶらな瞳を。
つぶらな...潰れた瞳を。
「痛てぇえええ!?」
こいつ頭大丈夫か!?
「私に嘘をつくとはいい度胸ね。」
「なんだ!?いつの間に各爽川は読心術を会得していたんだ!?」
「如月くんは癖が分かりやすいのよ。眼球が赤くなっていたわ。」
それはあなたが目潰ししたからでは?
というか、本当に大丈夫かこの人。
「別に一人でやると言うなら止めはしないけれど。でも明日、ちゃんと学校には来なさいよ。」
004
痛いなぁ。いくら再生するとはいえ、ひどすぎんよ...
さすがに痛みは感じるしなぁ。
世界にはいきなり頬をホッチキスで止める女の子も居るらしいし、まだ優しい方なのだろうか。
いやそれは...ないな。
ーーー
方法。鬼を倒す手段。
そんなものは無い。
追っ払って、あとは丸投げする。
巫さんに。
一晩で北海道に連れていかれたんだから、そりゃあそれくらいの報復は許されるだろう。
許されるべきだ。
僕は北海道へ連れていかれた際に、薬以外の物も受け取っていた。
三枚のお札。
確か秋田辺りの伝承、昔話。
言った通りになる、言霊の込められた札らしい。
これを使う。
巫さんは困った時に使えと言っていたけれど、同時に「何かを生き返らせたり、死なせることはできない」と言っていた。
つまり、鬼倒しには使えないが、鬼退治には使える訳だ。
正直、最初は豆でも炒ってこようかと思ったが、さすがにあれこそ伝承中の出来事だ。
それよりは、豆を信じるよりは、巫さんの力を信じたほうが個人的には
上手く行く気がする。
希望的観測だろうか。
でもま、あの人なら上手くやってくれるだろう。
えーと、札は確か...あったあった。
まぁいいや、一枚でいいかな.....いや、うん一応二枚で。
さ、決戦だ。
戦うのは僕じゃあないけれど。
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