第55話 突撃
ティザーナ城は、ティザーニアの街の中でも一際小高い丘の上に建っている。その周りの茂みにイルマたち国民軍は陣取っていた。丘というよりは崖といった方がいいだろうか。それにしても、
「あの男が本当にガーウィン・メナードなのか?」
トゥエンタでリルと一緒にいたあのガイ・オーウェンという男が20年間行方不明となっていたガーウィン・メナードだと……? イルマはアランの報告がいまだに信じられずにいた。
「はい。私の旧友であるザルク村長がマリー様とともにずっと匿っていたとのことでございます」
アランはしてやったりと言わんばかりに豪快に笑っていたが、
「そう言われてもなあ……」
イルマは腕を組んで、あのときのガイを思い浮かべた。もっと賢そうな大人の男だと思っていた分、ちょっと残念なところはある。
「まあ、実際にその目で確かめてくださいませ。国王にふさわしい男ですから」
アランからしてみると、見ればわかるというところなのだろう。しきりにガイのことを評価していた。
「あれが……なあ……」
どうも納得がいかないが、何はともあれこれからついに歴史が動く。イルマたちが夢見てきた通り、20年にわたり圧政を強いてきたレイズ政権を倒すときが来たのだ。荒事になってしまったが、街から離れているのがせめてもの救いではある。
「打て!」
スノーヴァから逃げているところだというガーウィン王子が来るまでに少しでも相手の戦力を削いでおいた方が得策だろう。イルマは国民軍に砲台による攻撃を開始するよう指示を出した。
「いけ!」
それに呼応してアランが反応し、球を発射する。勢いよく球が城壁や城門に当たり、中からティザーナ兵士たちやメイドや家臣らしき人々がぞろぞろと出てきた。
「主君を守る気はないってところか」
主君より自分の命か。レイズも見捨てられたものだ。これは思ったよりも楽に勝てるかもしれない。その時、
「ちょっと待て! 国民軍よ」
きゃぴきゃぴとした明るい女の声が背後から聞こえてきた。
「誰だ……?」
戦場に不釣り合いな女の声だ。くるりと向きを変えるとそこには青地に2つの頭を持つ竜が描かれた旗を持つ兵士の集団が待機していた。フローアン軍が到着したのだ。
「待たせたの」
先頭で白馬に乗っている金色の鎧を着た女がかぶとを外した。
「あなたは……?」
こんな目立つ鎧を着ているなんてどこからどう見てもやんごとなきお方だ。イルマはその名を確認すべく馬上の女に尋ねた。
「わらわはフローアン女王のサーシャ・ホフマン。そして……」
サーシャがちらりと隣の男を見る。トゥエンタでリルと一緒にいたガイという男だ。しかし、リルの姿は見えない。すると、
「私は20年間行方不明となっていたガーウィン・メナードです。ともに立ち上がってくれたこと、心より感謝いたします」
馬から降りて、深々とイルマたちに頭を下げるではないか。手にはティザーナ王家の紋章が入ったペンダントまで持っている。翼を持つライオンの描かれたペンダントを見て、国民軍の士気が一気に高まった。残念ながら、どうも間違いないようだ。
「おお! お待ちしておりましたぞ!」
砲台のそばに立っていたアランがガイの前に飛んで出てきた。アランはガイのことを気に入っているから、再会をとても喜んでいるようだ。
「あなたでしたか」
イルマは気に食わなかったが、ここで仲間割れをするわけにはいかない。レイズを倒すため、力を合わせなければ。
「中に入るぞ!」
ガイが血相を変えてイルマに訴えかけてきた。
「何を言っているのです? このまま砲台による攻撃で一網打尽でしょう」
わざわざ危険な城に突っ込もうというのか。考えなしにも程がある。冷めた目でガイを眺めていると、
「中でリルがレイズにとらわれている。俺は彼女を助けたいんだ!」
聞き捨てならないことを言う。
「本当か……?」
イルマは目を丸くして、固まった。彼女の身に危険が迫っているというなら、話は別だ。
「そいつはバカ正直なのがとりえじゃからの。……ということで、ここはわらわに任せてお前らで行ってこい」
サーシャがガイの隣でにやりと笑う。それならば、
「わかりました。サーシャ様、ここはよろしく頼みます」
その言葉に甘え、イルマも剣を持ってその場を離れることにした。
「案ずるな。帰りが遅いようなら突撃して助けてやるからの」
けらけらと笑うサーシャに押されるようにして、ガイはイルマと一緒に城の中へ向かった。
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