第53話 知らせ

 どのくらいレイズにムチで打たれ、殴られ、蔑まれただろうか。

「まだ生きているのですか! しぶといですねえ!」

 全身が痛くて、感覚がよくわからなくなってきた時、丈夫そうな鎧を着ている門兵が大慌てで飛び込んできた。

「申し上げます!」

 門兵はひざまずくとレイズに向かって、悲鳴に近い声で叫んだ。

「なんですか! 人が楽しんでいる時に!」

 レイズはその門兵にも思いきり鞭を打った。門兵は悲鳴をあげて一瞬怯んだが、

「国民軍と名乗る集団が我が城を取り囲んでいます! フローアン軍も国境を越えてこの城に向かっている模様です!」

 なんとか至急の報告を済ませた。

「なんですって……?」

 兵士の衝撃的な報告にレイズの顔からみるみる血の気が引いていく。イルマ率いる国民軍とサーシャ率いるフローアン軍が一緒に立ち上がれば、ただでさえばらばらのティザーナ軍にまず勝ち目はないからだ。

「フローアン軍の先頭にいるのは、ガーウィン王子です! お逃げください!」

その言葉を聞いて、リルの心にぱっと光がさした。ガイがこちらに向かっている……! 彼ならきっとこの絶望的な状況を変えてくれるはずだ。

「逃げてどうするのです! 戦いなさい!」

 レイズが狼狽し始めた。しかし、

「みんな逃げてしまいました……我が城に残っているのは、もうスノーヴァ支部の者だけです! それでは失礼いたします!」

 門兵は、それだけ言うとものすごい勢いでいなくなってしまった。みんな勝てない戦に首を突っ込むつもりはないらしい。それが賢い選択だとリルも思う。スノーヴァ支部だけは相変わらずだが。

「どいつもこいつも……バカばっかりで困ります」

 レイズがもう一発リルに怒りをぶつける。さっきまではこのまま死ぬしかないと思っていたが、今の話を聞いて気持ちが変わった。ここでなんと罵倒されようが、痛めつけられようが、ガイを生きて待つ。そう決意した時、城がぐらりと動いた。

「打ち込んできましたか。仕方ない。いったん撤収するとしましょうか」

 レイズはそう言い残すと、リルを十字架に縛り付けたままその場に残してさっさと地上へと上がっていった。

「あとはガイを待つだけ……か」

 これで体への負担はないが、この場所が崩れてしまっては生きられない。自分も城もガイが助けに来てくれるまで持ちこたえられますように。そう願うのみだった。

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