第52話 前へ
久しぶりにザルク村に戻ってきた。ここまで全力で走ってきたから、体はへとへとだ。すぐにでもベッドに倒れこみたいところだが、まだガイにはやるべきことがある。
「これはいったいどういうことですか?」
まずは現状の整理をしなければならない。ガイはここを出る時、ティザーナ王国の様子を見て来いと言われた。そして、戻ってきたら作戦を立てようと言われたのだった。しかし、さっきの国境の様子を見る限り、明らかに戦は始まっていた。しかも、どちらかというとフローアンが優勢だった。
「見ての通り。我らは、絶賛進軍中じゃ!」
サーシャが意気揚々と答える。あの戦はやはりこちらから仕掛けたものらしい。国境を突破してやろうと思ったのだろう。それにしても、
「進軍中?」
進軍して、いったいどこまで行くつもりなのか。サーシャの意図が全く読めず、ガイは戸惑っていた。
「おうとも。昨日からティザーナ王国全土にガーウィン王子を探すよう通達が出ておるらしい。捕まえたものには、多額の賞金と広大な土地、そして一族や街の安泰を約束すると言っておる。本当は暗殺者にこっそり始末させるつもりだったようじゃが、失敗したから作戦を変えたらしい。こんな騒ぎにするとは、レイズも相当焦ってきたんじゃろうて」
ガイがスノーヴァを出た後にそんな騒ぎになっていたとは知らなかった。ガイがこうしてみんなと話している間に、リルは失敗した暗殺者の烙印を押され、レイズに命を絶たれようとしている。ガイは気が気ではなかった。
「昨日、じいちゃんのところにフォスター様がいらっしゃって、情報を教えてくれたんです」
ラティオが珍しくきりっとまじめな顔をして補足してくれた。いよいよその時が来たということか。ガイだけでなく、仲間の覚悟もできている。そう思うと心強かった。
「この混乱に乗じて我らはティザーニアへ一気に進軍する。もう少し待って出会えなければ、どこかで拾うつもりじゃったが、意外と早く会えてよかったの」
相手の裏をかくとは、さすがは女帝・サーシャである。男よりも男らしいその決断力に脱帽する。
「あとは合流するだけですね。ファナック様と」
ラティオが心なしか浮足立っている。
「ファナックどのとは、ティザーニアで合流の予定じゃ。……ということで、ラティオ、ここは頼んだぞ!」
サーシャはラティオに一喝すると、ガイと一緒にタイジュの家を出た。その後ろをフローアン軍の中でも精鋭部隊と言われる兵士たちがついていく。
「了解です。兄貴! 頑張ってくださいよ」
ラティオが明るい笑顔でガイにエールを送ってくれた。
「当たり前だろ! 俺は、ガーウィン・メナードとして、あの国を取り戻し、治めていくんだ」
そして、その隣にいるのはリルなんだ。リルのいない世界なんて考えたくもない。何がなんでも救い出すとガイは心に決めていた。
「それでこそ未来を担う男の顔じゃ」
サーシャがしたり顔をする。
「はい!」
そのためにも、ガイは前に向かって進んでいかなければならない。仲間とも合流した。あとはティザーニアでレイズと全てを終わらせるだけだ。
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