第39話 水面下
「レイズ様」
血相を変えて、ダータンがレイズの部屋に飛び込んできた。
「おや。何か掴んだようですね」
いつものらりくらりとしているダータンがこんなに慌ててレイズの部屋に入って来るとは珍しい。
「ガイ・オーウェンがガーウィン・メナードであるという証拠をつかみました。そして、リル・アーノルドは、彼を殺すのをためらっています」
しかし、ダータンの言葉を聞いても、レイズは動じなかった。リルを引き取った時からいつかこういう日がくるだろうという予測はしていたからだ。もし、その予測が本当になったら、苦しみに悶えながら死んでいくところをこの目に焼き付けてやろうと思っていた。リルが美しい女である分、期待が高まる。
「……役立たずの暗殺者は、お仕置きしないといけません。ダータン。リルに代わり、手を下すことはできそうですか?」
リルが惚れこんだ相手は悪かったが、焦ることはない。まだどうにでもなる。
「いえ。リル・アーノルドがぴったりとくっついているせいで私一人では隙がございません」
リルの剣の腕前は並みの男より上である。だからこそ、レイズはリルを重宝していたのだ。同じ実力なら、容姿端麗な女の方が使い勝手がいいに決まっている。
「なるほど……ちなみにどこへ向かう様子でしたか?」
リルと互角に戦うためには、恐らくダータン一人では難しい。リルと同じくらいの実力者を巻き込んだ作戦を立てる必要がある。
「恐らくスノーヴァかと思われます。船に乗っておりましたから」
ダータンの話を聞いて、レイズは名案を思いついた。そうか。その手があったか。
「では……王国軍の力をお借りしましょう。ロレーヌ支部長に至急連絡しなさい」
王国軍の将軍候補とも言われるリュクス。しかも、リルの幼なじみだ。これを利用しない手はないとレイズは確信した。
「かしこまりました」
ダータンも素直にレイズの指示を受け入れる。
「必ずガーウィン王子の命を奪いなさい。そして、裏切り者の女をここに連れてきなさい。うまくいけば、それなりの地位と金を与えましょう」
「ははっ!」
ダータンは威勢よく答えると、そそくさと部屋を出ていった。
「さて。どういう処罰をくだしてやりましょうか」
これで楽しみが増えた。レイズはリルが絶望にさいなまれる様子を思い浮かべて、1人でほくそ笑んでいた。
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