第29話 誘惑
さっきの曲とは違って、元気がいいこの曲は色々な人と踊るようにできているらしい。周りの人はみんなそれぞれ相手を変えてテンポよく踊っていく。こんな曲ならガイが言っていたみたいに街の人みんなで踊れそうだなと思う。ただ、テンポが速いので、一瞬でもぼうっとしていると、乗り遅れてしまいそうになる。周りはすでにそれぞれ男女のペアになっているというのに、リルは取り残されてしまった。すると、
「さきほどのダンス、とても美しかった」
リルと同じくらいの身長の小太りの男が話しかけてきた。とりあえずこれで踊る相手ができた。あとは曲に合わせて踊っていればいいだろう。
「ありがとうございます」
小太りの男と踊りながら、短く答える。そういえば、この人混みでいつの間にかガイとはぐれてしまった。終わるまでに合流できるといいのだが……と心配になる。
「そちはコークス・マーティ。名はなんという?」
ガイに意識が飛んでいたリルは、一気に現実に引き戻された。そういえば、今夜のターゲットはこの男だ。そして、ターゲットが自分から寄ってきた。これはまたとないチャンスである。
「ここでは言えません。でも……」
わざと視線をそらして、間を置く。できるだけ相手を焦らし、うまく食いつかせるつもりだった。
「でも……?」
コークスがごくりとつばを飲み込む。
「2人きりなら、申し上げます」
常套句でコークスに色っぽく囁いた。
「ならば、そちの部屋に来い。そなたに見せたいものがあるのだ」
にやりとコークスが笑う。
「はい」
獲物は釣れた。あとはいつも通りにこなすだけだ。
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