第27話 馬車に揺られて
いつもリルに自分のことを知ってほしくて、べらべらと喋っているくせに、狭い馬車の中でお姫様のような格好をしているリルと隣り合って座ると、さすがに緊張して何も言えなくなった。
「同じ街に住んでいるのに、どうして、舞踏会に行ける人と行けない人がいるのかな」
黙り込んでいると、馬車の小窓から外を眺めていたリルがぽつりと呟いた。
「そうだな……みんなが参加できたらもっと楽しいだろうけどな」
この街は貧富の格差が激しい。お金がある人はこうやって毎晩舞踏会や食事会を楽しみ、ない人は今日1日を生きるだけで精いっぱいだ。フローアンにいると、その様子は本の中でしかわからないが、ここでは目の前に広がっていた。
「みんなで参加できる舞踏会……かぁ……」
窓に張り付いていたリルが興味深そうにガイの方を見る。そんなつぶらな瞳で見つめられると、思考回路が止まりそうになる。
「そうだな……広場で踊る……とか……」
リルに聞かれて不意にそう答えてしまったのは、心のどこかに大好きなザルク村のイメージがあったからだろうと思う。ガイが育ったザルク村は何事も全員総出で行う習慣があったのだ。しかし、
「舞踏会っていうかお祭りみたいになりそうじゃない?」
リルにはちょっとしっくりこなかったらしい。しきりに首を傾げていた。
「どうせやるなら賑やかな方がいいだろ?」
別に舞踏会にこだわらなくてもみんなで楽しく騒げるような雰囲気であればいい。それがガイの理想の世界である。思わず熱が入ってしまった。
「それもそうか」
力説するガイを見て、リルがくすりと笑う。ドレス姿で笑うリルはいつも以上に美しくて、つい見入ってしまったのだった。
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