第26話 お披露目

 ガイは、衣裳部屋に引っ張られて、アランに着せられるまま、紺色の上着に袖を通し、白い股引をはいた。ボタンも刺繍も金の糸が使われていてきらびやかだ。着替え終わって、家の壁と同じ色をした白い廊下を歩いてみるが、どうにも馴染まない。

「とてもお似合いです。気品あふれるそのお姿……まるで本物の国王のようですよ」

 アランは、冗談のつもりで言ったのだろう。しかし、本物の国王の座を狙うガイとしては、全く冗談には聞こえなかった。

「ありがとうございます。親切にしていただいて」

「いえ。こちらこそ。妻は年頃の娘におしゃれをさせるのが好きだったのですが、娘を3年前に流行り病で亡くしてからというもの、ずっと落ち込んでいたのです。生きていれば、アーノルド様と同じくらいの年でしたから、今日は張り切っているようです」

 アランが嘆息する。ジュエルの瞳がなんとなく曇っているように見えたのはそのせいか。レイズは市民を巻き込んでまで金山に固執している。お偉いさんのケンカに巻き込まれる方は溜まったもんじゃない。

「必ず薬は取り返します。もう少し待っていてください」

 根拠も手掛かりもないが、必ず自分が取り戻してみせる。そんなへんな自信と意地があった。

「はい。オーウェン様を信じています」

 その決意が伝わったのかアランはガイに豪快な笑みを見せてくれた。

「お待たせしました」

 その時、廊下の反対側からジュエルが歌うような弾んだ声とともに姿を現した。ジュエルの後ろからリルが恐る恐る顔を出す。

「どう……かな……?」

 飾り気のない落ち着いたデザインのドレスなのに、リルが着ると華やかでとても美しい。色は情熱的な濃い赤だ。いつもと違って、大きなバラの髪飾りで長い髪をひとつにまとめているから、白くてきれいなうなじもよく見える。大人っぽくて妖艶な雰囲気にガイははっとさせられた。

「きれいだ……」

 心臓がバクバクと音を立てる。 もっと気が利いたことを言いたかったけど、今のガイにはそれが精一杯だった。

「あ、ありがとう……」

褒められたリルは、照れているのか顔を真っ赤にして、うつむいた。

「やはりこういう格好は若い人が似合いますな」

 そんなぎこちない2人を見て、アランがにやにやと笑う。

「馬車は門の前で待機させています。行きましょう」

ジュエルが満足そうに笑う。さっきまでうつろで生気がなかったのが嘘みたいだ。ガイとリルは、アランとジュエルに手招きされ、馬車が待つ玄関へ向かった。

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