第24話 お誘い

 ダータンの家を出て、街の中心まで引き返す。中心といっても、店が出ているわけでもなく、誰も歩いていない。閑散としていて生ぬるい砂嵐がむなしく吹きすさぶだけだ。路地には浮浪者のような人たちがたくさん座っている。そんな中、ばったりガイに出くわした。

「迎えにきたぞ」

 にこにことガイが笑って、手を振りながら、駆け寄ってきた。人懐こいその笑顔に思わずどきりとしてしまう。

「ちゃんと説明してきた?」

 まさかずっとここにいたなんてことはなかろうか。それがリルの懸念事項だったが、

「おう。事の次第を細かく説明して来たぞ」

 ガイは言われたことはちゃんとやっていたらしい。つくづく素直な男だ。

「そう。それならいいけど」

 そこまではバカじゃなかったか。ちょっと安心した。

「リルは、何かわかったのか?」

 ガイがリルをじっと見つめる。そう見つめられると、なんだか照れる。顔が赤くなっているのを見られないように、慌てて視線をそらした。

「う~ん……家にはいなくてさ……それっぽいところは当たってみたんだけど、わからなかったなあ」

 腕を組み、考えるような仕草を取って、とっさにそれらしい嘘をついた。わざとらしくて怪しまれるかなと思ったが、

「そうか……まあ、気にするなよ。そのうち取り返せるって」

 ガイはあっさり騙された。しかも、どことなく浮かれているような感じさえする。

「そのうちって……」

 そもそもガイがぼんやりして、ダータンに薬を取られるからいけないのだ。そう言い返してやりたい気持ちもなくはないが、こののんびりとした笑顔を見ていると、戦意喪失する。

「それよりさ、リル」

 ガイが急に改まってリルを呼ぶ。

「何?」

 それより……って、今、薬より大事な話題があるのか。

「市長主催の仮面舞踏会、一緒に行かないか? 息抜き……ってことで」

 ガイが懐からきらきらした装飾が施されている封筒を取り出した。中を開けると、仮面舞踏会の詳細が書かれている。

「ど、どうしたの……? これ……」

 1人でこっそり潜り込むつもりだったリルは、ガイの突然の誘いに驚きを隠せなかった。

「フォスター先生に事情を話したら、忙しいから代わりに行ってくれって頼まれてさ。服はフォスター先生の家にあるのを好きに着ていいっていうから」

 ガイの方も動揺しているらしい。きっと内心では、リルがいい返事をするか否かどきどきしているのだろう。隠しているつもりなのかもしれないが、顔に書いてある。わかりやすいやつだ。

「……じゃあ、一緒に行こう」

 でも、そのわかりやすさが愛くるしい。リルは縦に首を振った。

「ほ、本当か?」

 自分から誘っておいて、疑うとはなんたることか。

「嘘ついてどうするのよ」

 もっと喜んでくれるかと思ったのに……リルは膨れ面をしてみせた。

「だってさ、そんなにあっさり誘いに乗ってくれるとは思わなくて……」

 膨れているリルにガイがなんだかんだと言い訳をし始めた。

「たまにはいいかなって思って。こういうのも」

 ガイの表情はころころと変わって、なんだか忙しい。でも、ずっと見ていても飽きない。もっと色々な表情が見たい……なんて、そんなことを考えずにはいられなくなるのだった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る