第20話 家族
花冠を持って、墓へと向かう。幸運の花畑の間には一本の道があり、まっすぐに墓へとのびていた。ガイについていくと、マリー・オーウェンここに眠る……という墓石の前にたどり着いた。
「ここにかけたらいいの?」
「ああ」
マリー・オーウェンここに眠る……と書かれた墓石にリルはそっと花冠をかけた。一方、ガイはポケットからごそごそと何かを取り出して、静かに手を合わせ始めた。
「それは何?」
金色のひし形の板に丸い赤い石がついているのがちらりと見える。どうやらペンダントらしい。
「これか?これは厄よけのお守りだ」
「お守り?」
「ああ。大切な物なんだ」
「そうなんだ」
ガイはペンダントについて詳しくは語ってくれなかった。ちょっと気になったが、深く突っ込む気にはなれなかった。どうせ1週間の旅の仲なのだ。
「お袋。俺は元気にしているよ」
ガイはマイペースに墓石に向かって話しかけている。その表情はいつになく生き生きとしていた。
「仲がよかったんだね」
なんとなくそんな気がした。見ていて微笑ましい。なんだか和んだ。
「どうかなあ……厳しかったけどな。俺はそんなお袋からいつも逃げ回っていたよ」
ガイは母親との関係を聞かれてちょっと照れているようだが、リルはただただ羨ましかった。
「いいなあ。そんな風に家族の思い出話ができて。私には家族がいないから……」
「家族がいない……?」
なんでこんな話をしてしまったのだろう。しかも、出会ってすぐの人に自分から。でも、
「私ね、赤ちゃんの時に教会の前に捨てられていて、教会の孤児院で育ったんだ。でも、シスターや他の子たちとなじめなくて、疎まれていたの。3年前に15歳でレイズ様に引き取られて、働くようになるまでずっとそんな感じだったんだ」
話し出したら止まらなかった。隣にいるガイは、リルの急な告白に戸惑っているようで、黙って聞いていた。
「……暗い気持ちにさせるだけだから、誰にも話す気になれなくて。でも、ガイになら、話しても大丈夫かなって思ったの」
こんな話されたら、答えられないのは当然だ。いつもみたいに淡々としていればいいだけなのに、どうもこの男と一緒だと調子が狂う。すると、
「そっか。自分のこと、話してくれて嬉しいよ。ありがとな」
と言って、にこりと笑った。心底嬉しそうだ。あまりにも嬉しそうなので、かえってこちらが辟易する。
「べ、別に……」
気づけば、心臓がドキドキと音を立てる。顔が赤くなってくるのを気づかれないように慌ててそっぽを向いた。
「よし。戻るぞ」
そっぽを向こうが何しようがガイはお構いなく、話しかけてくる。完全にガイのペースに乗せられてしまった。
「うん」
仕方ない。今日は乗ってやろう。そう決めて、一緒に歩き始めると、ガイは、また満足そうに笑っていた。
山道を下って村に帰ると、
「兄貴!」
陽気なラティオが待ち構えていた。
「おお。ラティオ。ヒカリダケ採ってきたぞ」
ガイがラティオにヒカリダケのかごを引き渡す。
「さすが兄貴! さっそくじいちゃんのところに持っていきますね!」
「おう!」
ラティオとガイは楽しそうに戯れている。気の置けない仲なのだということは、見ればわかる。さきほど腹が立つと思ったのは、そのくらい微笑ましい光景でもあるからだろう。そして、そんなガイの背中を見ながら思う。ガイは、まっすぐで純粋だから、慕われるのだ……と。
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