第11話 村人たち
相変わらず、リルの返事は素っ気ない。フローディアを出発してからずっとこの調子だ。それでも、話せば話すほど、きれいなだけでなく、どこか影のある儚げな雰囲気に惹かれてしまっていた。こうなってしまったのには、何かわけがあるのだろう。もし、それを自分だけに話してくれるようになったなら……考えると思わずにやにやしそうになる。
「のどかでいいところだろ?」
気に入られたくて、どんどん話をしてしまう。フローアン王国とティザーナ王国の国境に位置するザルク村。国境であるがために、戦に巻き込まれてしまうこともよくある。だから、この村は、鎧や武器をひと通りそろえている。そして、子どもたちには剣をはじめとする武器の使い方をひと通り教えている。ガイもそのうちの1人だ。しかし、サーシャに仕えるようになってから、忙しくて戻っていない。
「そうですね」
心躍るガイに対して、リルは至って冷静だ。話しかけてほしくないというオーラが漂っている。表情が硬い。でも、笑ったらきっとかわいいんのだろうと勝手に妄想してにやけそうになる。
サーシャからこの話を聞いた時には、男女二人で旅をして、大丈夫なのかと思った。何か間違いが起きたりしないかなんてへんな心配をせずにはいられない。案の定、サーシャもそう思っていたらしく、
「よいか。お前は女慣れしていないバカまじめじゃからな、騙されんようにくれぐれも用心せい」
と釘を刺されてしまった。
「は、はい……」
女慣れしていないバカまじめ。褒めているのかけなしているのかよくわからない言葉を受けて、思わず動揺する。そんなガイを見て、サーシャは楽しそうにけらけらと笑っていた。そして、
「そんなことを考えている暇があったら、しっかりティザーナ王国の様子を見てこい」
と指示したのだった。
しかし、そんな指示なんてきれいに忘れるくらいガイは、リルに夢中になっていた。こんなかわいい子に裏があるわけがない。ただ、剣が強いから、同行者として選ばれただけだ。そう信じて疑わなかった。
「ガイが女を連れて帰ってきたぞ‼」
ザルク村に着くや否や村人たちが騒ぎ出す。ほとんどが畑で、1番の大通りでさえ、人がまばらにしか歩いていないような静かなところだが、村人同士は仲がよく、何かあると全員総出で大騒ぎをする。おまけに村のシンボルである教会の鐘までタイミングよく鳴り響いた。北側にあって、普段は昼と夜を告げる2回だけ鐘を鳴らすのだが、ちょうど昼の時間帯に引っかかったらしい。その騒ぎを聞いて、リルがまた嫌な顔をした。
「こら。騒ぐな」
仕事をしていた村人たちが手に持っていた道具を置いて、いっせいに集まってきた。彼らの視線はリルに集中している。ガイは慌てて、
「そんなにじろじろ見るな」
と言って、村人たちを制した。その人込みの中から、
「兄貴! お帰りなさい!」
明るい金髪の男がひょっこりと現れた。丸くてつぶらな青い瞳。整った顔立ちはまさに美少年だ。陽気な声が辺りに響き渡った。
「ラティオ! 久しぶりだな」
声の主は、村長の孫であるラティオ・ハーグだった。ガイの幼なじみで、幼い頃から兄貴と呼んで慕ってくれた弟分だ。この男の声を聞くと、こちらまで明るくなる。
「兄貴! ついに恋人できたんですね!」
リルを見て、ラティオが自分のことのように嬉しそうにしている。ラティオはこまめで口もたつから、女が途切れることはない。一方、ガイはそんな色恋沙汰には今までまるで興味がなく、無縁だった。付き合うだの別れるだのそんな面倒なことをよく何回もできるものだなと思っていた。そんなガイを見てきたラティオだから、大げさなくらいに喜ぶのだ。すると、隣にいたリルが露骨に嫌な顔をした。
「違うって。色々と事情があるんだ。ちょっと来い」
ただでさえ、リルのガイに対する心証はよくない。これ以上、悪くされては困る。ガイはついてくるようラティオに手招きをした。
「ええ? 聞きたい!」
ラティオがきらきらと目を輝かせる。
「ちょっとそこで待っていてくれ。こいつに説明してくるから」
ラティオの手をつかむとガイは、慌てて駆け出した。
「う、うん……」
そんなガイとラティオを見て、リルはただただ呆気に取られているようだった。
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