第10話 思い出
厩でガイは葦毛の馬に、リルは栗色の馬に乗った。慣れていないと馬に乗るのを怖がる女もいるが、リルは全くそんなことはない。次は国境を目指して、東へと進んでいく。フローディアを出るとしばらく森が続くが、基本的には一本道で迷うことはない。だから、馬の上に乗っているだけで、正直、暇である。リルは、この時間を使って、
「ティザーナ王家の人間なら紋章の入ったペンダントを持っているはずです。それを証拠としなさい」
というレイズの言葉を思い返し、ひたすらに作戦を練ろうとしていた。分かりやすいところに隠しているならまだしも服を脱がないといけないところに隠しているなら、どうするべきか……そんなことを考えていたのである。
しかし、ガイは、そんなリルにお構いなく途切れなく話しかけてくる。そのため、鬱陶しいことこの上ない。リルは、だんだん疲れてきていた。
「この森を抜けたら、ザルク村だな」
ようやく集落が見えたと思い始めたら、ふいにガイがそんなことを言った。
「はい」
フローアンといえど、ここは国境だ。リルもこの辺りの地理は把握している。適当に相槌を打っておくことにした。すると、
「ちょっと寄ってもいいか? 俺の故郷なんだ」
またのんきなことを言い出した。この男は、本当に自分の使命を果たすつもりでいるのか。気まますぎるにも程がある。
「構いませんが、長居はしないでくださいよ」
時間的にはまだゆとりはある。リルは、渋々了承した。ガイはリルの返事を聞き、
「わかっているって」
と無邪気に喜んでいた。
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