第5話 20年経った今

「リビエラは民から慕われる心優しい素晴らしい国王であった。妻のマリーは、聡明な王妃であった。それなのに、わらわの大切な友人を暗殺しよって……ただじゃ置かんぞ。あやつら」

 サーシャの声に怒りの感情が強く表れている。煮る気なのか焼く気なのか見当がつかないが、そのくらいのことはしそうな勢いだ。

「必ず、私は国王の座に返り咲いてみせます」

 黒いローブを深くかぶった不思議な男女のことをマリーもガイも片時も忘れたことはない。マリーはガイが大きくなるにつれて、

「いつか王座を取り戻しなさい。助けてくれたあの人たちのためにも」

 と口癖のように言っていた。そして、知り合いの剣の師匠や家庭教師をつけ、ひととおり国王に必要な教養を学ばせた。さらに、ガイが18歳になると、親友であるサーシャに仕えるよう話をつけた。ただ、それでやりきったと思ったのかマリーはそれからすぐに亡くなった。朝、起きてこないと思って、部屋に行ってみると、ベッドの上で安らかに眠っているかのように息を引き取っていたのである。

 あれから5年。ガイは、悪政を強いる国王を必ず倒すと使命感に燃えていた。そして、国王になったら、自分たち母子を助けてくれたあの人たちにお礼を言おうと心に決めていた。

「よい心がけじゃ。ただし、感情に振り回されて、死に急ぐなよ」

 考えるよりも先に、感情だけが先走って失敗するのは、ガイの悪いところだ。

「わかっております」

 そのせいで何回、村の人や城の人ととけんかになったことか……。みんな心の広い人ばかりだから大事には至らなかったものの、思い返すと、自分が情けなくなる。

「ついでにティザーナ王国の様子を見てこい。レイズ政権になってから、あの国には入っておらんが、相当ひどい状態らしいのじゃ」

 サーシャも、ガイを暴君から救う救世主にはしたいらしい。それは、ガイがここに雇われた時から暗黙の了解となっていた。

「あの男のせいで、民が苦しんでいるなんて……許せません」

 自分が気に入った領主であれば優遇するが、そうでなければ冷遇し、挙句の果てには土地を取り上げ、残された民に重税を課す。それが街を巻き込んで行われているという噂だからたちが悪い。レイズの気まぐれのせいでいったいいくつの街がつぶされたのだろう。

「全くじゃ。いつでもフローアン軍は出せる。あとはタイミングというところかの?」

 サーシャがにやりと笑ってガイを見る。劣勢で負けたが、だいぶ立て直してはきたらしい。

「かしこまりました。様子を見てまいります」

 それならば、そのタイミングを見極めるためにもガイは行かなければならない。そして、ティザーナ王国をレイズの手から必ず取り戻してみせる。

「うむ。その後にでも、作戦を立てようぞ。逆手に取ってやれ」

 こうして、ガイは、依頼を引き受けたのだった。

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