第3話 思惑

 フローディアの城の1階。西側の1番奥にある玉座の間には、夕日が差し込んでいた。玉座の間に着くなり、サーシャは、自分の好みに合うように職人に作らせた金のごちゃごちゃとした骨組みに赤い布地が張ってある椅子に腰かけた。そして、

「平和条約締結のため、ティザーナ王国で国王のレイズ・メナードと会ってはもらえぬか?」

と尋ねてきた。

「俺が……ですか?」

 驚いて目をぱちくりさせる。なぜ、平和条約なんていう大仕事に仕官して5年目のガイをわざわざ指名するのだろう。本来なら、女王であるサーシャとの会談であるべきだ。サーシャも、

「うむ。しかし、それが向こうの要望なのじゃ」

と困惑の表情を浮かべてため息をついた。

「要望……ですか」

 ティザーナ王国の国王であるレイズ・メナードは、とても傲慢で圧政を強いていて、民の人気は皆無だ。フローアン王国とも仲が悪く、それまで良好だった両国の関係は一瞬にして崩れ去った。そんなレイズが言うことだから、サーシャは警戒しているのだろう。

「そうじゃ。しかも、リル・アーノルドという女を同行させろと言う。ティザーナ王国でも選りすぐりの剣の使い手なんじゃと。要は見張りじゃな」

 サーシャは肩をすくめ、レイズから届いたらしい文書をガイに渡した。開けてみると、サーシャが今言った通りのことがだらだらと書いてある。

「なるほど……」

 サーシャの言うことは痛いほどよく分かる。しかし、

「相手は、10日以内に連れて来なければ、我が国を潰すと物騒なことを言いおるからの。明日にでも発て」

 劣勢であるフローアンは、条件を飲むしかなかった。

「かしこまりました」

 それを悟ったガイは、力強くうなずいた。

「そもそもあんな国境の戦いで国王が出てくる方がおかしいのじゃ。絶対に裏がある」

 確かにボルモンド島南西部の国境攻略のために、北東部にあるティザーナ王国・王都ディザーニアからわざわざ出てくるなんて、ちょっと怪しい。いくらフローディアが南西部にあるといえど、そこまでして出てくるようなものでもないような気がする。あの時、ガイもレイズの姿を目にしたが、何かを探しているような感じがしなくもなかった。

「十分に気をつけよ。ティザーナ王国の本当の継承者はお前じゃ。ガーウィン・メナードよ」

 サーシャは、よくわからないレイズ国王の動きが本当に心配なのだろう。いつもなんだかんだとはぐらかすのに、今日は真剣な目でガイを忠告してきた。

「承知しております」

 ガーウィン・メナード……それがガイの本当の名前だ。

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