結局…どっちなん?
こんな私でも、光の研究はしてました。いや、光の研究っぽいことをやったことがあると言った方がいいか。
あれは小学校の頃でした。鏡の前に立ちます。鏡の真正面ではなくて、鏡に自分の姿が写らないように少しだけ横にずれて立つ。で、いきなり鏡の真正面に移動する。そうすると鏡に映った自分が見えます。何度同じことをやっても必ず鏡には自分の姿が映ります。ここで考えます。どうすれば鏡の中の自分を騙せるか、と。
今度は鏡に背中を向けて立ちます。こうすると鏡の中の自分にも私の姿は見えません。ここでいきなり鏡の方へ振り向く。奴もしっかり振り向いて私を見てます。
今度は鏡の前にまっすぐに立ちます。ゆっくりと顔を後ろに向けると見せかけて、いきなり鏡の方に向ける。それでも奴は、少しの狂いもなく私の真似をしている。
そして私は悟りました。鏡の中の奴を騙すことは一生できないって。
…あ~、あれです。さっきアインシュタインなんて名前出しちゃいましたけど、その前に言っておかなければならないことがもうちょっとあるんで、まずはそちらから。
ニュートンの生きていた17世紀くらいの話なんですけど、デカルトっていう哲学者が、宇宙空間には重力とか光とかを伝える、目に見えない何かがあるはずだって考えてたんです。
だって不思議じゃないですか。磁力もそうですけど、重力って離れているのに力が伝わるんですよ。だったら、その力を伝える何かがあるって考えるのは当たり前ですよね。そして、その考え方を引き継いでロバート・フックっていう人がその何かを「エーテル」って呼びました。
え~と、有機化合物にエーテルっていうのがあるんですけど、それとは別物です。…っつうか、全く関係が無いわけじゃないんですけど、まあ、別物。
で、ここで出てくるのはホイヘンスです。光は波か粒子かで、ニュートンとバトルを繰り広げていたあのホイヘンスです。ホイヘンスは光は波だって主張していましたから、光は空間に満ちている「エーテル」を波として伝わっているだろうと思ったわけですね。
ホイヘンスはそう考えていたんですけど、残念ながら、世間では一時期ニュートンの「光はちっちゃい粒だよね」っていう説が信じられてました。だから得体の知れないエーテルなんて有っても無くても良かったんですけど、ヤングの実験…一つの隙間を通った光を次の二つの隙間に通すあの実験ですね。その実験で、光は波だっていうことになっちゃった。
「じゃあ、やっぱ空間にはエーテルがあるんじゃね?」ってことになった。とすると、それが本当にあるのかどうか確かめないといけない。だからみんなで頑張って確かめようとしたんですけど、エーテルをどうしても見つけられなかったんです。どうしても見つけられないから、エーテルは絶対に見つけられないものなんだ、っていうあきらめムードが漂い始めました。
そんなあきらめムードの漂う19世紀のことです。ジェームズ・クラーク・マクスウェルという人がいました。「マクスウェルの方程式」っていうのをまとめた人で、この方程式は「物理学の宝石」なんて言われるくらいカッコイイ方程式なんだそうですけど、私には何が良いのか全く分からないです。
ま、この方程式は、動かないエーテルの中で電気とか磁気がどんな現象を見せるのかを表す方程式で、マクスウェルもエーテルの存在を信じていたようです。それで、エーテルを見つける方法を手紙に残してはいたんですが「ちょっと難しいかもね」みたいなことが書いてあったそうです。
と、ここで登場するのがアルバート・マイケルソンとエドワード・モーリーの二人。マイケルソンが人づてにこの手紙の事を聞いて「じゃあその実験、俺たちでやんね?」ってやった実験が「マイケルソン・モーリーの実験」。短くして「MMの実験」なんて言い方をすることもあります。
いったいどういう実験か。
本当にエーテルがあるとして、宇宙空間内のエーテルが全然動いていないとします。地球は太陽の周りを回っています。秒速28キロだそうです。音の速さは大体秒速340メートルですからマッハ80以上。超音速です。
しかも、太陽系自体も銀河の中をぐるぐる回っています。秒速240キロで。時速ではなく秒速です。音速の700倍以上…。マジやばいっす。
おまけに地球は自分でもグルグル自転しています。そんな地球が全く動かないエーテルの中を動くのですから、地球の表面では、ものすごい勢いでエーテルの風が吹いているはずです。なぜなら、宇宙空間内のエーテルは動かないことにしましたから。
そういうことも含めて、地球上では東西方向にエーテルの風が吹いていると考えるのは自然ですよね。この東から西に向かって動いているエーテルの中を光が伝わるんだから、東西方向に進む光と、南北方向に進む光とでは速さがちょっと違うはずだって二人は考えたわけです。ということで、速さのズレを何度も測りました。
ただ、マクスウェルが「ズレを測るのは難しいかも」って手紙に書いていた通り、光って半端無く速いんで、速さを測るっていうより、速さのズレで現れる現象を観察したようです。
で、結果は出たんですが、思ったほどのズレは無かった。確かにズレは出てたんですけど、測定誤差の範囲内。ぶっちゃけて言うと失敗だったということです。この失敗実験が発表されると、当時の皆さん結構戸惑ったみたいで、えらい騒ぎになっちゃいました。
それまでは計る人、もしくは計られる物が動いたりしたら、速さはそれだけ変わるのが常識だったのに、計る人や計られる物が動いても光の速さは変わらないって結果が出たもんだから、そりゃあ大騒ぎになります。
で、辻褄合わせのために「ものすごく速く動くと、二つの物の間の距離とか物の長さが短くなるのだ」なんてことを言う人も出てきました。
ここで登場するのがアインシュタインです。若い頃にMMの実験の論文を読んでいたんですけど、そん時はよく分からなかったらしいです。最初の頃はエーテルの存在を信じていたアインシュタインでしたが、でも後になってMMの実験の論文をよ~く読み返して、「エーテルなんて
そんな風に、エーテルで大騒ぎになっている19世紀のことなんですど、チョー面倒臭いことが発見されてしまいました。物質…まあ、大体金属ですけどね。それに光を当てると表面から電子が飛び出しちゃうっつうのが発見されたわけです。これを「光電効果」って言ってて、じゃあ、何が面倒臭いのかって言うと、それまで言われていた「光は波だ」っていう考え方だと、どうしても説明がつかなくなってしまったわけです。
なんで光が波だと説明がつかないかと言うと…まあ、あれです。ん~、なんて言ったらいいんだ?えっとですね、ざっくりと言います。
この現象…金属の表面に光を当てると表面から電子が飛び出すという現象ですね。これって、ある決まった振動数より大きな振動数の光じゃないと電子が出てこないんです。小さな振動数の光をいくら強くしてもダメなんです。小さな振動数の光を強くして長時間当てると電子が出てきそうだけど、やっぱりダメなんです。
まあ、代表して一つ挙げましたが、他にも光を波だとしたらどうしても説明できない現象がこの光電効果にはあるんだそうです。
これを説明したのがアインシュタインでした。光が粒の性質を持つのであればこれらの不思議な現象の説明ができると言ったんです。アインシュタインはこれでノーベル賞をもらいました。
「そうか、光は粒なのか」と早合点してはいけません。ヤングの実験を思い出してください。あの実験は光が波でなければ説明できないんですから。じゃあ結局のところ、光は波なんでしょうか。粒なんでしょうか
アインシュタインは光を「粒である」とも「波である」とも言っていません。「
エネルギーって風とか水の流れのように、切れ目が無いイメージがありますよね。でもエネルギーにも基本となる小さな塊があるはずだっていう考え方があるんです。これが「量子」っていう考え方です。量子には粒と波の両方の性質が見られます。
よく分からないと思います。私もいまいち分かっていません。まあ、とにかく光は「粒」と「波」の両方の性質を持っていると今は考えられているということは、心に留めておいてください。
多くの科学者を悩ませてきた光でしたが、アインシュタインの光量子仮説と相対性理論の登場で、光の研究は新たな時代へと突入することになります。
というわけで、光の研究の歴史の話はここで終わることにします。
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