よくわかるクソ小説までの成功者ルート

ちびまるフォイ

食べ合わせのクソ小説

「ダメだ! まったく思いつかない!!」


ここ最近の俺はスランプだった。

なにを書いてもトイレの落書にしか見えないできで死にそうだった。


そんなとき、1人の男が声をかけた。


「あなたにクソ小説を書いてほしいのです」


「く、クソ小説……?」


「ええ、実はこのサイトに投稿されている作品はどれも面白い。

 それぞれのアプローチ、それぞれの書き方。個性的で充実している。

 それだけに、我々としては選出するのが難しくなっているのです」


「おまえは……?」

「申し遅れました。私、運営といいます」


「……クソ小説なんて書かないほうが良いんじゃないか」


「逆です。クソ小説があるからこそ、良い小説が際立つ。

 刺し身のたんぽぽ。ハンバーグのパセリ。お子様ランチの旗。

 けして、主役にもならないゴミがあるからこそ良いものが際立つのです」


「でもどうして俺なんだ! そんなに俺に才能がないのか!」


「才能がないというか、誰よりも普通なんです」

「いちばん傷つくやつ!!」


「その平凡さはむしろ武器。何も武器がないからこそ、クソ小説が書ける。

 下手にルールや書き方が固定されているとクソ小説は書けません。

 だから我々はあなたに白羽の矢を立てたんです」


「俺に……できること……」


「というか、あなたの前に居た100人が辞退しただけなんですけど」

「やっぱりそういうことかよ」


でも少なくとも自分に期待されている限りは答えたい。

そんなちょろい精神のもとクソ小説制作を受けることにした。


「しかし、どうすればクソ小説なんて書けるんだろう?」


「難しいことは考えないでよいのです。頭をからっぽにして、

 バカなことをつらつら書いてくれればクソ小説は出来上がります」


「それならできそう」


頭をからっぽにして、テキトーになにも考えずに書いた。


これは面白いのだろうか。

キャラは魅力的なのか。

ちゃんとオチがつくのか。


これまで書く前に考えていたあれこれをすべてリセットし、

日記を書くようにダラダラと書き始めると筆は止まらない。


「おお! あんなにスランプだったのに! 次々に先が書ける!」


「見事なクソっぷりです。やはり、我々の目は正しかった!!」


数分で出来上がったクソ小説はろくな校閲されずにそのまま公開。

たくさんの名作ひしめくサイトの一角にたんぽぽのごとく添えられた。


「いかがですか、クソ小説を書いた気分は」


「なんか、わりと楽しいです。

 今まで忘れかけていた純粋に創作を楽しむことを思い出した気がします」


「それはよかった。どんどん続けてくださいね」


運営により専属クソ小説家となった俺は排泄するように

クソ小説を書いては生み出し、書いては生み出し続けた。


なにも考えずに書いているもので、投稿した後で評価がどうなっているか気になることもない。


クリエイト&リリース。


出し切ったあとは、クソ小説を思い出すことはなかった。



……そのはずだった。



>この作品、すごく面白かったです!!


「……まじで?」


自分でも投稿したことを忘れていたクソ小説のひとつが、

引くほどの高評価がついてたことに驚いた。


読み返してみてもクソに染まりきった自分には

どう見てもクソ小説にしか見えないし、評価の意味もよくわからない。


「クソ小説を書こうとしているのに、ヒットしちゃったらまずいんじゃないか……」


あまりの高評価に怖くなったので、クソ化するように続きを書いた。

これがまずかった。


>今度の更新も面白かったです!! 最高です!!


「なんでだぁぁぁ!!」


キャラはボロボロ、表現力はとぼしく、展開もめちゃくちゃ。

それでも高評価は雪だるま上に増えまくった。


先をいくら書いても一旦ついたファンはそう離れない。


必死にクソ化するように書いているうちにクソ小説に愛着に似たものを感じ始めた頃だった。



「……ちゃんとクソ小説を書いてください」


仏頂面の運営がやってきた。


「最近のあなたの投稿は目に余ります。

 高評価をもらって天狗にでもなったんですか?

 あなたはクソ小説を書く人なんです。仕事をしてください」


「い、いやしかし……俺自身もクソ化するように頑張ってみたんです。

 でもいくら書いてもクソ化できなくて……」


「頑張りが足りないということです」


「その、ダメですかね? もうこれだけ高評価なんだし

 無理にクソ化しなくてもいいんじゃないですか」


「バカ言わないでください。1作でもヒットが出ればあなたにファンが付く。

 そうなればクソ小説がクソ小説ではなくなってしまうんですよ」


「いいじゃないですか! 1本くらい!

 俺だって、やっぱりヒット作の1つでもほしいんですよ!!」


「……そろそろ、そんなことを言う頃だと思いました。

 これだから人からの称賛に慣れてない人間はすぐに……」


運営はやれやれと言わんばかりに顔を振った。


「もうあなたには期待しません。我々でこのヒット作は処理します」


「処理するって……何する気だ」


「我々で続きを書くんですよ。

 あなたは作者だ。クソ化しようとしても親心のブレーキがかかる。

 だからちゃんとクソ化できないんですよ」


「待ってくれ! もうヒット作のままでいいじゃないか!」


「約束をやぶったのはあなたでしょう」


運営は去ってしまった。

固定ファンがついて、作品の更新を楽しみにしてくれている。


その人達に見限られるようなことをしてしまうのは失礼すぎる。

どうにかクソ化を止めなくては。


それから、運営は有言実行とばかりに小説へのクソ化をはじめた。

自分の預かり知らないところで勝手に続きが投稿される。


「私、ツンダラ星からきた精霊のミーコ。みんなよろしくポイ♪」


まったく物語と関係のないオリジナルキャラをぶちこんでくる。

それにとどまらず、



>それから10000億年のときがながれた・・・



唐突な未来編がスタート。



(本当の強さとはなんなのか……)


(人間の強さとは、人としてのありかたとは……)


(まるでハンバーグに添えられた温野菜のようなものだ……)



本編がまったく進まないまま主人公の自問自答がはじまり、


「なんかさ、もう……君と一緒にいるのは疲れるんだ」

「俺は誰かと一緒に強くなるタイプじゃないだろう?」

「――そういうの重い」


ヒロインはおろか仲間を見下して孤立させる胸糞展開。


あまりの惨状に目を覆いたくなるクソ化が投稿されるので、

俺は後追いでそれらが面白くなるように続きを書いた。


ウィキペディアも驚く編集合戦は連日続いた。

そして……。


>前よりずっと面白くなりました!

>最近の展開はいつもハラハラしまくりです!

>既存にとらわれない展開で目が離せません!


ファンたちは持ち前の懐の深さをいかんなく発揮し、

いかなクソ展開に舵を切られようとも離れることはなかった。


それどころか、運営によるぶっ飛んだクソ方針がエッセンスとなり

作品に新たな風をいれる結果となった。


やがて運営も諦めたように俺のもとへとやってきた。



「……まいりました」


「わかってくれましたか」


「はい、どうやらヒット作というのはどうクソ化してもクソにならない。

 ダイヤモンドはダイヤモンドなんですね。

 いくら表面に泥を塗ったところでその本来の輝きは失われない」


「クソ小説にできないとわかってくれたのなら、

 これ以上クソに落とそうとするのはやめてください」


「もちろんです。我々も方針を変えることにしました」


「方針を変える?」


「はい、あなたの小説をちゃんとした人気作として後押ししたほうが

 クソ化させるよりもずっと有益であると判断したのです」


「本当ですか!」


「ええ、この作品をうちの看板にしましょう。

 これからあなたには凄腕のアシスタントを何人も置きます。

 情景描写が美しく、表現力ゆたかな凄腕ですよ」


「それは助かります! 情景描写が苦手だったんです!」


「それだけじゃありません。個性的なキャラが作れる人も雇いました。

 あなたの作品にはこれから魅力的なキャラが並びますよ」


「嬉しいです! やっぱりラノベの魅力はキャラですから!」


「まだまだこれからです。軍事、歴史、ファンタジーなどに詳しい

 有識者を何人もあなたにつかせますから、専門知識もつきますよ」


「毎回ネットで調べるよりも詳しいことが書けるんですね!」


「運営もあなたを最大限にバックアップします。がんばりましょう!」


「はい! 必ずこの作品をヒット作にします!!!」


俺と運営は手を取り合って、最高の作品作りへと漕ぎ出した。




 ・

 ・

 ・



「なんか、最近急速にクソつまらなくなったな……切ろう」


豊かすぎる表現力、入り乱れるキャラの渋滞と専門的すぎる知識。

それらが組み合わさり絶妙なテンポの悪さにより読む人はいなくなった。

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