第14話 ゲームセンターに潜むあの女
行列に並んだ末に入手したストロベリーフラペチーノを味わいながら、ショッピングモール内を目途もなくフラフラと散策する。
「やっぱりゆかりを無理にでも誘ってくるべきだったか……一人は退屈だな」
昨夜、『一緒にショッピングモール行こう』と連絡すると、『みっちとデートだから無理』と即断された。
やけくそになって一人で来たはいいものの、やはり退屈だ。
彼女を誘えという話なんだろうが、デートに誘うような勇気はまだオレにはない。チキンだからな。
明らかに自業自得で、鉄面皮なことに気づきながら不貞腐れた。
「こういう時はゲーセンに限るな」
気を紛らわすように、オレはゲームセンターへと足を運んだ――。
***
騒音で店内に流れるBGM、UFOキャッチャーの動作音、コインが擦れて鳴る音、アーケードゲームから聞こえてくるキャラのボイス。
長時間そこに居れば頭痛に見舞われたり、ストレスが溜まって仕方ないだろうゲームセンターの騒音がオレは好きだ。むしろ精神安定剤。
小学生の頃に父に連れられ、UFOキャッチャーという存在を目の当たりにした瞬間からゲーセンに熱中した。
それからアニメが元のカードが排出されるアーケードゲームにハマり、音ゲーなんかにも手を出した。
未だに止められない、もはや中毒者と言っても過言ではない。ゲーム好きなら一度は通る道だろう。
煙草や酒なんかと同じで金は必要だが、身体に害はないので幾分かマシだ。
「おっ、ジャンヌのぬいぐるみ」
目敏く反応した。
数回程度だが課金もしたスマホのソシャゲー。グランドファンタジーに出てくる強キャラのぬいぐるみが、UFOキャッチャーの景品にされていたのだ。
「よし」
試しにと、100円玉を5枚投入する。
ワンプレー100円だが、親切なことに一度に500円入れればプレイ回数は6回に増加される。
もし途中で景品が獲得出来れば、店員さんに申し出て他の筐体に残数を移してもらえるので、オレは初めに500円投入するタイプだ。
野球ボールくらいの大きさのカラーボールが敷き詰められて、その上にジャンヌが置かれている。
よくあるやつで、カラーボールにアームが引っかかり力が弱まることが多発するタイプだ。なので、最下点までにアームを止めて上手に持ち上げることが重要になってくるのだが――
「あー、くっそ」
少しだけ宙に持ち上げられ、無残にも落とされた。
それから2回目、3回目とプレイしていくも取れる気配が見えず、胸が炙られるような焦燥感を抱く。
「おいおい……あと3回しかないってのに……」
元より、500円で手に入れれるほど自分に自惚れてはいないが。
UFOキャッチャーの達人らは、ドン引きするくらいチップを賭けずに勝ってしまうが、オレにはそんな技量はなかった。
「はぁ……沼にハマる前に止めておくか」
オレは最悪の事態を懸念して、財布をカバンにしまい込んだ。
簡単に手にできる所にあると、必ず財布の口を開いてしまう。それによって、何遍もコインを吸い取られたあの日をオレは忘失していない。
馬鹿の一つ覚えみたく、財布が空になるまで金を投入する小学生とは違うのだ。
「これでラスト……」
プレイ回数はオレを早く立ち去れと言うかのように、1と表示されている。
ゴクリと息を飲み、操作ボタンを押す。
頼む……!!
アームがガチリとぬいぐるみを掴み取り、そのまま固定されて排出口まで移動され――
「よっしゃ――っ!!」
――ストン。オレの困難など微塵も気にしないように落ちた。
取り出し口に腕を突っ込み、回収する。
口角が自然と上がったのが自分で分かる。
やったぜ! オレ、これを嫁にして暮らすんだ!
戦闘服で身を纏い、自国の旗を掲げているポーズをとるジャンヌ。別名、処女。
絢香と似てるなぁと思いつつ、オレはぎゅっとジャンヌを抱き締め先ほどのフラペチーノを飲みつつ店内を回ると、ふと過去に遊んだゲームを見かけた。
「太鼓の名人か」
大きな太鼓が二台取り付けられ、その先にゲーム画面を移すディスプレイが設置されている。
流れてくるノーツをその通り正確に太鼓を叩くゲーム。それが太鼓の名人だ。
「懐かし、やるか」
荷物台にカバンとぬいぐるみとフラペチーノを置き、金を投入する。
ワンクレジット100円、3曲プレー。
地方のゲームセンターでは100円で2曲の所もあるため、ここは良心的だな。
なぜ詳しいかって? 一時期、太鼓ガチ勢だったからな。
小学生の頃から始まり、その頃はただの遊びだったが年齢を重ねる毎に徐々に上達していきガチるようになってしまった。何かに熱中すると、真剣にとことんやり尽くしてしまうタイプだ。
「まだ挿入されてるんだな、夏祭り」
一昔前の名曲。
一時期、子供らが夢中になってプレイしていた曲。
『夏祭り』を選曲し、難易度を選択する。
「もち、おに」
『かんたん』『ふつう』『むずかしい』『おに』と四択あり、かんたんが文字通り一番簡単で、右肩上がりに難度がレベルアップしている。
『おに』はかんたんの比ではない。
曲が始まり、序盤は簡単な譜面が流れてくる。
久しくプレイしたため、やはりと言うべきか感覚が訛っている。最高判定で叩いているつもりだが、皮肉にも中間の判定やミス判定の表記が現れる。
「…………くそ」
怒り心頭に達したオレは、バチに思いきし力を込めて太鼓にイライラをぶつけた。
脱力こそがプロの技なのだが、そんなのはお構い無しだ。どうせオレは引退勢。なんならココ最近のストレスを全部ぶつけてやる。
ドンッ! カッ! ドンッ! カッ! カッ!
観衆が目を惹かない、体裁の悪いプレイだ。
何やってんだろうな、オレ……。
唐突に襲われた後悔の念と虚無感で、自然と腕の力が抜けた。
そしてサビに突入した――
「オレ、上手くね?」
そう独り言を呟くくらいには、サビに入ってから最高判定の文字が途切れず表示されるのだ。
全盛期の頃の感覚を掴んできたのか、はたまた力が抜けたおかげか。またはまぐれか。
どれでもいいが、とても気分がいい。
オレの心を読めるやつが居たとするなら、なんてご都合主義の奴だと蔑まれるだろう。それくらいの自覚は一応ある。
「オラァァァァァッ!」
ラストパートに達し、超連打ノーツが視界に映る。
雄叫び――まではいかないが、それなりの大声で気合を入れた。
「よしっ!」
ミスは出さず、必死の思いでコンボは繋げれた。上出来だろう。
「ふぅ」と息をついた所で、オレは背後から声をかけられた――
「菅田先輩、お上手なんですね」
ファンか何かからの褒め言葉かと思ったが、即否定される。
振り返るとそこに居たのは、あの女だった――。
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