第13話 最高のネ友

 絢香とは良好な恋人関係を築きながら、四月も終わりを迎えようとしている。

 ゆかりとみちるにはパフェを奢らせたり、絢香には何度か刃物を持たれかけられたりもしたが、何だかんだ充実した日々を過ごせていると思う。


 これがリア充ってやつか、と感慨深い気持ちに浸りもした。

 だがしかし、依然として学校内ではオレらの噂が絶えない。針の筵状態というのもしんどい。


「はぁ……」


 心の疲労が溜まりに溜まって、人通りの多いショッピングモール内で大きなため息を零した。


 オレはもう直にゴールデンウィークを迎えるため、衣服の買い足しに来たのだ。


 ファッションには気を遣う、オシャレは大事。

 冴えない奴、モテない奴は服装と姿勢、それから表情とコミュニケーション能力を直せば顔が悪くとも大概恋人はできる。


 学校で「モテる奴っていいよな」って嘆いているのを目にすると、モテる努力をしていないだけだろうと常に思う。


 そんなこんなで、オレは流行りの服を比較的リーズナブルな値段で販売する学生の味方、ウィーゴという名の店へと足を速める。


 なぜ速めたかって?壁に貼り付けてある映画の広告のポスターに映っているキスシーンが気に入らなかったからだよ。


「ふっ……リア充なんて滅んでしまえ……」


 妬みやブーメラン発言だということは承知の上だが、自然と口から漏れてしまった。


 だって……もう付き合い始めて、かれこれ一週間以上経ったのに! チューをしていないんだぞ! 恋愛の神様!? どうなっているんですか!?


 次はキスするまでの恋愛計画ノートでも作ってやろうかと悩んでいると、目的の店へと着いた。


「相変わらず、いい商品を揃えてんな」


 店頭には三体のマネキンが迎えでるように置かれている。


 一体目はベージュ色のカラーシャツに、黒のスキニーパンツを履いた男マネキン。

 二体目も男マネキンで白Tシャツの上に、オーバーサイズのチェック柄ジャケットを羽織り、ズボンはグレーのワイドパンツを履かせている。

 三体目は女マネキンで、白色のパーカーに大きく描かれた赤のバラに、黒のレギンスを履かせている。


 どれもオレの好みだな、女物は着ねーけど。

 流石は流行りの最先端を追っている学生向けブランドだ。


「いらっしゃいませー!」と快活な店員の声が店内に響き渡り、オレは自然とテンションが上がって愉快に徘徊した。


「……お、あったあった」


 オレはあちこちに視線を回し、探していてアイテムを見つけた。

 半袖のカラーシャツ。長袖バージョンは既に所持しているのだが、半袖の方はこの時期になってようやく出回り始めたのだ。


 カラーはベージュを選択し、サイズはLを選んだ。

 今の時期ならロンTの上に羽織るのもありだな。と言っても、日中は大分暑くなってきたので半袖でも全然過ごせそうだが。


 カゴにポイッと放り、オレはアウターのコーナーへと訪れた。


 半袖の上から羽織る、薄手のアウターさえ手に入れればオレの買い物は終了する。

 ぐるっと舐めますように見渡し、それは目に付いた。


「いいな、これ」


 自然と手に取ったそれは、ロングスリーブコーチジャケットだ。

 先ほどのベージュ色の半袖カラーシャツの上に羽織っても、この真っ黒なコーチジャケットなら抜群に相性がいいだろう。

 それに、ロングスリーブということもあって萌袖男子になれる。可愛すぎる、神だ。


 即買いを決め、これもカゴの中に放った。


「もういいか」


 脳内で欲しい物リストから詮索したが、これ以上は該当しなかった。

 レディースの方も絢香とデートするかもしれない時に備えて、一応品揃えだけ確認しに向かった――


 のが失敗だった。


「……アイツ、確か」


 見覚えのあるシルエットに、目を糸のように細めてじっくり観察した。


「あの時のサクラ色のパンツちゃん……」


 そう、名前こそ知りえないが先日廊下でぶつかった相手だ。

 155センチ程度の身長に、姫カットと整った小さな横顔。クルーネックの白Tに羽織るブラウンカラーのリネンブレンドダブルジャケットが大きく目立ち、アウターと同じカラーのミニスカートから細々と伸びる綺麗な脚に目が惹き付けられる。

 チャコール色のレザーリュックもまた、彼女の上品な雰囲気を手助けしていた。


 一般人であれば心の第一声は「可愛い」であるだろうが、オレは「なんでここに居るんだ」と不吉な気分になる。


 鉢合わせるとそれはそれで面倒だな……。


 オレは影のように静かに動き、レジへと向かった――。



 ***



 オレは只今、ウィーゴと名前がプリントされた袋を片手に、もう片腕にはトートバッグを掛けている。

 本日の服装は黒のスキニーパンツに、赤色のパーカーとシンプルなコーデをしている。


 誰かと遊びに行くわけではあるまいし、まぁいいかと適当に選択した。


 服は買い終えたので、オレはスターカフェへと訪れた。


「うへぇ……結構並んでるな」


 学生から主婦まで幅広い年齢層に人気なそのカフェは、休日ということもありごった返していた。

 しかも、一昨日に新作のストロベリーフラペチーノを取り扱い始めたばかりなのだ。この混み具合にも納得がいく。ちなみにオレもそれ欲しさに並び始めた。


 20分程で買えるかな〜と予測し、オレはスマホをチェックする。

 多数の人から――正確には3人からだが、ラインが送られてきていた。


 うち二人は絢香とゆかりで、もう一人はみれいだ。


 絢香とゆかりのラインは放置し、みれいのトーク画面へと移る。

 みれいとのラインが、ココ最近の命の洗濯だ。みれいの連絡先まで絢香に削除されていたら、完全に鬱状態に陥っていただろう。


『ゆうま君、今日はお出かけしてるんだ(≧▽≦)』

『奇遇だね、オレもだよ〜』

『おおー! 同じだ! わたしはさっき服買ったよ!』


 ピロリンという通知オンと共に、写真が送られる。

 すかさず確認すると、そこに映っていたのはオレが手にしているウィーゴの袋と同じモノで、その隙間からチラ見程度で窺えるのはレディースの服だった。


 本当に女子だったんだな、みれいって。

 別段ネカマなのかと疑っていた訳では無いが、確証を得られて心がどことなくスッキリした。


『いいなー! 今度見たいなー、なんて(笑)』

『えへへ、ありがと! 考えとくね(笑)』


 彼女が嬉しそうにしている所を割って入るのも失礼なため、オレも買ったよなんて野暮な容喙はやめておいた。


 それから、今はこういう服が流行ってるよねなんて学生らしい会話が続いた。


 ゲームから繋がったネ友だが、オレは本当に最高のネ友と巡り会えたのだと思う。

 趣味の話題だけではなく、ファッションなんかにも融通が効く。それでいて人の話はちゃんと聞くし、相談にもしっかり乗ってくれる。


 死ぬまで友達で居たいと唯一願うネ友だ。


 そんなこんなでやり取りは注文の番が来たため、中止してスマホをポケットへしまい込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る