第2話 お泊り会
そんなある日、「お泊り会」なるものがあると、母から知らされた。仲の良いお友達の家へ2~3人で行って泊まるというものらしいのだが、俊太もやりたいと言っているという。
朝食の席で俊太に確認してみる。
「俊太、お泊り会やりたいんだって」
「うん、ケンちゃんと、よし君とマミちゃんを呼びたいんだ。ねえパパいいでしょう」
俊太のけなげな視線に戸惑う。
「女の子も呼ぶのか?」
「大丈夫よ。いいわよ」
私が応える前に、母が答えていた。
「じゃあ、いいけど。おばあちゃんの言うことをちゃんと聞くんだよ」
「うん。じゃあ、いいんだよね。やった-」
俊太の喜ぶ顔を見ていると、やってあげたくなる。
金曜日の夜に泊まって、土曜の昼ごろに解散となるようだ。
その金曜日の夜、私が帰宅できたのは、午後8時過ぎであった。子供たちはまだ起きていて、俊太の部屋でゲ-ムをしているようであった。学校からの伝達で、遅くとも午後10時までには寝かせるように言われていると、母が言う。ただ、子供たちは興奮しているので、すぐには寝られないから早目に何回か寝るように指示して、結果的に10時頃には寝るようにさせるのだと、母は準備をしている。
午後9時半になった頃、子供たちもようやく寝る体制に入ったようだ。しばらくすると、俊太の愚図る声が聞こえてくる。子供同士で喧嘩でもしているのかと心配になったが、母が部屋に確認にいったところ、俊太がいつものように、小さな、すでにかなり汚れた布団を口にくわえ、しゃぶろうとした時、唯一の女の子のマミちゃんに「いやだ、まだそんなのくわえているの」と言われたそうだ。女の子はませているので、十分あり得ることだった。
「そうか、で、どうしたらいい」
対処の仕方がわからぬ私は母に聞く。
「大丈夫よ。大人が出ていくことじゃないから、あのままにしておきましょう」
私は少々不安であったが、母の言葉に従うことにした。その後も、しばらくは俊太の声が聞こえてきたが、やがてそれもなくなった。みんなが寝静まった頃を見計らって、私は俊太の部屋を覗いてみた。すると、俊太のいつもの布団は、俊太の側にはあるものの、口にくわえてはいなかった。
翌日の昼過ぎに、友達が帰った。友達の見送りから帰ってきた俊太が私のところへ来て
「パパ、あの布団もういらないから」
と得意げな顔で言った。
「そうか、偉いな、俊太」
私は俊太の成長が嬉しかった。だけど、これで妻と俊太を繋いでいてものが一つもなくなってしまったようで、悲しくもあった。
私は妻に報告をしようと、仏壇へと向かった。妻の遺影をみながら、私は昨日から今日にかけての出来事を少しの悲しみとともに語りかけていた。すると、俊太が私の顔を見て
「パパ、なぜ泣いているの」
と聞く。
「半分嬉しくて、半分悲しいからさ」
私の答に
卒業 シュート @shuzou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます