カクヨム

高梯子 旧弥

第1話

 カタリは海にいた。

 しかしそれはカタリの想像する海、海水で満たされたようなものではなく、数字やカタリには解読できない無数の文字列で満たされていた。

 ここが電子の世界だと教えてくれたのはバーグという可愛らしい女の子だった。

「カタリ様は何でここにいるのですか?」

「わからない。何か変なトリに呼ばれて気が付いたらここに」

 カタリは配達の仕事の途中にトリと出会い、ここに辿り着いた。

「そうなのですね。そのトリ様は何か言ってませんでしたか?」

「えっと、確か物語を届けるのがどうとかこうとか言ってたような」

「それがわかっていれば充分です。あなたは『詠み人』に選ばれたのです。」

「詠み人?」

「はい。あなたはここで様々な物語を救う仕事に任命されたのです」

「え、でも僕活字とか苦手なんだけど」

「大丈夫です。私もできる限りのサポートはさせて頂きますから」

 バーグの可愛らしい笑顔に心惹かれてしまったのか、はたまた別の使命感からなのかわからないけど、よく理解していないうちに現状を受け入れてしまうカタリ。

 こんな異世界転生モノのアニメのような展開をアニメ好きなカタリだったら心躍ってしまうという要因もあるだろう。

 とりあえずすべてを受け入れる。そして次に何をすればいいのか考える。

「カタリ様にはまずこの空間に慣れて頂くのがよろしいかと」

 そう言って手元で何やら操作を始めるバーグ。カタリは隣でその風景を眺めていた。

「これでよし」とバーグが言ったとき、辺り一面に文字列がすごい勢いで表示された。

 カタリは驚いてよろけそうになるが何とかこらえる。

 そしてよくよく見てみると、それらは一つのまとまった文章のようだった。

「これは?」

「これらは『カクヨム』に投稿された作品の数々です」

「カクヨム?」

「はい。小説や童話、エッセイなど様々なジャンルの文章作品を投稿するサイトになります」

 そう言って一つの作品を手に取り、カタリに渡した。

 それは活字が苦手なカタリにもすんなりと理解できる小説だった。

 カタリは今まで小説などほとんど読んだことがなかったので、こんなに面白いものなのかと驚いた。

「それらを創っている作者様方のサポートをしているのが私、リンドバーグです」

「え、じゃあ僕の仕事って」

「はい。この世界に溢れる物語の中から究極の一作を見つけ出すのです」

 作品なんていくつあるのかもわからない。

 究極の作品なんて人の定義次第ではいくらでも変わってしまいそうな曖昧なものをこの中から、あるいはこれから生み出されていく作品から見つけ出す。

 それは途方もないことのように思えたが、不思議とワクワクしているのも事実だった。

 カタリが今まであまり関わって来なかった小説の善し悪しがわかるのか不安でもあるけれど、それ以上に楽しみでいっぱいだった。

 さっき感じた高揚感。

 あれをこれから何回味わうのか。もちろん、カタリに合わない作品もあるだろうけれど、それを含めてこの仕事なのだろうとカタリは思う。

 これからバーグと物語の作者、そしてカタリ。この三組で究極の作品を創りだし、世界に届けるための物語が始まった。

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