第14話 人は石垣、人は城

「あれ、本部店舗が引き上げていく?」


 店長の春樹は向かい側の<8-12>本部の一夜城店舗が大型トレーラーに収納されてる様子を呆然と見ていた。  

 その日は「神沢町祭り」の二日目である。

 ちょうど三連休の中日で一番、人出が多くなりそうだった。

 神沢町の住民たち、老人会、婦人会の焼きそばなどの飲食テント、売店も設営されてにぎやかである。

 隣町からもお客さんが押しかけて、今日も日販一千万は超えそうである。

 本部一夜城店舗の弁当などは昨日の午前中には完売し、本部の特注大型トレーラーで新しい食品が野外テント店舗と村上一家のコンビニに運び込まれていく。


「アレ、ソウイウ シクミダッタンダネ」


 グエンさんは最近、日本語が上手くなっているようだ。


「なるほどね。ああやって店舗を移動してきたのね」


 副店長の妙子はしきりに感心してる。


「まあ、とにかく、今日も頑張ろう!」


 絆のテンションは高い。

 やっと商売の面白さを分かり始めていた。


「そうです。その調子です」


 AIの妖精ルナがスマホ画面の中で微笑んでいる。

 絆のスマホの常駐アプリとして、絆を立派な経営者として育てるためにサポートしていた。


 弱者のランチェスター戦略、それは大資本の大企業に零細企業が勝つために、少ない資源を狭い地域に投入し、一点集中、一点突破する戦略であった。

 今回の場合は、村上一家のコンビニの商圏である神沢町という狭い地域の住民を全部、味方につけるという有り得ない戦略だったが、それは弱者のランチェスター戦略の理想の形だった。


 現に零細企業コンサルタント栢野克己氏の著書には、「福一不動産」という会社は周辺の博多の飲み屋街の住人を集中的に顧客として成功している事例もある。

 「香醋こうず」や「にんにく卵黄」で通販に特化して成功した九州の「やずや」の事例もあるが、この戦略はサントリーなどの大手飲料メーカーの健康食品部門に真似されている。だから、まだ立ち上げたばかりの大企業の新規部門やベンチャー企業などにも適用できる。

 フリマアプリで成功したメリカリなどは言わずもがなだが、ネット通販に特化して成功したアマゾンや楽天、ソフトバンクなども分かりやすいシンプルなビジネスモデルを提示して一点突破の弱者のランチェスター戦略を取っている。実はビジネス成功の基本戦略とも言える。





      †





「おじいさん、スサノオ様の頃のことを思い出しますね」


 神沢福子は婦人会の売店後ろのテーブルで緑茶を飲んでいた。

 神沢家の特殊能力で数千年前の先祖の記憶を引き継いでいる。

 祖先の記憶を、まるで我がことのように思い出したりすることがある。

 一説によると、神沢家は火星から渡来してきた古代火星人だとという都市伝説もある。


「そうじゃの。あの頃は良かった。今は<人工知能A I>とやらが人に取って替わるというから世知辛い」


 神沢仁は大きなため息をつく。

 そう言いつつも、福子がつくった焼きそばを美味しそうに食べている。


「でも、ルナちゃんのようないい子もいるじゃない。AIも捨てたもんじゃないと思うわ」


 気難しい仁とは対照的に、福子はいつも楽観的である。


「そうだな。あのルナは不思議な子だな。『人は石垣、人は城』という信玄様の言葉でわしを説得してきた時は驚いた。まあ、そこがAIの怖さでもある」


 仁はやはり疑り深い。

 この性格は一生、直りそうもなかった。


「あの子がどうしてこの片田舎のコンビニを助けたかは分かりませんが、あの子が人の心を分かろうとしてることは伝わってきます」


 福子は売店に食品を届けて働いている絆の後姿を微笑ましく見つめていた。









(あとがき)



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人は城、人は石垣、人は堀:武田信玄

http://moe-maxim.com/hitoha-shiro/

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