第13話 ドミナント戦略崩壊
「一体、どういうことなんだ? 日販五万円だと?」
本部統括SVの佐藤はPOSレジから吐き出されてくる売上伝票をみて絶句した。
その日の<8-12>本部の一夜城店舗の各店舗の全売上げがその金額である。
しかも、向かいの村上一家のコンビニでは「神沢町祭り」まで開かれて、神沢町の住民のみならず、町外からもお客が殺到して、野外テント売店の売上げは八百万を超えて、店内販売まで含めると日販一千万を超えていた。
「佐藤さん、この神沢町の大地主である神沢の爺さんを敵に回した時点で、わしらに勝ち目はなかったんだよ」
村上一家の店舗担当SVの早坂は白髪まじりの頭をかいてタバコを吸っている。店舗内は禁煙なのだが、お客もいなくて暇すぎた。
今年、五十歳のベテランで、このコンビニの裏も表も知っていた。
そこは<8-12>本部の一夜城店舗の本部店であった。本丸と呼ばれている。
「だが、あの神沢仁という老人はこの土地を喜んで売ってくれたし、隣町の住民までこちらの店舗に買いに来ないのは何故だ?」
佐藤は納得できない表情で、早坂に疑問をぶつけた。
「それはご存じないかもしれませんが、神沢の爺さんは旧島根の『島根神沢銀行』の創業者で、孫が現『神沢中国四国九州銀行』を経営していて、実質、西日本は神沢家の息がかかっています。もはや伝説ですが、何でも縄文時代以来の古い家系だそうで、古代の九州の隼人と吉備(岡山県、広島県福山、兵庫県西部)と出雲(島根、鳥取)の連合王国の盟主だそうです。親戚だけでも数百万人で西日本の行政関係の首長はほとんど神沢家の親戚です。東日本ならともかく、少なくとも西日本では全く勝ち目がなかったのです。ただ、現内閣総理大臣の安東要氏も親戚らしいですが」
「日本の古代氏族の末裔か。なるほど、勝てぬわけだ」
佐藤は最後には声を上げて笑った。
「ちなみに、早坂、お前は?」
「東日本の神沢家の分家です」
「最初から神沢老人に頼まれたていたスパイか?」
「そんなところです。残念ながら、今日で<8-12>のSVは辞めさせて頂きますが」
早坂は懐から出した辞表を佐藤に渡した。
「仕方ないな。ただ、筋は通させてもらうぞ」
佐藤は真剣な眼差しで早坂を睨んだ。
「契約解除ですか? 違約金二千万ぐらいですか?」
最初から予想してたようだ。
「いや、三千万だ。この本部店舗の土地の買い戻し代は三千万ぐらいでどうだ? 元々、一億円かかってるので、まあ、大目にみてくれ」
「了解しました。それでも大幅な赤字ですね。お察しします」
ということで、村上一家のコンビニは契約解除にはなるが、土地店舗などは残ることになった。
大人の交渉と戦いの決着はたった一日でついた。
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