シーン4
『邪魔するよ。園長先生はおられるかね』
背の高い三十男が、かけていたサングラスを外して、丁寧そうに、それでいて十分に低音を聞かせて、玄関で言った。
ジャージ姿の若い男が出てきて、三人の姿を見ると、慌てて奥に引っ込んだ。
『園長は今所用で出ておりますが・・・・?』
そういいながら出てきたのは、恐らく年齢からすると70代はとうに越しているだろう。
真っ白になった頭髪をショートカットにし、クリーム色のセーターにジーンズ、それにチェックのエプロンをつけている。
顔立ちは丸顔で、確かに年相応に皺はあったものの、面影は昔と変わらなかったので、
(五条則子だ)と、すぐに察しがついた。
『あんたは?』
背の高い男が見下したような口調で言った。
『ここの副園長をしております』
数人の小さな子供たちが彼女のエプロンや足にしがみついて、こちらを不安そうに見上げていた。
『どうします?』
のっぽは後ろを振り返ると、デブに訊ねる。
デブは口に咥えた煙草を玄関に落とすと、上着のポケットから一枚の書類を取り出した。
『期限が来てるんですよ・・・・借金のね。半年前にこっちで貸した。元利合わせて6百万・・・・どうしても返して貰わんと困るんですがね』
『利息の方は先月お返しした筈ですが?』
『何を言ってんですか?あんなもん半額にも足りやしませんよ。
それにね・・・・この借用書には、半年後には元利合わせて返済しますと、ほれこの通り、こちらの園長さんの実印まで捺してあるんですがね』
丁寧そうな口調だが、ドスが効いていて、梃子でも引かないという態度だ。あくまで強面で押しまくるつもりらしい。
『もし返せない時には土地ごとこちらに明け渡してもらいます。一両日中にね?』
『おう、婆さん、払うものはちゃんと払った方が身のためだぜ!』
隣に立っていたのっぽが凄む。
『お支払いしないとは申し上げておりません。ただ今すぐには無理ですと申し上げているだけです』
『ざけんなよ、コラァ!』
ベンツの運転手のチンピラが怒鳴る。典型的な虎の威を借るなんとやらだ。
しかしあの女性、肝が据わってるな・・・・俺は少し驚きながら声をかけた。
『そこまでにしといたらどうだ?』3人の目が後ろの俺を見た。
『なんだぁ?てめぇ』
『別に何でってこともない。俺は別口でここに来たんだ。』
そういいながら俺はジャケットを捲り、脇に吊るした拳銃を見せる。
『その借金とやらが何だか知らないが、俺の見る限りあんたらのやってるのは明らかに恐喝だぜ?ここでもし警察でも呼んだらあんたらのもっと上の方に話が行くだろう?それにあんたらのそのバッジ・・・・確か〇×組だろう?ついこの間大騒ぎを起こして親分がひっくくられたっけな?ここでまた何かやらかしたら、代理をやってる姐さんとやらまで・・・・』
『あ、兄貴・・・・』
のっぽとチンピラはデブの方を見た。
『・・・・おい、行くぞ!』デブはくるりと振り返り、二人を引き連れて玄関から出て行った。
『あ、有難うございます。でも貴方は一体どなたですの?』
五条則子は俺に向かって頭を下げながら、不思議そうな眼をした。
俺は黙ってポケットから探偵免許とバッジを取り出して彼女に見せた。
『探しましたよ。五条・・・・いえ桐原佳代さん』
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