第62話 火炎龍VS混沌
朧に殺され、三度目の復活をしたセイネリア・スペクターは残されたダンジョン内で気怠そうに独り言を呟いていた。
「あ〜あ。朧君を逃がしちゃったよ〜! ケイオス君とコール君にまた小言を言われるのもヤダし、このままバックレちゃおっと!」
元々セイネリアの目的は時間稼ぎだったが、予想以上の力を得ていた朧に好奇心が芽生える。
「さすがは神龍様の息子だよねぇ……うん! やっぱり今殺すのは勿体ない!」
蒼刃の大鎌を
三体の深淵龍は仲間ではなく、『ただ面白そうだから付き合う』程度の意識しか持ち合わせていないのだから。
__________
朱厭、妲己、シルフェは朧よりも先に脱出した分、一刻も早く里に戻り、カティナを守ろうと大地を疾走していた。
妲己は天狐の姿になる事で敏捷をカバーしている。
ーーそして、里が近付くにつれて飛び込んで来た光景は想像を絶するものだった。
遠目でも分かる程の漆黒と赤熱の二体の巨龍が、王城の上空で互いの首元に牙を食い込ませていたのだ。
「あれは火炎龍様⁉︎ それならもう一体が
「王自らが迎え討つとは、兵士達は何をしているのだ!」
「二人共! わっち等はご主人様の望みを叶える事に集中するんよ!」
意外にも、この中で一番冷静に状況を判断していたのは妲己だった。
朧にカティナの護衛を頼まれたのだからと、深く意識を集中させている。
シルフェと朱厭は諭されると、そのまま一瞬だけ視線を交えつつフレメンズの里の門を抜けた。
だが、その時に漸く兵士達がいない理由を知る事になる。
「こ、これは……里で一体何が起こったの⁉︎」
「……分からぬ」
そこには里の兵士達だけではなく街民までもが、まるで身体の内部から凍りついたかの如く不自然に動きを止めていたのだ。
中には血を流して倒れている者もいたが、四肢が千切れ飛んでおり、外傷から既に事切れている。
シルフェは恐る恐る固まっている兵士の首元に指を添えると、まだ温もりを感じ取れた。
その事実が更に頭を混乱させる。
「生きてはいるみたいだけど……彼等がどんな状態にあるのか分からないわ。先に巫女様の元へ向かって事情を聞きましょう」
「了解だ。まずは無事を確認せねばな」
「わっちは嫌な予感がするんよ。こんな事が出来る敵がいるって想像しただけで、尻尾が震えるんよ」
「私も怖いですよ。でも、グレイ坊っちゃまを悲しませたくないですしね」
「……うん。わっちも頑張るんよ」
シルフェにそっと肩を叩かれて、妲己は覚悟を決める。
朱厭は先に走り出しており、元から強者と相見える事に高揚していた。
「我は主人の期待に応えてみせるのだ!」
神獣としての矜持が肉体に力を漲らせる。だがこの時、朱厭は自分が大きなミスを犯していた事に気付いていない。
ーー
__________
「俺の里をよくも滅茶苦茶にしてくれたなぁ、この駄龍共がっ!」
「……弱い事、それそのものが罪」
「何言ってんのか聞こえねぇよ! 男ならハッキリと喋りやがれ!」
「……疲れるからヤダ。それに、弱者はどうせ死ぬから会話しても無意味だよ」
火炎龍ダリアン・グレンは激昂していた。
最初にこの漆黒龍が姿を現したのは、周囲の警戒を自分に引き付ける為なのだと知る。
だが、事態は既に手遅れな状態まで詰んでいたからだ。
一体だと思い込んで先走り、龍化して王城から飛び出した直後、一瞬で民や兵士達が動きを止めた。
そして、まるで人質の見せしめだと言わんばかりに数十名の兵士達が、この龍から放たれたブレスで殺害されたのだ。
「クソがあああああああああああああっ!!」
「……煩いのは好きじゃない。少し黙らせるか」
火炎龍の灼熱のブレスと、漆黒龍の闇を吐き出したブレスがぶつかり合い、相殺される。
続けて振り下された黒爪を尻尾で防ぐと、ダリアンは極大の炎の塊を脇腹へと捻じ込んだ。
だが、カウンターで首元を噛み切られて出血する。
互いの硬い龍鱗が決定打を与えぬまま、少しずつダメージだけが蓄積される中、
一度背後に退くと、漆黒龍はゆっくりとその様相を変貌させていく。
両前脚に周囲を渦巻いていた闇が覆い被さると、火炎龍が見た事もない姿形へと変形したのだ。
ーー巨大な多銃身式ガトリング砲へ。
「……流石は四龍の一体であるダリアン・グレンだな。弱者にしては良い線をいっていたぞ。フハハッ! 『混沌』のケイオス・ガンスリングの本気が見られる事を歓喜するがよい!」
徐々に口調まで変わっていくケイオスの様子を警戒しながら、ダリアンは収束した炎のブレスで一気に勝負をつけようと炎を溜めていた。
「おいおい、いきなり元気になりやがったな。ーーそんな玩具みたいなもん、粉々にぶっ壊してやるぜ!」
「フハハッ! 無駄だよ無駄ぁっ! 神格スキル『
ーーズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!
両前脚を突き出すと、ケイオスは無数の銃弾を撃ち放った。
同時にダリアンはブレスを吐き出して弾を無効化しつつダメージを与えようとするが、次の瞬間全身に激痛が迸る。
「グヌゥッ⁉︎」
「弾は無限だと言っただろう? ほら、次は右脚だ」
ケイオスは口元を弛めながら、嬉しそうに炎の結界の隙間を撃ち続ける。
対してダリアンは一度態勢を立て直そうと上空に飛んだ。
「それは悪手だぞ?」
両腕を組むようにしてガトリング銃を構えた深淵の一体は、終わったと言わんばかりに羽を仕舞って大地へ降りていった。
ダリアンが一体何故だと疑念を抱いている所へ、無数の見慣れぬ楕円形の物体がいくつも降り注ぐ。
「土龍の龍鱗で作った破片手榴弾だ。存分に味うと良い!」
「グアアアアアアアアアアア〜〜ッ!!」
巨大な爆発音が轟くと、火炎龍は全身から出血しながら地に墜ちた。
ケイオスはその様子を見つめながら、人化して地面に座り込む。
『……やっぱり戦いって疲れるよ。充分時間は稼いだし、対象まで撃破したから早く帰って寝たいかも。さっさとしなよコール?』
ケイオスは耳元を抑えると念話を送る。だが、数分後に返事が来た時にはもう敵地で居眠りしていた。
『ありがとうケイオス。でも、こちらはもう終わる所さ。姉さんは手に入れた。あとは姉さんをこんな脆弱な存在まで落としたゴミ野郎を潰すだけだね』
半分夢心地の中でケイオスは思った。
「シスコンvsマザコンの戦いかぁ。ちょっと面白そうかも……」
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