【第4章 深淵龍、襲来!】

第58話 八歳になりました!

 

 ーー俺はこの頃、夢を見る。


 黒い影にママンが氷漬けにされ、俺は血塗れになりながら地面に這い蹲っている。

 周囲には兵士達の死骸が積まれ、その中には信じられない事にシルフェまでいた。


「ころ、す!」

「アハハハハハハッ! 無理無理無理無理無理無理〜〜! だってさ、君弱いんだもん。愛しいママンを奪われた気分はどうでちゅか〜? ほら、このまま僕が右手に力を入れれば簡単に砕けちゃうんだぜ?」

「やって、みろ。死なすだけ、じゃ……すま、さんぞ」

「おぉ、怖い怖い。ーーでも残念だね。姉さんは僕の、そして龍族の宝物なんだ。決してお前みたいな俗物が触れちゃいけないんだよ。なぁ、薄汚い転生者め!!」


 次の瞬間、俺は漆黒の刃に心臓を貫かれて終わる。


 数週間前からずっとこの終わり方だ。これは俺の不安が見せる夢なのか、まだ一度も発動していない水氷龍から受け継いだ『予知夢』のスキルの影響なのか、判断がつかなかった。


 でも、明らかにバッドエンドだ。どうしたら防げる? 何で俺は負けるんだ? 


 ーーコール・タイムウェル。


 カティナママンの弟。最強の深淵龍アビス


 俺は絶対に負ける訳にはいかないのに……


 __________


「ふああぁぁ〜〜っ!」

「おはようございます。坊っちゃま」

「んっ! 今日も一日頑張るか」


 内心では焦っていたが、俺は決してそれを表には出さない様にした。成長の速度は人それぞれに違う。

 自分の物差しで他人を計ってしまう指導者の末路に信頼関係は生まれない。


 それは生前の経験から良くわかってる。

 性善説と性悪説、どちらも否定しないけれど、俺はずっと性悪説に生きていたと思う。


 だから、カティナママンやシルフェ、神獣達の想いを受けてこの世界では人を信じてみたいと思った。


 そして、結果としては間違っていないと思う。


 シルフェはレベルが62まで上がり、朱厭は42、妲己は31だ。


 数値を見ても飛び抜けており、特に妲己のMPは40000近くまで上がっていた。

 俺に遠く及ばないけれど、常軌を逸している。


【風烈龍の槍:風属性の魔法強化(大)敏捷のステータス補正上昇(中)国宝級】

【風烈龍の軽鎧:風属性の攻撃耐性(大)敏捷1.2倍 国宝級】


 シルフェの装備は反魔から風の装備に変わった。素材が足りないと風の縄張りに打診してみた所、即日王の龍鱗やら牙が送られて来たらしい。


 会わなくても分かる。風の竜王は親バカだな。ちなみに俺が強化して風属性の魔装にしてある。


 国宝級なのは、あまりに強過ぎると装備の威力に頼りすぎてしまうとイゴウルと相談し、鉱石のランクを落としたからだ。


 俺がシルフェから風烈龍の娘である秘密の一端を打ち明けられたのはだいぶ前の事だったけど、とっくに知ってたと言ったら何故か泣かれた。


 面倒くさかったのでうるさいと尻をひと叩きしたら、何故か息を乱して頬を赤らめつつ泣き止んだので、それ以上は触れなかったけど。


 ーー続いて妲己と朱厭の装備も整った。


炎魔エンマの剛爪:物理障壁無効化(大)力のステータス1.2倍 国宝級】

【雷神:雷伝導率上昇(極)伝説級】

【風神:自動物理障壁(中)自動魔法障壁(中)国宝級】


 朱厭の炎魔の剛爪は炎を纏い、あらゆる物理障壁を無効化する。これは炎の魔装に俺が改造した。


 そして、最もイゴウルと頭を悩ませたのが妲己の装備である雷神と風神だ。


 元々雷は風と水の複合魔法である為、『神尾』発動時の威力をどう高めるか検証するのに本人のレベル上げが必須だった。


 完成しては、みるみると上がっていく妲己の『神鳴りカンナリ』の威力に耐え切れず溶けてしまったりね。


 俺の雷の魔装強化に耐え切れる素材として、結局龍族に伝わる希少な鉱石であるドラグニアスを少量混ぜて漸く耐えられるレベルになった。


 ーー結果として、伝説級装備を生み出しましたけどね。


 イゴウルは半泣きで歓喜していたけど、ちゃっかり添えられた請求書に白金貨五枚、つまり五百万ルランが記載されていて意識が飛びそうになった。


 出世払いっていい言葉だよね。


 俺には無縁だけど、何とか伝説級の魔獣の魔核を手に入れて見せなければならない目標が出来た。


 後は俺の軽鎧だが、中々に苦戦している。


 正直言ってイゴウルも俺も納得していないだけなんだけどね。


 イメージ的には覇幻を振りやすい様にして貰えれば良いのだが、何度試してもしっくりこないんだ。


 まるで、覇幻が『これじゃない』って拒否してるみたいで、二人で頭を抱えていた。

 結果としてミスリルの軽鎧で妥協している。


「今日もジェレーレ火山をクリアするのですか? 正直物足りなくなって来たというのが本音ですけれど」


 ここ一年、シルフェ達には定期的に隊長格の兵士達を連れてダンジョンに潜らせている。

 最初は数週間かかった攻略も、今ではこなれた感じで早い時には日帰りになってきた。


「いや、そろそろ次の段階に進んでも良いかと思ってて、今日は新しいダンジョンを紹介しようと思ってる」


 俺がそう言うと、シルフェは首を傾げた。


 何故ならそのダンジョンはカティナママンと、元パーティーメンバーだけが知ってる隠しダンジョンだからだ。


 ーー『死者の嘆きの塔』


 それは火の縄張りの中にあっても不可視化されていて、発見するのが難し過ぎるまさに隠しダンジョンだ。


 俺は一年間、手空き時間はそこに一人で潜ってレベルを上げていた。


「グレイちゃん。まだ早くないかしら?」

「う〜ん。でも、正直俺も飽きてきちゃったし良いんじゃないかなぁ」

「そうねぇ。最近はレベルの上がり方も遅いみたいだから、そろそろシルフェに挑ませてみるのも良いのかなぁ」

「えっと……坊っちゃま。新しいダンジョンですか? 火の縄張りでそんな場所聞いた事がありませんけど」

「うん。火炎龍にも言ってないしね。言う必要がないよね?」

「見つけられないのが悪いのよ? 私に責任は無いわよね?」


 俺とママンが馬鹿だよね〜と穏やかに笑い合うと、シルフェが呆れた視線を向けて来る。


 まぁ、その余裕も入って見れば失せるよ。


 ーー下手すれば死者が出るしね。だって、Bランクダンジョンだもん。正に無限にグールやらスケルトンやらリッチやらが湧き出てきますから。


 一番厄介なのは『アイツ』だったけど、そこまでは辿りつけないだろ。


「こ、この親子は本当に……」

「良いからダンジョンの準備してな。因みに俺の感覚では魔陰の森がFランク、ジェレーレ火山がDランク。んで、次のダンジョンBランクだから」


 他の他人がつけたランクより、俺が見極めた方が早い。体感した感じ的にまぁ、あの塔はそれくらいだろ。


 さぁ、一年間における弟子と兵士達の成長が楽しみだ。

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