第53話 儲け話は内密に。
水氷龍ハーブニル・ウォルタの死から一ヶ月が過ぎた。
水の縄張りの新たな王となったセインは俺に会う事が出来なくなり、後日使者に手紙を持って来させた。
結果として弟であるグリムの死は、病気による急死という形をとったらしい。
加担していた者達の処遇まで事細かく記載されていたが、正直俺には興味が無かったので、使者には『貸し一つだ』とだけ伝言を伝えておいた。
ダズンの事もそれとなく便宜を図って貰おうと思ったのだが、水の縄張りの兵士達が闘技場に戻った時には既に姿は無く、家族の亡骸も消えていたみたいだ。
どの道を選択したのか、いずれ分かる日が来れば良い。
そして現在、俺は火の縄張りにある鍛治の街マッテンローのイゴウルの屋敷に戻り、穏やかな日常を過ごしつつも多忙な日々を送っている。
朝はママンが起きるまでのんびりと寝顔を見つめながら過ごし、昼前に起きたママンと昼食を摂ってからが始まりだ。
午後十三時時から十六時まではシルフェ、朱厭、妲己のレベル上げを兼ねたジェレーレ火山のダンジョン攻略。
偶に鉱石が足りない時はイゴウルの弟子達が同行して、その護衛も兼ねている。
勿論報酬は俺達用に作成中の新装備に充てて貰うつもりだ。
シルフェの予想通り弟子達と自分の窮地を救ってくれた礼と、各里から納められた素材だけ十分だからタダでいいと言われたが、それならばと提案した。
「タダの分で作れるレベルを超えた、より凄い装備に挑んで欲しい。その為の素材や資金は俺達が何とかするから」
生意気だと言われるかと思ったが、イゴウルを含めて職人気質な奴らは雄叫びを上げて気合いを入れてくれた。
「作ってくれではなく、挑んでくれって言い方の方が俺達職人は嬉しいのさ」って、前世で酒に酔った宗元が言っていたからもしやと思ったが、感謝しておくかね。
移動の時間も兼ねて十六時半から十九時は工房に向かって、鍛治の勉強を兼ねたイゴウルとの打ち合わせだ。
鍛治を学んでも良かったんだが、どうしても一人前と認められ、イゴウルやバウマン爺みたいに里から認められた『特級』の鍛治師の資格を得るには数年が掛かる。
だから、俺は現在『強化』についてのみ、イゴウルを超える勢いで修行をしていた。
流れ的には仕上がった武器に適切な魔力を流し込み、魔物や魔獣から得た魔核を砂状に砕いて武具の表面を保護する。
次にもう一度武器を炉に
口で言うのは簡単なのだが、これがいかんせん難しい。
まず、武神の加護にあった『強化成功率百%』なのだが、確かに百%だった。
試してみろと言われた流れに沿って行った結果、ただの鋼の剣が風属性の魔剣に変わったのだから。
これにはイゴウルが腰を抜かしかけた程だ。
俺も調子に乗って「鍛治チートの時代が来たか⁉︎」と小躍りしたんだが、続いて試してみろと差し出された剣は仕上げの際にポッキリと折れた。
夢と希望を打ち砕かれた俺は、少年らしくキレたね。元爺でもキレてただろうけど。
「どう言う事じゃい⁉︎ 少年の心を弄んで楽しんだのかこの爺!」
「ちょ、落ち着け! ちゃんと説明するっつーの!!」
「あぁん? 純情無垢なMAXピュアハートを騙したと判断したら、ママンに言いつけるからな!」
「その口調と態度で言われると全くもって気に食わんが、良いから聞け」
その後の説明で何故一本目は成功し、二本目が失敗したのか詳しく説明を受けて納得した。
ーーつまりはバランスだ。
俺の流し込んだ魔力の大きさと、魔核のランクが同等でいなきゃならないんだがそれは問題ない。
魔力制御のスキルで細かな調整は出来てる。
問題は仕上げた剣が俺の魔力と魔核の合成に耐えられるかという点だった。
一本目の剣には、多少だが魔力に耐性の高い鉱石が使われており、二本目の剣はより頑丈さだけを求めた剣だったらしい。
だが、普通の鍛治師は適正な魔力と魔核を把握し、先程の俺と同じ工程を踏んでも失敗に終わるのだと教えられた。
それ程に成功率は低いらしい。
およそ一割に満たず、やっとの想いを込めて作った作品を折るかもしれないと分かっていて挑む奴は狂ってると言う。
そして、イゴウルが涙を滲ませつつ、せつない顔をした。
あなた、結構折ったんですね?
分かります。俺も課金でまだいけるって信じた結果、やっと集めた素材で作った武器が壊れた事ありましたから。
続いて、仕上がった武器に魔装強化を施せる魔鍛治師は専門職として扱われ、その価値の高さから公にはされていないとの事だ。
ちなみに最高峰と言われたイゴウルでさえ、確率は二割以下だと項垂れていた。
「それなら、イゴウルの鍛治の腕と知識に……俺の能力が合わされば……最強じゃね?」
「〜〜〜〜〜〜ッ⁉︎」
ボソッと閃きを呟いた直後、イゴウルは何故か俺の眼前に跪いた。
この瞬間、互いに別々のスイッチが入る。
「儂の残りの鍛治生命を、全て貴方様に捧げると誓いましょう。マイマスター」
「ふむ。顔を上げてくれないかなイゴウル殿? 俺達の関係は対等であり、所謂パートナーさ。ところで、君の武器に俺が魔装強化をした時に、大体どれ位で売れるか教えて欲しいな」
イゴウルの瞳は鍛治師としてより高みを目指せるといった輝きに満ちていた。
そして、俺は勿論目が金のマークになっている。
ーー俺が貧乏でも構わない。何故なら俺にはシルフェっていう歩く財布がいるからな!!
俺の財布に手を出してみろ。この世の果てまでも追いかけて奪い返してやる。
「ふむふむ……」
「んで、これがこれもんで、こうするとこうで……」
「ほうほ〜う!」
「さらにこうすると、ここまで伸びてあれで……」
「ほむほむ! ほむほ〜むぅっ!!」
二人で涎を垂らしながら、俺達は極内密にイゴウル作品の魔装化の研鑽と研究に情熱を注いでいた。
弟子の店に試しに飾らせて貰い、一本目の試作品が商人に売れた際にはなんと白金貨八枚、つまり八百万ルランで売れたのだ。
そして元手はたったの十万ルラン! Dランク魔獣の魔核に、比較的魔力耐久の高いミスリルと鋼を半々にして、イゴウルが打った剣に俺が強化を施しただけだ。
ダンジョンで手に入れた素材だから実質はタダなんだが、作業工程の費用だけでも金は掛かる。
「ヌァーーーハッハッハアァァッ!! 笑いが止まりませんなぁイゴウル殿ぉぉおお!!」
「グフッ! グフフッ!! これならもっとランクの高い武器を使えば国宝級、いや、いずれは伝説級の武器だって古龍の素材無しに生み出せるかもしれないぜえぇぇぇっ、グレイズ様ああああ!!」
ーーその夜、工房で何故か原因不明の火事が起こった。
幸いすぐに鎮火されたのだが、俺は猛烈に嫌な脂汗を掻いており、不思議そうな顔を浮かべているイゴウルに告げる。
「あのさぁ〜! 先日売れた剣のお金、イゴウルが持ってて良いよ? 寧ろ、俺達に作ってくれる装備にあててくれれば良いかな。くれぐれも俺に現金を渡そうなんて考えないようにね」
「?? 別にグレイズ様がそれでいいならそうするが、どうした?」
「あ、ん〜と。多分、俺に現金を渡すとイゴウル破産するかも、あと多分工房と店が潰れる」
「ファッ⁉︎」
その後、俺は『武神の加護』の代償である『貧乏神の想い人』の効果について素直に教えた。
するとみるみるイゴウルの顔面が真っ青になる。
多分、この火事は警告だ。その金を受け取ればきっと呪いが発動するに違いない。
「ふふっ! 俺の強さが増したからか、貧乏神の呪いが警告なんてしてくる仕様に進化しました、ってね!」
試しに現金を持って見たら、金貨一枚と、銀貨五枚。
つまり一万五千ルランを超えたお金が溶けるなんてとんでもない。砂になって風音に流されていきました。
ーー俺の溢れ出る涙と共に。
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