第40話 ギルムの里へ恩返し 前編
旅に出る支度を整えるつもりが無一文になってしまった俺達は、一晩バウマン爺の家に泊めて貰う事になった。
シルフェは馴染みのある肉屋へ向かって溜め込んでいた魔獣の肉を卸しに行き、俺は馬車を引く魔獣を手に入れる為に別行動を取る。
カティナママンはバウマン爺に護衛を任せて、家で大人しくしていて欲しいと説得した。
寂しいからヤダと抱き着かれた時には、気持ちが激しく揺れ動いたよ。
そんな訳で、現在俺は朱厭を影に潜ませたまま里の入り口に向かっていた。
狙うのは足の速そうな魔獣だ。勿論、手懐けられる範囲でだが。
大きい狼とか良いなぁなんて考えながら歩いていたら、ふと五十名近い兵士達が整列している場に出くわした。
姿からしてギルムの里の自警団だろうが、周囲に緊張感が伝播しそうなくらい表情に余裕が無い。
俺は念話で朱厭に探りを入れさせる。
『何かあったのかな? お前の耳なら何を話しているか拾えるだろ?』
『はい。……どうやらこの里にBランク魔獣が二体向かっている様で、警戒を強めているみたいです。
『どんな魔獣かによるな。流石にそのランクじゃ手懐けるのは厳しいだろうけど、一度見てみたい』
『空尾狐と呼ばれる狐の魔獣だと話しておりますが、少々様子がおかしいようです。この周辺の村人が突然いなくなったのは、その魔獣の所為だと騒いでおります。普段は大人しく友好的な魔獣だったと言われており……一部の者は裏切られた、と』
よく見てみれば、何人かは怒りに染まってるみたいだ。村の出身だったのかな。
でも、一人の目撃者も村から逃亡した者もいないのに、答えを決めつけるのは良く無いだろう。
ーーふむ。キナ臭いな。
『なぁ、先日の襲撃者と関係あると思うか?』
『いえ、あの者達からは邪な感情を感じませんでした』
俺達を襲撃した『水』から来た賊はともかく、俺の威嚇にビビって逃げた連中は『火』と『地』の縄張りの斥候だった。
朱厭が捕縛して、スキルを使用して口を割らせたから間違いない。
直接関われないとはいえ、俺の行く先を把握する為に上司に遣わされたのだから。
結果として『火』の連中は縄張りまでの護衛を申し出て来たが、丁重にお断りした。
素性の知れない者を近くに置きたくないし、身軽に動きたかったからね。
地の縄張りの者達にはファブへ伝言を頼んでおいた。効果があると良いな。
「となると、やっぱり『水』の逃した奴等かもな」
俺は小さく溜め息混じりに呟いた。襲撃時、更に背後に控えている一団に気付いていたからだ。
だが、仲間達が一瞬で殺害された光景をみれば、退くだけで済むだろうと浅く考えてしまった。
『主人が自ら足を運ぶ必要は無いのでは?』
『いや、これはある意味恩返しなんだよ。この里には七年間助けられた。近隣の村の者達も、俺達が卸した肉を買ってくれてると思う。日々の営みってのは循環する様に出来てるもんさ』
『失礼ですが、少々主人らしくないと思ってしまいますな』
『ハハッ! 確かにそうだなぁ……でも、それが人間で言う義理と人情って言葉なんだ。覚えておけ、朱厭には良く似合う』
『有り難く』
街の守りは兵士達に任せれば良い。まぁ、来させやしないけどな。
俺は闇隠龍のマントのフードを被ると、一気に里の外まで駆け出した。
風の流れが乱れている場所を探知しながら、ひたすらに西へ進む。
まずはその村人が消失した現場が見たい。
俺はこの周辺の地図を既に手に入れている為、迷うことはなく、直線距離でおよそ四十㎞を二十分程で辿り着いた。
そして、ここからは朱厭の出番だ。
「出てきて良いよ。血の匂いはするか?」
影から朱厭が飛び出すと、不思議そうな表情で周囲を嗅ぎ回っている。なんか絵面だけ見ると変態中学生みたいだ。
折角のイケメンが台無しだな。
「……はい。ただ一人か、二人程度です。恐らくこの村の門番が殺された程度で、他の者は別の場所へ避難したのかと」
「いや、多分攫われたんだよ。これで確証が取れた。空尾狐は何者かに操られているか、使役されてるんじゃ無いか?」
ーーキシャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!
突如、獣の咆哮を受けて俺達は一斉に身構える。
その視線の先には、話題に上がっていた魔獣がドス黒いオーラを放ちながら、牙を噛み締めてこちらを威嚇している。
体長五メートル近い金毛に黒い瘴気を纏った巨体。一体は五本、もう一体は四本の尻尾を生やしていた。
雄と雌だというのは身体付きから分かる。もしかして番いなのだろうか?
どちらにしろ眼球は真っ赤に染まっており、狂乱しているのは間違いない。
「鎮まれ、空尾狐よ。俺達は敵対する訳に来たんじゃない。この村で一体何が起こったのか。そして、お前達が一体何に憤怒しているのかを知り、解決する為に来た!」
「神獣である我が約束する! 主人の言葉を聞くのだ!」
俺と朱厭の制止を聞いても、二体の魔獣は躊躇する事なく、血涙を流しながら天に吠えた。
「返セ! 返セエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」
「殺ス! 人間、憎イ! 人間、殺スウウウウウウウウウウウウッ!!」
朱厭が俺の前に立って護衛しようとするが、それを右手で制してこちらへ突進してくる空尾狐に向かい合う。
ーーギャリッ! ギャリガリッ!!
「無駄だよ。お前達の力じゃママンの結界は破れない」
慈愛のネックレスが発動して、爪や牙の連続攻撃から俺の肉体を守る。
虹色の保護膜は揺るぎ無く輝きを放っていた。
よく見れば、この魔獣達は傷だらけでボロボロだ。血も流し過ぎているのか、血色も良くない。
何がそこまでお前達を突き動かすんだ?
「朱厭。こいつらの状態は何かおかしい。心当たりはあるか?」
「予想ですが、『
「でも、この傷は多分進化前に受けたものだと思う。恐らく斬撃と矢傷によるものだ」
そっか。自分の命に代えても守りたい何かがあったんだね。今の俺なら少しだけど、お前達の気持ちを分かってあげられるかな。
「死ネ! 死ネエェエエエエエエエエエエエエエ!!」
「返セ! カ、ガ、返カエ、セエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」
俺は両手を組んだまま、黙って好き放題に攻撃させていた。
次第に限界を超えていた空尾狐の動きが鈍くなり、先に一体が倒れこむ。
諦めずに必死で前脚を振り下ろしていたもう一体は、最早自分の爪と牙が折れている事にさえ、気付いていないみたいだ。
そのまま五分が過ぎた頃、漸く二体は並びながら倒れて地に伏した。
回復薬で治せる傷じゃない。こいつらは既に限界を超えて、精神力と執念だけで動いてたんだから。
「私達ノ、娘……」
「返セ……ガハッ!」
もう、目すら見えていないんだろう。血を吐き出しながら、悔しさに血涙を流す姿を見て、ーー少しだけ心が震えた。
「お前達には娘がいて、それを人間に奪われたんだな? 間違いなければ俺の掌を噛め。傷付けて構わない」
「ーー主人⁉︎ 一体何を⁉︎」
「黙って見てろ!!」
俺はもう言葉すら発せぬだろう空尾狐の雄の口元へ右手を突っ込んだ。慌てて駆け寄ってくる朱厭を怒鳴りつける。
「…………」
ーーカプッ。
それは甘噛みだった。最後の最後に力を振り絞れば、俺の右腕くらい噛み千切れたかも知れない。
でも、まるで任せたと言わんばかりの想いを残して、二体の魔獣はそのまま息を引き取った。
「なぁ、朱厭。何でだろうな。何で、俺は『竜人にはクズやゴミカスなんていない』なんて思い込んじまったんだろう。どの世界でも一緒だよ。いい奴もいりゃあ、クズもいる。それだけ……俺の過ごしていた世界は優しくて狭かったんだなぁ」
「主人……」
あぁ、駄目だ。苛ついてしょうがない。村の人間は多分攫われた。そして、その先に空尾狐の娘がいるんだろ。
そっか。悩む必要なんてないじゃん。覇幻は既に俺の手元に戻っている。
ーーゾクゾクッ⁉︎
「あ、主人、落ち着いて下さい!! 殺気が漏れ出て周囲の者達に影響が出ております!」
「朱厭。良いからさっさと臭いを辿ってアジトを探せよ。目的は変更だ」
「ハイッ!!」
サッと跪いた朱厭の動きは素早かった。眷属を召喚し、複数体の猿達が一斉に探索を開始する。
俺はそれを見向きもせず、ただ、空を見上げていた。
「らしくない……か。母親が素晴らしいからかねぇ」
自分の中にある矛盾をハッキリと感じている。
でも、ほんの少しだけ痛む右手の咬み傷を撫でると、もうどうでも良いかと思った。親狐から託された約束と受け取って良いだろ。
俺は子供で、今七歳なんだ。少しは感情的に暴れたって構わないよねママン?
__________
【グレイズ・オボロ】
種族:竜人族
年齢:7歳
Lv:38
HP:39570(820)
MP:34512(710)
力:7141(190)
体力:6873(185)
敏捷:6225(197)※風烈龍のブーツ装着時補正。
魔力:12410(140)
精神力:8191(161)
【スキル】:知恵の種子、鑑定(小)、縮地、無詠唱、魔気融合、龍眼、剣術、体術、豪腕、狙撃、魔力解放、魔力収束、威圧、統率、弓術、料理、並列思考、分解、解体、気配感知、気配察知、会心の一撃、遠当て、不屈、教導。
【称号】:天衣無縫の剣士、神龍の加護、嵐龍の加護、転生神の加護、武神の加護、神殺し、龍殺し、貧乏神の想い人、殲滅者、神獣の契約者、導く者、次元魔法の継承者、
【装備】
『慈愛のネックレス:自動物理障壁(極)自動魔法障壁(極)神話級』
『輝天龍のサークレット:状態異常無効化(極)伝説級』
『闇隠龍のマント:認識阻害(極)国宝級』
『覇幻:???』
『大地龍の鞘:物理攻撃ダメージ上昇(極)国宝級』
『風烈龍のブーツ:敏捷1.2倍、敏捷のステータス成長補正(中)国宝級』
【神格保有数】:2
『
『
【神獣契約】
『
『神龍の加護』→レベルアップ時の必要経験値減少、ステータス成長補正(極)
『嵐龍の加護』→風属性の攻撃耐性上昇(極)、風魔法の習得補正率上昇(極)、スタータス成長補正(大)
『転生神の加護』→獲得経験値増(大)、ステータス成長補正(中)
『武神の加護』→武具、防具の強化補正上昇(極)、強化成功率百%、ステータス成長補正(大)、物理耐性上昇(中)
『神殺し』→魔法攻撃ダメージ2倍、聖属性攻撃耐性上昇(極)
『龍殺し』→物理攻撃ダメージ2倍、物理防御上昇(極)
『貧乏神の想い人』→強くなれば強くなる程、武神の愛が深まり自身の持てる所持金が減少する。周囲の者への影響は皆無。
『殲滅者』→威圧のスキルを発動時、自分よりも弱い敵を恐慌状態に陥らせる。
『神獣の契約者』→神の加護を授かった者が名付ける事により、五体の専属神獣を生み出して契約を成せる。神獣は死んでも一定の神気を注げば復活する。契約主が死ぬまで破棄は不可。残り四体。
『導く者』→教えを施した者の経験値、理解力が向上する。その際、一部がマージンとして自身に返還される。
『次元魔法の後継者』→先代から知識を引き継がれた証。次に知識を引き継ぐ者を見つけ出すまで、次元魔法の習得補正率上昇(極)
『
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