【第3章 階段ぶっ飛ばしで成長しちゃおう〜少年期編〜】

第38話 七歳になりました!

 

 この空中都市パノラテーフは四つの縄張りに分かれている。


 正確には聖属性の『天龍』と闇属性の『闇龍』も存在しているのだが、彼等は里としての繁栄を望まず、一個体として自由に暮らしているらしい。


 寿命が近付くと自らの後継者を選び、全ての力を継承する事で種を存続させていた。


 ーー『火』の縄張りの竜王『ダリアン・グレン』。

 ーー『水』の縄張りの竜王『ハーブニル・ウォルタ』。

 ーー『風』の縄張りの竜王『ラオス・テンペスタ』。

 ーー『地』の縄張りの竜王『ベイル・ガイアス』。


 この四龍こそが各属性の縄張りを統治する王であり、その頂点に君臨する存在こそが『神龍』グレイズメント、即ち俺のパパンである。


 俺達の住んでいる魔陰の森は風の縄張りにあるんだけど、正直縄張りなんて関係ないと思ってた。


 それが大きな間違いだと知らされる事件が起こるまでは。


 __________


 そんな訳で、俺は本日七歳になりました!


 先程までケーキを食べながら恒例のカティナママンとの激甘タイムを過ごしていたのだが、今回の誕生日パーティーはいつもと少し様子が違うみたいだ。


 五歳の誕生日はこんな感じで温かく楽しい一日として終わったのだが、今日はカティナママン、シルフェ、バウマン爺の三人の表情に若干緊張の色が見られた。


 ここにいないファブは俺が三歳の頃、結局『地』の縄張りに帰る事を選んだ。

 約束したのは、自分に自信がつくまで修練をする事。


 そして、地の縄張りで最強になった時のみ、俺の前に姿を現していい。そう子供ながらに約束した。

 どう成長するのか、今後に期待している。


 因みに五歳の誕生日プレゼントは『覇幻』の新しい鞘だ。


【大地龍の鞘:物理攻撃ダメージ上昇(極)国宝級】


 これはファブと同じく地の縄張りから奉納された大地龍の龍鱗を元に作られていて、覇幻の細かな傷も自動修復するという優れ物だった。


 更にこの鞘自体の防御性能も硬くて高い。


 覇幻が納められていた鞘をそのまま強化したようで、黒い漆塗りの美しさは引き継がれている。


 元々武神の加護を授けられた覇幻に良い鞘など必要なのかと不思議に思ったが、抜いてみると刃紋の輝きが違う。これはとても良いものだ。


 そして、先程貰った七歳の誕生日プレゼントは俺の身を守る防具だった。


【風烈龍のブーツ:敏捷1.2倍、敏捷のステータス成長補正(中)国宝級】


 嬉しい事に成長補正までついており、履いてみると身体が軽くなった気がして思わず飛び跳ねてしまう。

 デザイン的にも黒を基調としたブーツに、翠色の龍鱗がアクセントになっていて格好いい。


 ーーそして、なんと遂にカティナママンから愛刀『覇幻』を持つ事を許されたのだ!!


 俺は鞘を頬擦りした後で腰元に差し込むと、頭が冴え渡るように酷く落ち着いた。

 真逆にテンションは跳ね上がり、ママンに抱きついて歓喜の声を上げる。


「ありがとうみんな! 凄く嬉しいよ!」

「グレイちゃんに喜んで貰えたら、頑張った甲斐があったわね」

「坊っちゃま、凄く格好良いですよ!」

「ガハハッ! あれだけ極上の素材を貰っておいて情けない作品なんて作れやしねぇぞ!」


 三人とも嬉しそうに笑みを向けてくれているが、やっぱりどこかぎこちないなぁ。俺から聞かなきゃ駄目か。


「それで、今日はこの後に何があるのかな? 何もないなら新しい装備の性能をテストしに、森に行きたいんだけど……良いの?」

「「「……」」」


 一気に沈黙した。あぁ、こんな風に重苦しい誕生日にしたくなかったから気を使ったつもりだったんだけど、やっぱ隠し事は嫌いだ。


 俺の嘘がママンにバレる様に、俺にもママンの隠し事は分かる。多分この表情は、結構面倒くさい巫女関連のやつだな。


「実はね。グレイちゃんが七歳になったら、風の縄張り以外へ住む場所を変えなきゃいけないの。それが四龍の中で成された約束なのよ」

「私も生まれ育った場所を発つのは名残惜しいのですが、期日が迫っているのです」

「他の縄張りには商人の資格を持たない儂はついていけんからなぁ。寂しくなるぜ」


 それぞれが名残惜しそうな感じで苦い顔をしているけど、俺は次の目的地を既に決めていたので動揺する事はない。


 言われなくても出向くつもりだったから、寧ろ丁度良いと思っていた。


「それなら、『火』の縄張りに行きたい。俺は鍛治を学びたいと思ってたんだ」

「火の縄張りって……そんな簡単に決めて良いの?」

「それはバウマン爺に聞きたいかな。この空中都市で一番の鍛治師は誰?」


 職人に対して少し意地悪な質問だと思ったけど、バウマン爺は迷う事なく答えてくれた。


「火の縄張りにいる儂のお師匠様だな。名前は『イゴウル・グレン』。火炎龍様の遠縁にもあたり、火の扱いと槌を振るう腕前は、儂と比べて遥かな高みにおる」


 その話し方はどこか申し訳なさそうでもあり、師を誇る弟子のようでもあり、俺の胸を高鳴らせるには充分だった。


 俺は専属の鍛治師が欲しい。そして、その腕を間近で盗みたい。


「決まりだな。俺はイゴウル殿に会う為にも、火の縄張りに行くよ」

「グレイちゃんったら、いつのまにか大人になっちゃったのね……」

「ちょっと格好いいですけど、あくまでちょっとですからね!」


 そんな風に今後についてたわいのない話をしながら談笑している所へ、突然無粋な輩が現れた。


 隠れ潜む気配にはとっくに気付いていたが、姿を現わすとは思わなかったな。


「それは困りますねぇ〜? 私達は巫女様と共に、貴方を『水』の縄張りにお連れするように命を承っておりますので」


 黒装束に身を纏った男達は、隠れ潜んでいる者も含めて全八名。下卑た笑い声を上げながら俺達に近づいてくる。

 武器を抜くまでは待ってやろう。


 俺の前に立とうとするシルフェを右手で制し、カティナママンとバウマン爺を背に俺は告げた。


「ーー去れ。一度しか言わない。命は大事にしな」


 何かしらの事情があるのであれば考慮してやろうと思った。だけど、こいつらは子供の虚勢だとでも勘違いしたのか、大爆笑しながら各々が武器を抜き去った。


「神龍の後継者とはいえ、まだ子供の癖に生意気なんだよ! 大人しく俺達について来れば痛い目にはあわないぜ?」

「まぁ〜、お前の母ちゃんはちょっくら味見させて貰うけどなぁ〜!!」

「おい、この前はお前が先だったんだから、今日は俺だろうが!」

「ハァ、ハァッ! 俺はあの少女が……良い!!」

「爺は取り敢えず殺しておこうぜ?」

「賛成賛成〜!」

「おいおい。楽しみ過ぎてこの前の女みたく壊すんじゃーー」


 ーーチンッ!!


下種ゲスが。臭い息をママンに向けるんじゃねぇよ」


 俺は一瞬の内にその場にいた敵の命を断ち切り、覇幻を納刀する音だけが鳴る。こいつらは死んだ事にすら気付いてやしないだろう。


 うん、風烈龍のブーツは中々良いなぁ。いつもよりも素早く動けて、漸く思考と初動に対して肉体のズレが埋まってきた感じがする。


 俺は軽く首を回すと、もう興味は無いと言わんばかりに背後を振り向いた。


「さぁ、引越しの準備を始めようね」

「「「…………」」」


 三人は無言のまま、驚愕に瞳を見開いていた。カティナママンでさえ何やら驚いているみたいだ。一体どうしたのかな?


「ママン、何かあった?」

「ううん、何でもないのよ。ちょっと『うちの息子が凄過ぎる件について』って本を書けそうだなって思考が飛んだだけ……」

「あははっ! ママンもそんな冗談言うんだね? あんな奴等に本気なんて出す訳無いじゃん」

「うん……だから本が書けそうなんだどね」


 シルフェとバウマン爺は、顎が外れそうなくらい口を開きながら固まっている。放っておいて良いかな。


「って訳だから俺は火の縄張りに行くよ。今の奴等みたくなりたくなかったら、『出て来るな』よ?」


 俺はスキル『威圧』を発動させながら森に向けて宣告する。一斉に気配が霧散していくことから、上手く伝わったみたいで良かった。


 それにしても、水の縄張りがこれ程強引なやり方を取るとは思わなかったな。


 今後要注意。そして、いつまでも死体を家の前で固まらせておくのは嫌だったから、この四年で編み出した新魔法を発動する。


「全てを呑み込め。『崩壊する黒星コラプサーレ』!」


 闇魔法と風魔法、そして、失われし最後の属性である次元魔法を組み合わせた固有魔法『崩壊する黒星コラプサーレ』は、現状の俺が使える最も凶悪な魔法だろう。


 言葉通り罅割れた空間の亀裂が全てを呑み込み、消失させるのだ。


 塵一つ残さずに存在を滅するまさに禁術。故に俺は目撃者のいない場所でしか使わない。そうママンと約束した。


「ーー朱厭。後始末を頼む。どこの縄張りから来たのか、何が目的なのか拷問して吐かせろ。生かすか殺すかはお前の判断に任せる」

「ハッ! お任せ下さい」

「友好的であれば、あまり痛め付けなくていい」


 視線は別方向を向いたまま小声で影に命令すると、俺は何事も無く家へ戻った。


 火の縄張りでの新しい生活か。楽しみだな。

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