第35話 猿の王。
「ほ、ん、と、う、に! シルフェさんの所為で酷い目にあったっすよ!」
「……私の方が先輩なんだから、ファブには進んで盾になる位の気概を見せて欲しかったかな」
ファブは頬を膨らまし、『
それに何故か肌が艶々している気がする。
濡れた服はどうしたかって? 俺が
俺は丸太の上に座って用意された朝食のスープを飲みながら、今日の作戦を立てている。
「朱厭、出て来い」
「ハッ! 既に控えております」
嬉しい誤算だったのが、神獣として契約した朱厭はいつでも俺の影へ転移出来るという能力を得ていた。
離れて行動していようが、俺が呼び出せば即座に影から現れる事が出来る。
「本来二日程掛けて森の深奥へ進む予定だったけど、お前達の誘導と牽制があれば、今日中に霊力の滝に着けるよな?」
「はい。水精ナイアドには眷属がおりませんので、我等が進行方向の雑魚を引きつけましょう」
「案内は朱厭に頼めるか? お前のレベル上げの為にも、水精ナイアドの魔核は手に入れておきたい」
「謹んでお受け致します!」
「うん。頼んだ」
魔獣や魔物同士のレベル上げは、俺達と少し仕組みが違っているらしい。人間は対人であろうが、対魔であろうが経験値を得る事が出来る。
だが、魔物側は人間からは経験値を得れても、魔物同士で戦った場合経験値は得られない。
その為、魔核を取り込む事で敵の経験値と力を得る事が出来ると説明された。
神獣へ至った朱厭も仕組みは変わらない。敵が魔物である以上、魔核を取り込ませる必要があった。
魔核は売って金にする事も出来るけど、この森程度の魔核ならば売るよりもレベル上げ後の効率を選んだ。
因みに魔核は装備と等級の表し方は同じで、色によって買取額が変わる。
大きさは買取額に色がつく程度らしい。装備でいう位の様なものだ。
魔物や魔獣の強さによって色は変わる。
黒色=下級はE〜Fランク程度。
灰色=中級はD〜Cランク程度。
白色=上級はBランク程度。
赤色=特級はAランク程度。
銀色=国宝級はSランク程度。
金色=伝説級はSSランク程度。
そして、神話級の魔核については現在発見された記録が残っておらず、色すらハッキリと分からない。
ただ、実在するという文献は残されており、冒険者達の夢として語られていると本に書いてあった。
「水精ナイアドは大体どの程度のランク何だろうな? 朱厭なら分かるか?」
「人の定めたランク等は分かりませんが、恥ずかしながら我は一度敗れております。彼奴の強さは非常に偏っており、水の結界と肉体による『物理無効』と、強力な『
「成る程。良い情報だぞ、
「ハッ! 今の我ならば一矢報いてやれるかと存じます」
「いや、こちらには適任者がいてな。お前の出番はないかもしれないよ」
俺はニヤリと口元をつり上げると、未だにくだらない言い合いを続けていた二人を呼ぶ。
「おい! 作戦会議を始めるぞ。良い加減につまらん喧嘩はやめろ!! もう一発『
(一体誰のせいだと思って……)
「ファブ、何だその目は?」
「ひゃいっ! 直ぐに行くっす!! ちょっ、悩んでないで早く行くっすよ! シルフェさん⁉︎」
「朝からっていうのも捨て難いけど、坊っちゃまを本気で怒らせちゃったら嫌だしなぁ。巫女様の為にも今はしょうがないかぁ」
無理矢理手を引くようにして、ファブがシルフェを連れて来た。
何故かシルフェは物憂げな表情を浮かべており、渋々お茶を入れてから隣に座り込んだ。
「さて、今回の水精ナイアドとの戦闘だが、俺は一切手を貸さない。目的はお前達のレベル上げだからだ。朱厭の部下に森の敵を引きつけて貰い、一気に霊力の滝へ向かう。ここまではいいか?」
「「はいっ!!」」
「戦闘になったら二人共、『龍眼』の発動を許可する。ただし、ファブはシルフェの盾役として防御に徹しろ。シルフェは隙を突いて『
「確かに今回の敵にこの槍は効果的ですね! グレイ坊っちゃまの期待に応えてみせますよ!」
「え〜! おいら攻撃しちゃ駄目なんっすか〜?」
ガッツポーズしながら燃えるシルフェの横では、ファブががっくりと肩を落としている。
本来、攻撃大好きっ子だから致し方がないか。
「じゃあ、ファブは一度だけ『
「やったっす! ありがとうございますグレイズ様!!」
飛び跳ねるファブを横目に、俺は朱厭に『念話』を送った。これは契約を交わした者同士で行えるもう一つの意思疎通だ。
昨日の夜に試してあり、秘密の会話を行うのに丁度いい。スキルを覚えれば他の者とも思考のみで会話出来ると聞いて、俄然テンションが上がった。
『
『畏まりました。主人の命に従って動きます』
何だろう。最初は騙されたと思ってたけど、神獣の万能性がすげぇ。あと四体しか、っていう考え方から、こんなのがあと四体も、っていう事実に歓喜しちゃうよ。
問題は神気だな。覇幻が手元に無いと、朱厭が倒された時の神気の補充がままならない。まぁ、それも含めての訓練だと思おう。
「さぁ、今日中に我が家へ帰るぞ!!」
__________
クレイジーモンキーの縄張りから出発して一時間後。
ーーズドドドドドドドドドドドドドッ!!
俺達は今、何故か神輿の様に台座に座りながら猿に担がれている。
普通に風魔法を発動して走って行こうと思ったら、朱厭や猿達が一斉に跪いて玉座に座っていて欲しいと懇願されたのだ。
あまりに必死だったので仕方がないから了承すると、猿達は元々グッドクレイジーモンキーサイズに造られたであろう石を削り取って磨いた玉座を担いで来た。
両端は丸太が括り付けられている。
ーー嫌な予感しかしないんだけど。
試しに座ってみるとスペースが滅茶苦茶余っている。
なんだか振り落とされそうだったので、シルフェとファブを両端に座らせてみたら意外にもフィットした。
お子様は高い所が好きらしく、鼻歌混じりに上機嫌だ。キラキラとした畏敬の念を向けつつ、号令を待っている猿達に俺はしょうがなく告げる。
「じゃあ、お願いしようかな……」
「「「「ウキキッ! ウキキキキキィッ!」」」」
歓喜の咆哮を上げながら、三十匹近い猿達は一斉に駆け出した。
その中央に俺達は座らされており、敵が現れては、端の部隊から一斉に猿達が飛び掛っている光景が視界に過ぎる。
流石は魔陰の森に縄張りを持つだけあって、神輿が通れるくらい樹々の間隔が広いルートを選んでいるみたいだ。
隠れ潜んでいた猿達が次々と合流し、数は倍の六十匹近くまで膨れ上がっていた。
俺は遠い目をしながら黙っているが、心の中で愚痴ってしまう。これくらい許されても良いだろう。
ーー激しく上下に揺れまくってるから、乗り心地最悪。マジで酔いそう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます