第34話 やっちまった赤ちゃん。

 

「う〜ん。一体どうしたもんかな」

 現在、俺はグッドクレイジーモンキーの縄張りの中心で、野営の準備をしながら悩んでいた。


 既に簡易小屋は立ててあり、焚き火の準備の為の枯れ木や囲い岩は、何故か猿達がせっせと準備してくれている。


「無視です! 絶対に無視一択ですよ、坊っちゃま!」

「その通りっす! グレイズ様の従者はおいら達だけで充分っすよ!」


 問題は俺の隣で喚いている二人と、まるで俺の指示があるまで動かないと言わんばかりに、頑なに跪き続けている巨猿だ。


「我ハ、貴方様、ニ、仕エタイ。契約ヲ望、ム」

 グッドクレイジーモンキーは片言で繰り返し呟き続けており、意図は十分に伝わっている。


 だけど、この巨猿弱いんだよね。そりゃ俺も異世界に来た以上、契約魔獣とか欲しいよ? でもさぁ、契約した所でファブ以下じゃなぁ。


「悪いが、俺の側に弱い奴はいらん。今のお前じゃ、あの二人にすら勝てやしないだろう? 強くなって出直して来い」

「ナラバ、名ヲ、頂キタイ」

「ーー坊っちゃまっ⁉︎」


 名前か。確かにグッドクレイジーモンキーってちょっと長いし、万が一の可能性に賭けてこいつが強くなって来た時の為に、名をつけてやるくらいなら良いかなぁ。


 何が良いだろう? 猿って言ったら如意棒のアレだけど、ありきたりか。中国の伝説でなんかあったな。こいつ前髪の一部だけ赤毛だし、丁度良いか。


 俺が口を開こうとすると、突然シルフェが慌てていた。一体どうしたんだ?

 だが、シルフェの制止は一歩遅く、俺は閃いた名を口にしてしまった。


「ダメえええええええええええっ!!」

「お前の名は『朱厭シュエン』だ。伝説の猿の名に相応しく、畏怖される存在になれ。ーーってか、煩いぞシルフェ!」

「あっ、ああぁ〜〜!!」

「ん? 一体どうしたんだよ」


 顔を真っ青にしながらペタンと地面に座り込んでしまったシルフェを見て、俺とファブは二人で首を傾げていた。


 すると、突然煌々とした朱色の輝きが周囲に広がり、跪いていたグッドクレイジーモンキーが立ち上がって歓喜の声を上げる。


「主人カラ、名ヲ頂イタ! 我ハ今ヨリ、朱厭シュエンヲ、名乗ル!!」


 あまりの眩しさに右腕で目元を隠していると、徐々に光が収束して最後に一瞬弾けた。


 目がチカチカするなぁと思いながら周囲を見渡すと、先程までの巨猿がいなくなっており、一斉に猿達が跪いている。


「今の光は何だ? グッドクレイジーモンキーはどこに行った?」

「主人よ。此処におります」

「えっ?」


 困惑する俺の足元には、大体身長160センチ程の少年が先程の巨猿と同じく跪いていた。

 中学生くらいか? 朱色の短髪に、眉毛や睫毛までが朱に染まっている。


 明らかにただの人間と違うのは、細かな彫刻の施された漆黒の鎧を纏っている所か。首元、手首、足首を朱色の毛皮が飾っており、なんか豪華だ。


 ーーあれ? コレってもしかしてやっちまった?


「グレイ坊っちゃま……まんまとその猿に一杯食わされましたね。主人側が名付け、名付けられる側が認めれば、それで契約は成されてしまうのですよ」

「……それは分かったけど、この姿は何だ? まるで別の種族じゃないか」


 朱厭は若干申し訳無さそうに、無言で頭を下げたまま跪いている。

 俺を騙したのを気にしているのかもしれないが、今はシルフェの説明の方が優先だ。


 カティナママンにも契約については教わってないからな。絶対にママンですら、俺がこんなに早く契約魔獣を得ると思ってない。


「グレイ坊っちゃまの『魂の石版ステータス』を見たほうが早いかと」

「分かった」


 シルフェが溜め息を吐きながら悲しげに瞳を伏せる。なんか、嫌な予感がして来た。


 __________


【グレイズ・オボロ】

 種族:竜人族

 年齢:3歳

 Lv:25

 HP:28910(820)

 MP:25282(710)

 力:4575(190)

 体力:4468(185)

 敏捷:4041(168)

 魔力:10590(140)

 精神力:6098(161)


【スキル】:知恵の種子、鑑定(小)、縮地、無詠唱、魔気融合、龍眼、剣術、体術、豪腕、狙撃、魔力解放、魔力収束、威圧、統率、弓術。


【称号】:天衣無縫の剣士、神龍の加護、嵐龍の加護、転生神の加護、武神の加護、神殺し、龍殺し、貧乏神の想い人、殲滅者、神獣の契約者。


【装備】

『慈愛のネックレス:自動物理障壁(極)自動魔法障壁(極)神話級』

『輝天龍のサークレット:状態異常無効化(極)伝説級』

『闇隠龍のマント:認識阻害(極)国宝級』

『覇幻:???』


【神格保有数】:2

機械神デウス・エクスマキナ』:神格スキル『支配領域レギオンルーラー

嵐龍テンペストドラゴン』:神格スキル『嵐龍砲テンペストカノン


【神獣契約】

朱厭シュエン』→固有種族:『神吠猿シンバイエン


『神龍の加護』→レベルアップ時の必要経験値減少、ステータス成長補正(極)

『嵐龍の加護』→風属性の攻撃耐性上昇(極)、風魔法の習得補正率上昇(極)、スタータス成長補正(大)

『転生神の加護』→獲得経験値増(大)、ステータス成長補正(中)

『武神の加護』→武具、防具の強化補正上昇(極)、強化成功率百%、ステータス成長補正(大)、物理耐性上昇(中)

『神殺し』→魔法攻撃ダメージ2倍、聖属性攻撃耐性上昇(極)

『龍殺し』→物理攻撃ダメージ2倍、物理防御上昇(極)

『貧乏神の想い人』→強くなれば強くなる程、武神の愛が深まり自身の持てる所持金が減少する。周囲の者への影響は皆無。

『殲滅者』→威圧のスキルを発動時、自分よりも弱い敵を恐慌状態に陥らせる。

『神獣の契約者』→神の加護を授かった者が名付ける事により、五体の専属神獣を生み出して契約を成せる。神獣は死んでも一定の神気を注げば復活する。契約主が死ぬまで破棄は不可。残り四体。


 __________


 さっきの戦闘により、レベルが3も上がっている事は良い。

 意外にも寄生魔樹パラサイトエントは良い経験値になったみたいだ。それよりも重要な項目が増えていた。


「……シルフェさんや。何で教えてくれなかったのかな?」


 俺がギギギッと首を捻ると、シルフェはビクッと身体を震わせてファブの陰に隠れる。


 何故だか瞳は輝いているのが、意味不明だ。


「坊っちゃまが聞かなかったからだもん!」

「ちょっ! おいらを盾にしないでしないでっす! 何でちょっと笑ってるんすか、ちょっ、シルフェさん⁉︎」


 俺は風と水の魔力を練り上げると、複合魔法を半泣き状態のファブと、その腕の裾をガッチリ掴んで離さないシルフェに向かって発動する。


「だもん! じゃねぇ……都合のいい時ばっかり子供に戻れば許されると思ってるのか? 俺は五回しかない貴重な契約の内の一回を失ったんだぞ? 反省しやがれ! 『水流竜巻アクアトルネド』!!」

「見てファブ。アレよ。アレが虫を蔑む様に見る坊っちゃまの冷酷な目なのよ……ゾクゾクするでしょ?」

「す、する訳ないじゃないっすかああああああああっ!!」


 二人は巨大な水流竜巻アクアトルネドに巻き込まれて上空まで舞い上がりながら、少し離れた場所で色々と液体を撒き散らしていた。

 勿論手足の擽りは別途発動させている。ファブ、ごめんね。


 ーーさて、絶叫が鳴り止み二人がピクピクと痙攣しているが、静かになった所で話を戻そう。


「まずは朱厭シュエン、俺を騙した件について何かあるか?」

「いえ……我には主人の求める強さへ至り、認めて頂く事以外にお詫びする術がありませぬ」


 俺は正直に言って朱厭シュエンに好感を抱いている。俺の言があるまで大人しく控えていた事といい、騙した事に言い訳しない姿勢も含めて、だ。


神吠猿シンバイエン Lv1】


「神獣に生まれ変わったからか、お前のレベルは1だ。そんなんで俺の役に立てるのか?」

「この肉体はレベルが低かろうとも、以前の数倍の力の昂りを感じております。暫しの時を頂ければ、必ずや主人のお役に立ってみせましょう」


 顔を上げ、真っ直ぐに向けられた真紅の瞳は力強い。どうせ契約の破棄が不可能なら、試してみるしかないか。


 周囲の猿達も同意しているのか、懸命に俺へ嘆願しているみたいだった。


「分かった。俺達は数日中に霊力の滝に向かって、この魔陰の森のボスである水精ナイアドを倒す。その後の森のボスを務め、実力を身に付けろ。いつか俺がこの地を立つ時に役に立てる存在に育て。あと、俺の家にいる母には絶対に危害を加えるな。寧ろ、俺以上の重要な存在として守り抜け」

「主人以上に重要な存在など、ーーッ⁉︎」

「それ以上無用な口を開けばこの場で殺すぞ? 俺が絶対だと言えば、絶対だ」

「畏まりました……」


 俺は思わず全力の殺気を放ってしまった。猿達は萎縮し、中には気絶している者もいる。

 カティナママンに手を出せば、俺は正常でいられない。


 これは俺と契約する上で、絶対に守って貰わなければならなかった。


「すまん朱厭。少々取り乱してしまったな」

「いえ、我等が主人の言葉に疑問を抱こうとした事が、即ち不徳の致すところでした」

「お前のそういう性格、嫌いじゃないぞ」

「ハッ! 有り難く!」


 俺はそう言って少し嬉しそうに微笑む朱厭シュエンと見つめ合った。どうしよう、あそこでピクピクしている少年少女二人よりも、凄くこいつを育てたい。


 これがポケ○○マスターの気持ちなんだね。漸く分かった気がするよ、サトシ君。

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