第30話 『初めてのパーティー』 中編
俺、シルフェ、ファブの三人は焚き火を囲いながら食事の準備をしていた。
以前狩った魔獣の毛皮を燻してストックしてある為、敷物として利用している。
バウマン爺お手製の調理器具を
「なぁ、ファブ。正直に言って欲しいんだけど、本当に俺に仕えたいのか?」
「……本音で言っていいんすか?」
俺の様子を恐る恐る伺う様な瞳をファブが向ける。子供の癖に何を遠慮してんだか。
「構わないから考えている事を好きに言ってみろよ。この森を攻略するまで俺達はパーティーを組むんだ。小さな事じゃ怒らないからさ?」
「じゃあ……はっきり言わせて貰うっすけど、じっちゃんのお願いでも、おいらは自分より弱い者には仕えたくないっす! おいらよりちっさいグレイズ様に、ーーその価値があるって思えないっす!」
俺は無言で微笑みながら続きを即した。やっぱりね。この歳の子供が大人の言いつけだからって不満をもたない筈がないじゃ無いか。
ーー俺はカティナママンに不満なんて、1
「……ふむふむ、それで?」
「ふ、ファブ? それ位にしておいた方がーー」
「ーーおいらと手合わせして欲しいっす! 勿論シルフェさんの手助けは認めないっすよ!」
シルフェはやっちまった的な感じで両目を掌で覆い隠し、ファブはやっと言えたと鼻息を荒くしつつ、瞳を輝かせている。
「成る程。ファブの言いたい事は分かったよ。それなら、賭けをしようか?」
「えっと……賭けっすか?」
「あぁ、俺はこの場所から一歩も動かない。起き上がりもせず座ったままでいい。俺を一歩でも動かせたらお前の勝ちでいいよ」
「おいらを舐めてるっすか? 後悔するっすよ?」
ファブは眉を狭めて怒りの色を露わにしている。勝手に『龍眼』を発動させているあたり、まだまだだなぁ。
「いつでも仕掛けて良いぞ? お前が準備万端になるまで待っててやるからさ。さっさと土魔法を発動するといい」
「……もう、手加減はしないっす」
ファブはフォレストウルフとの戦いで見せた『
足を開いて重心はやや低めに腰を落としているあたり、力を溜めに溜めた一撃を放つみたいだ。
「行くっすよ。防げるもんなら防いでみろっす!」
俺は真剣に向けられた目を逸らす。あぁ、ダメだ。全然ダメ。溜め息を吐く必要もない。もう興味が失せた。
「シルフェ〜? 肉焼けたか?」
「えぇ。食事の準備は出来ましたけど……良いんですか?」
「む、無視するなあああああああああああああああああっ!!」
ファブは手合わせの最中に侮辱されたと勘違いしたのか、激しく激昂しながら突進してきた。
俺は座ったまま首だけ向けると、右手を翳して魔法を放つ。
「
俺はファブの四肢を風の檻で固定し、両手両脚に向けて四本の風槍を放つ。
無理矢理に突進を止められたファブは一瞬驚いた表情をみせるが、力任せに檻を霧散させると、迫った風槍を拳を振り上げて打ち落とした。
「これ位でおいらを止められると、ーー思ってる、っすか?」
「思ってるっていうか……今のお前に手合わせする価値なんかねぇよ。なんで攻撃のタイミングを自分から相手に尋ねてんの? いつでも仕掛けて良いって言ったろうが。お前はつまらん」
俺はファブの言葉を遮る様に再び
俺はシルフェから夕食のスープと骨つき肉を受け取りつつ、軽く右手を下ろす。
それを合図として一斉に放たれた風槍を先程の光景を再現するかの如く、ファブは大地の剛拳を振り回して打ち落としていた。
ーーだが、先程とは倍以上の時間が掛かっている。仕掛けるタイミングも不規則にズラしてるからな。
「相変わらずシルフェの味付けは美味いな。スープは淡麗でありつつ出汁をとってあるから奥深いし、ミツハ草の根が味をスッキリとさせてるね。骨つき肉は俺の弱い歯に合わせて一度柔らかく煮た後、ガッチリした濃い味付けをしているからバランスが良い。こういうのを我が家の味っていうんだろうなぁ」
「お褒めに預かり光栄ですけど、そろそろ止めてあげては如何でしょうか?」
「何が? あぁ、もう終わったのか」
シルフェはメイドとしての佇まいを正しながら視線を流した。俺はもう興味が湧かないので、一々振り向く事もない。
ーーグエェェエェッ!!
ファブは胃液を吐きながら地面に蹲り、ピクピクと痙攣していた。風槍を三十二本に増やしただけで、もう龍眼の時間切れと筋力、体力の限界を迎えたみたいだ。
俺はスープを焚き火の側の床に置くと、六十四本の風槍を密集させる形で控えさせる。
ゆっくり立ち上がるとファブの側に歩いて行き、新しく覚えたスキル『威圧』を発動させながら問う。
「なぁ、お前の自信は一体どこから来てるんだ? 今までどれだけの強者と殺し合った? 一度も無いんだろう? 相手の力量も測れずに勝負を挑めばどうなるか、一度肉体と精神の芯から叩き込んでやろうか?」
これは、ある意味俺のこの人生における教訓でもある。好き勝手に転生して今の力を得ていたなら、きっと今頃『
ーー前世の俺では決して届かない強さの極み。大いなる親父、『神龍グレイズメント』のおかげで俺は『最上』を知れたんだ。
だから俺は妥協しない。慢心しない。惰性に生きない。ーーひたすらに最強を目指す。それが神龍の後継者である俺の義務だろう。
「今のお前は俺の従者には相応しくない。だが、根性があるならこの森で鍛えてやる。どうする?」
「…………するっす」
俺が冷酷な瞳でファブを見下ろすと、小さな身体を悶えさせつつ、地面に涙を滴らせながら呟きが溢れた。
だが、それを俺は認めない。
「聞こえねぇぞ! チビでも男ならデカい声ではっきり吠えろ!!」
俺が挑発すると、ファブは一瞬で立ち上がる。ブルブル震えた肉体を鼓舞させる様に全力で叫んだ。
「おいらを鍛えて欲しいっす! グレイズ様の言う事なら何でも聞きます! おいらはもっと強くなりたいんすよおおおおおおおおっ!!」
「良いだろう……ならば肉を食え! お前は食えば食う程強くなる。俺の命令に従って、強者へ至る道の一歩を今ここで踏み出すんだ!!」
「ラジャーっす! おいら肉を食いまくって、もっと強くなるっすよ!!」
「良い心がけだ! どんな事でも俺の命令には絶対従うんだぞ!!」
「勿論っす!! おいらはグレイズ様の命令に従って、仕えるに相応しい従者になってみせるっすよおおおお〜〜っ!!」
ーーよし。これで腐りかけの肉の残飯処理係をゲットしたな。時間停止機能付きの収納アイテムを手に入れるまでは役に立って貰おう。
あと、昆虫系の魔物には全てこいつを突撃させる。簡単に死なない様に鍛え上げなきゃならないな。
お互いの目的が合致しており、win-winな関係が結べて満足だ。
「そっか……これが弱者がパーティーを組む利点なんだな。目から鱗とはこの事か……」
「絶対に違うと思いますよ……グレイ坊っちゃま」
シルフェは何かを諦めた様に視線を伏せるが、正反対にファブは拳を掲げてやる気に満ちていた。
さぁ、食事を楽しみながら『パーティー』の作戦会議を始めよう。
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