第29話 『初めてのパーティー』 前編
我が家を出て、いつも向かっているギルムの里の方角とは正反対の道を俺達は進んでいた。
シルフェに舗装された道とは違って草木の根が張り、森そのものだ。
しかも陽の光が閉ざされ、霧がかかった様に視界が悪い。枝葉に遮断されているとは思えず、これこそが『
だが、『龍眼』は発動していなくても様々な力を秘めており、暗視効果も備わっているので特に問題はないみたいだ。
「まずはファブがどれだけ戦えるのかを見たい。シルフェは手を出さず、危険だと判断した場合のみファブのサポートに入ってくれ」
「了解っす!」
「わかりました」
俺が二人に指示を出すと、ファブは拳を鳴らし、シルフェは反魔の槍の石突きを地面に立てる。
どうやら緊張は無いみたいだが、お手並み拝見といこうか。
「坊っちゃま。右方向から魔物が接近しています。速度と風の乱れから判断して、フォレストウルフが三体です」
「うん、俺も確認した。レベルは低いから全てファブに任せる」
ファブは無言ままシルフェの指差した方向を見つめると、足を広げ、腰を低く落として地面に両拳を立てた。
「力強き大地の力よ、おいらの拳に宿れっす! 『
「ーーハハッ! こりゃまた、脳筋にぴったりな力だな」
俺は思わず笑ってしまった。ファブの小さな拳を土が硬め、破壊力を増しているのが分かる。
それに『綱体化』と『豪腕』のスキルも発動しているのだろう。
自分自身の肉体への負担やダメージを軽減しつつ、近距離で思いっきり殴る為の技か。面白い。瞳も金色に輝いていてってーー
ーーえっ? あれ? あいつ龍眼まで発動してね?
前、両横の三方向からファブに迫ったフォレストウルフは、鋭い牙を覗かせつつ、柔らかそうな箇所の肉へ噛み付こうと大きく口を広げた。
「うおりゃああああああああっす!!」
構えなんて何もない。ファブはただ左右同時に大地の剛拳を狼の頭部に叩きつけただけだ。
その勢いを利用して、前から迫る一匹を右膝で蹴り上げた。
賺さず空中に飛ばしたフォレストウルフの腹を殴ると、無理矢理な力で肉ごと抉って絶命させた。
最初に地面へ叩きつけられた二匹は頭部ごと地面に陥没しており、ピクリとも動かない。
「うっす! あざっした!!」
「「…………」」
ファブは何故か戦闘が終わった後、「押忍っ!」みたいな感じで両腕を交差しては振り下ろし、一礼している。お前はどこの空手家だ。
それはともかく、こいつ龍眼まで発動出来るのか。全然羨ましくないけどね? 寧ろこんな敵相手に発動させちゃうなんて、必殺技のロマンってもんが分かってないよなぁ。
ーーえっ? 俺? 発動出来ませんけど何か?
「ファブは当分の間、龍眼禁止。修行になら無いからな!」
「ええええっ⁉︎ でも、おいら龍眼を発動しないと大地の力を上手く操れないっすよ?」
「そうそう、だから禁止だ! ーーってそれ、どうゆう事?」
「おいらの龍眼はちょっと特殊で、発動中はMP消費無しで無制限に土魔法を使用出来るんすよ。だから、発動してないと、さっきの戦闘みたいに大地の力を借りるのも難しいんすよね」
何それ。俺の言った弱点をばっちりカバー出来る素敵能力持ってますやん。シルフェがうんうんと頷きながら同意している。
「私も発動時に風の流れから動きを読む力と、動体視力、敏捷が跳ね上がるんですけど、普段はグレイ坊っちゃまに禁止されてて、慣れるまでに苦労しましたよ」
「あちゃ〜! シルフェさんがそう言うなら、やっぱ龍眼に頼りすぎるのも問題なんすねぇ」
「精神の消耗が激しいので長時間保ちませんから、良い修行になると思えば楽しいですよ」
「そうっすか! なら出来るだけ我慢するっすよ!」
「……お前達、ちょっとここで待っててね」
「「??」」
俺は生い茂った樹木の裏に隠れるように移動すると、地面を激しくゴロゴロと転がった。
「ぬああああああああああああああああああああああああ〜〜!! 俺も龍眼使えるようになりたいいいいいいいいいいいっ!!」
あまりの悔しさから、ダンダンと音を立てつつ木の幹を叩く。そのまま頭突きをしながら心底身悶えた。
「必殺技じゃん! もうそれ竜人なら使える必殺技じゃん! なんで俺スキルにあるのに発動出来ないんだよ⁉︎ 落ち着け、俺。諦めたら試合終了だ。あの残念メイドに脳筋小僧まで使えるんだ。俺に出来ない筈があるまい」
俺は土埃をはらうと冷静を振る舞い、柔らかく微笑みながら二人の元へ戻った。
一体どうしたんだろうと言った視線が胸に突き刺さるが、気にしてはいけない。
「おっほん。体感的にはそろそろ日も暮れる。これからの連携についても説明したいから、ファブは焚き火の為の枯れ木集めと、周囲を囲む丁度いい石を設置。シルフェは食事の下拵えと準備。俺は今夜寝る小屋を建てる」
「了解したっす、グレイズ様!」
「分かりました、坊っちゃま。肉は先程のフォレストウルフの肉を捌きますか?」
「いや、どっちにしろ腐らせるのは勿体無いから『
「はい!」
指示を受けた二人がテキパキと行動を開始する。ファブは「テントじゃなくて小屋?」っと首を傾げていたが、俺はテントなんかじゃ寝たくない。
ーー何故なら、虫が嫌いだからだ!!
前世から何故か苦手なんだ。狩った獣とか、ぶっちゃけて言えば人の死体とかは平気なのに、虫だけはなんて言うか嫌悪感を催す。
空中都市パノラテーフにも残念ながら昆虫は存在し、しかもかなり地球よりデカイんだ。
唯の蚊が、カブト虫位のサイズって思って貰えれば良い。それに伴って甲殻類は成人男性の拳くらい大きいんだよ?
人族の世界には蟲使いって職業があるらしいけど、そんな奴と敵対したら、ーー斬れないかもしれない。
ちなみに『職業』は異世界ハースグランにおいて人族だけが重要視するシステムらしく、俺達竜人族に拘りは無かった。
どの職業に就くかで与えられる加護が変化するらしいが、俺達は古竜から各々の属性に適した加護が貰えるからね。
ーーまぁ、いつかパノラテーフから旅立つ時に考えれば良い。
「どうすれば簡単に小屋を建てられるかな。今後の事も考えて、手順は最短の方がいい。必要なのは魔獣の入れない頑丈な壁、空気穴、トイレの為の堀穴と簡易便器。食器とテーブル、椅子はシルフェが用意しているとして、ベッドは……今日はいいか」
カティナママンのリュックには寝袋が入っている。正直俺達は子供だし、疲れれば勝手に眠れるだろう。どっちかというと見張りの方がキツい。
だから、頑丈さは大事だ。
まず、
元から内部に閉じ込めた対象を捕らえるだけあって、頑丈さは充分だろう。
「さて、次は空気穴と入り口か。シルフェ〜? ちょっと来てくれ」
「はい。どうかしましたか? ーーって、これもう小屋じゃないですね……流石はグレイ坊っちゃま……」
呆れた目を向けつつ駆け寄ってくるシルフェに位置を説明すると、上手く『
俺は入り口の扉部分の地面に魔力を流し込むと、壁をずらしてレールを作り、方引きタイプのスライドドアへ変形させる。
俺の知る限り、これで大抵の知能の低い魔物や魔獣は入ってこれない。結果はファブでお試しといこう。
部屋の隅に常設した土壁にも同じ作りで個室トイレを作る。土魔法を応用して地面に穴を掘ると、便器を設置。
ズレないように三センチ程盛り上げた土で固定すると、水魔法で穴へアクアを流し込む。臭い消しだ。深さも十メートル以上にしたから、これで問題ないだろう。
便器はまだレベルが足りなくて四角くゴツゴツとした造りになってしまったが、簡易トイレだし気にはすまい。茂みでするよりマシだよね。
(問題は……紙か)
この世界にも塵紙はある。地球のトイレットペーパーに比べるとガサガサしていて質が悪いが、尻拭き程度は問題のないレベルだ。
だが、サバイバルにおいてそんな我儘は言ってられない。普通ならそう思う。だからこそ何とかしたいなぁ。
とりあえずいい名案が閃かなかったので、リュックに入っていた塵紙を設置した。
ウオッシュレットはまず無理だ。仕組みは大体理解出来るけど、現状の俺が使える魔法で補えるレベルを超えてる。
ちなみに葉っぱで尻を拭くのはアウトだ。この世界の植物に詳しくない以上、かぶれたり毒を貰ったら堪らない。
ーーまぁ、今後のサバイバルの課題としておこう。
「不出来だけど、こんなとこかなぁ」
「「…………」」
俺が入り口から外に出て腕を組んでいると、背後に控えていたシルフェとファブは縦横六メートルの建物を見て、口をポカーンと開いて固まっていた。
この間、大体十五分位だ。今後の事も考えると改良の余地はあるけれど、最初の出来としては悪くないと思いたい。
いつか冒険者とか探検家に会えたら、色々教えて貰おうと心に決めた。
取り敢えず、虫を防いでくれれば問題は無いのだ!!
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