第27話 レベルアップの仕組みと突然の来客。

 

 カティナママン誘拐事件から三日が経った。


 俺は部屋のベッドの上で寝転がりながら、一人で収納空間アイテムストレージの整理をしている。


 知恵の種子の効果なのか、魂の石版ステータスと同じ様に収集した素材やアイテムが一覧として日本語で表記されているのだ。


 既にこの世界の文字も読み書き出来るようにはなったが、やはり親しみ慣れた文字の方が理解が早い。


 種族によって言語や文字が異なるならどうしようと焦ったが、一部の特殊な種族を除いて言語や文字は共通していると教わって安心した。


 学ぶこと自体は嫌いじゃないけど、限度はあるからね。新しい種族に会う度に言語を習得しなきゃいけないなんて流石に耐えきれないっす。


「あれ? これってあの成龍が担いでた大剣じゃね?」


 俺は収納空間アイテムストレージのリストから、『大地ガイアの大剣』を取り出した。


(間違いなくアズバン・ダイナスの大剣だ。でも、一体いつの間に収集コレクトしたんだろう?)


 ママンから授業で教わったのは、『収集コレクト』と呼ばれる収納空間アイテムストレージの機能だった。


 どうやら一々素材を剥いだり面倒くさい事をしなくても、倒した魔物や魔獣の欲しい部位を指定するだけで収納してくれるという便利な機能で、魔力を消費するが使い勝手が良い。


 俺は一度大剣を仕舞うと、リビングにいるシルフェに聞く事にした。


 カティナママンは『神の霊薬エリクシル』について調べたい事があるらしくて、書斎に籠っている。


 この世界にも眼鏡は存在しており、白いローブに眼鏡を掛け、美しい金髪をサイドに纏めている姿を見て鼻血を出した事は秘密だ。


 真剣な表情のママン、眼福っすわ。


「シルフェ〜? ちょっと聞きたい事があるんだけど良いか?」

「如何なさいましたか? 丁度ビビリーラビットのもも肉の仕込みが終わった所なので、何でも聞いて下さいな」


 シルフェはフリルの付いたエプロンを外してカップに紅茶を注ぐと、二人でテーブルを囲む。シルフェは何故かお茶を入れる腕だけは一流なのだ。


 料理の腕も良い。俺は我が家の七不思議の一つだと思っている。まぁ、七不思議中五つをこいつが独占しているけれどね。


 俺は紅茶を冷ましながら、本題に入った。


「あのさ、魔獣や魔物の『素材』や『魔核』を収集コレクトで収納するのは知ってるんだけど、勝手に収納空間アイテムストレージに新しいリストが増える事なんてあるのか?」

「普通にありますよ。主に対人戦やレアな敵を狩った際に、『ドロップ』と呼ばれる現象が起きます。運や確率にも寄りますが、対人戦の場合相手の収納空間アイテムストレージから価値の高い物が移譲されますね」


 まじか? 何その素敵な仕組み。要は強者を倒せば勝手にレアアイテムばんばんゲットって事だろ? 覇幻で壊さないように注意しなきゃ。


 それにしてもこのシルフェの物言いからして、俺の知らない常識ってまだ多いんだな。多分、カティナママンが敢えて伏せている情報もあるのかもしれない。


 あの人は本当に思慮深く、頭がいい。そして親なだけあって、俺の行動パターンを読まれている気がする。


 全然構わないけどね。ママンは俺の指針だ。前世とは違って絶対に失いたくないって思わせてくれる親なんだから。


 俺は元々本当の両親を知らない。子供の頃から施設で育ち、俺を引き取ってくれたの義理の両親も、正直ろくでもない親だったと思う。


 ーーまぁ、お陰で今の俺がいると思えば感謝はしているけどね。


「そう言えば、グレイ坊っちゃまのレベルは今どれくらいなんですか?」

「あぁ。さっき確認したら22まで上がってたよ。でも、多分レベルの高い低いってあんまり強さの意味ないぞ」

「ーーふぇ?」


 シルフェが素っ頓狂な声を上げて首を傾げる。俺は昨日一日中悩んだ結果、ある仮説を立てた。因みに今の俺の『魂の石版ステータス』はこうだ。


 __________


【グレイズ・オボロ】

 種族:竜人族

 年齢:3歳

 Lv:22

 HP:26450(820)

 MP:23152(710)

 力:4005(190)

 体力:3913(185)

 敏捷:3537(168)

 魔力:10170(140)

 精神力:5615(161)


【スキル】:知恵の種子、鑑定(小)、縮地、無詠唱、魔気融合、龍眼、剣術、体術、豪腕、狙撃、魔力解放、魔力収束、威圧。


【称号】:天衣無縫の剣士、神龍の加護、嵐龍の加護、転生神の加護、武神の加護、神殺し、龍殺し、貧乏神の想い人、殲滅者。


【装備】

『慈愛のネックレス:自動物理障壁(極)自動魔法障壁(極)神話級』

『輝天龍のサークレット:状態異常無効化(極)伝説級』

『闇隠龍のマント:認識阻害(極)国宝級』

『覇幻:???』


【神格保有数】:2

機械神デウス・エクスマキナ』:神格スキル『支配領域レギオンルーラー

嵐龍テンペストドラゴン』:神格スキル『嵐龍砲テンペストカノン


『神龍の加護』→レベルアップ時の必要経験値減少、ステータス成長補正(極)

『嵐龍の加護』→風属性の攻撃耐性上昇(極)、風魔法の習得補正率上昇(極)、スタータス成長補正(大)

『転生神の加護』→獲得経験値増(大)、ステータス成長補正(中)

『武神の加護』→武具、防具の強化補正上昇(極)、強化成功率百%、ステータス成長補正(大)、物理耐性上昇(中)

『神殺し』→魔法攻撃ダメージ2倍、聖属性攻撃耐性上昇(極)

『龍殺し』→物理攻撃ダメージ2倍、物理防御上昇(極)

『貧乏神の想い人』→強くなれば強くなる程、武神の愛が深まり自身の持てる所持金が減少する。周囲の者への影響は皆無。

『殲滅者』→威圧のスキルを発動時、自分よりも弱い敵を恐慌状態に陥らせる。


 __________


 明らかに自分よりもレベルの高いアズバンを前にして、俺は瞬殺とも呼べる戦いぶりを披露した。


 アレから色々と考察してみたのだけど、多分俺のLv22とアズバンのLv64なら、俺の方が数値が高いんだ。


 それに、加護や称号によるステータス補正もある。


 あまり気にしていなかったけど、『神殺し』や『竜殺し』ってチートなんじゃないかな。それに加護にあるステータス成長補正などは、きっと伸び代に影響していると思う。


「あのな。多分だけど一回のレベルアップで伸びる成長率が高い者ほど、レベルアップの為の経験値が必要になるんだと思う。だからレベルは確かに高ければ良いけど、成長率が低い奴程上がりやすいから参考にならない」

「えぇえええええええ〜〜⁉︎」

「煩い。俺はカティナママンに禁止されてるからシルフェに数値は教えられないけど、HPの上昇率だけ言い合おう。それで多分わかる」


 俺は半分以上疑っている残念メイドに対して、冷静に提案した。すると、余程自信があるのか無い胸を張って答えてくる。


「私はレベルが一つ上がる度に115もHPの数値が上がるんですよ!! どうです坊っちゃま? 驚きましたか?」

「……俺は230だよ」


 どうしよう。思ったよりも数値に差があり過ぎて、思わず嘘をついてしまった。だって七倍近く違うなんて知ったら、小娘の事だから不貞腐れかねない。


 その分俺はレベルが上がりにくいんだよ? でも、神龍の加護と転生神の加護がそれさえ緩和してるんだろうなぁ。


「そうですか、そろはそれは良かったですねぇ〜?」


 あっ、この野郎全然信じてないな。目が笑ってるもんね。どうせ、子供だから強がっちゃってるんでしょうとか、憐れんでるのが視線から伝わる。


 ーーでも、これはママンとの約束だから言わない。まだ検証も終わってないしね。


「とにかく知りたい事は分かったよ。ありがとな」

「いえいえ。坊っちゃまの可愛い所も見れましたし、私も満足です」


 この誤解はいつか解いてやらなきゃなぁ。でも、少しだけ面白いから放置でも良いかぁ。俺はそのまま眼を細めてシルフェに問う。


「さて、お客さんみたいだけど気付いてたか?」

「はい。ですが、気配の隠し方からまだ未熟な者の様に思えます。それとも、元から隠す気が無いのかもしれませんね」

「カティナママンに害なす者なら殺す」

「……えぇ。この程度の者ならば、私が参りましょう」


 シルフェはメイド服の上から『反魔アンチマジック』の装備を装着し、槍を立てて入り口へ向かい合った。


 俺はその背後で様子を見つつ、『鑑定(小)』を発動させる。


【ファブ・ガイアス Lv13】


(どうやら大地龍の遣いって考えた方が良さそうだな。態度次第で殺す。カティナママンに手を出した罪に加えて、懲りて無いみたいだし)


 俺は静かに気を練りながら、魔神霊装を発動させる準備をした。覇幻は再び取り上げられて、何処かに隠されてしまったからだ。


 魔力で撃退するしかないってどうなん? 何の縛りプレイですかママン?


「シルフェ、油断するなよ?」

「はい。来ます!」


 ーーコンコンッ!


「お邪魔するっす〜! おいら地の縄張りから巫女様に謝罪に来たっすよ〜! 入って良いっすか?」

「「??」」


 シルフェが入り口の扉を開ける。その先にいたのはシルフェと同じ歳位の子供だった。


 ニカッと八重歯を見せながら笑う少年から、敵意は感じない。


 茶色い短髪に茶色の瞳。右腕に宿った龍麟の色からして、嘘をついて無いのは明白だ。だが、無邪気そうに見えて放っている龍気は激しい。


 うん、脳筋決定だな。身長はシルフェと同じで小学校四年生程度の大きさだ。


「お前は何者だ?」

「初めましてっす、グレイズ様! おいらは地の縄張りからグレイズ様に仕える為に派遣されたっすよ!」

「……いらん。帰れ」

「うえええええええ〜〜⁉︎ おいら役に立つっすよ〜? 爺ちゃんのお墨付きっす!」


 ゔわぁ……大体こいつが何者なのか予想ついちゃったけど、面倒くさすぎるだろ。


 おいおい、大地龍様よ。これで今回の件を手打ちにしようってか?


「自己紹介が遅れたっす! おいらは地の縄張りの王である大地龍ベイル・ガイアスの孫! ファブ・ガイアスっすよ!!」

「えっと、うん。厳正なる選考の結果、誠に残念ながら今回は採用を見合わせて頂く事になりました。ーーとりあえず帰ってくんない?」

「そんなああああああああああああああっ⁉︎ 絶対嫌っすよ!!」

「うるせぇ! 帰れチビ助!!」

「チビって言う方がチビなんですううううっ!!」


 あぁ、俺の平穏が乱される気がする。

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