第26話 カティナママンのお説教タイム。

 

 やぁ、みんな元気かい? 良い子の朧君だよ! 僕はね、今回結構頑張ったと思うんだ。カティナママンを攫った敵を殲滅し、ヒーローの様にママンを救い出した。


 えっ? 一部グロい? 大丈夫。そこら辺はモザイク入れっからさ。


 普通なら「グレイちゃんは良い子でちゅね〜! お礼にママンのおっぱいを沢山飲んで良いわよ〜?」的な展開になると、期待に胸を膨らませていたのですよ。


 倫理? 道徳? 僕まだ幼児なんで知りまちぇん!!


 はい。ところがどっこい、目覚めたママンに抱き着いた結果、俺は両脇を抱えられてそのまま木製の床に降ろされ、何故か正座されられているのさ! 


 何故? Why? こっちが聞きたいよ。だってカティナママン、滅茶苦茶怒っておりますもの。俺は冷や汗をダラダラと流しながら、必殺の『チワワ的なアレ』を発動させる。


 ーーだが、怒れるカティナママン相手には無意味だった。余裕で演技を見破られている。


「グレイ。何で自分が正座させられているか分かりますか?」

「……分かりません」

「今回の事件の話を聞いて、何点か気になった所があります。正直に答えて頂戴」

「……あい」

「ーープフッ!」


 項垂れる俺を見て、笑いを堪えていたシルフェが噴き出した。腹まで抱えている。何だろう、この胸の内を支配するドス黒い感情は?


 今なら神気と龍気の融合さえ叶いそうな気がするぜ小娘?


「護衛である私を置いて行くからお説教される羽目になるんです! 良い機会なので、坊っちゃまの日頃の私への扱いも含めて報告させて貰いましたからね!」

「……黙れお漏らし女。今度オムツでも買ってきてやるから、大人しくしてろよ」


 俺は立ち上がると怒りの感情を露わにして、右手をクイっと内側に向けるとシルフェを挑発する。燃えよドラゴンやったりますわ。


 頬を真っ赤に染めた残念メイドは、カティナママンの服の裾を掴んで反撃を始めた。正確に言えば懇願しやがった。


「聞きました巫女様⁉︎ このままじゃ坊っちゃまは歳上を敬わない残念な大人に育っちゃいますよ⁉︎ 矯正するなら今です、今!!」


 必死に自らの正当性をアピールする小娘は、見ていて残念で仕方がない。まぁ、九歳の子供にムキになってどうする。落ち着け俺。


 明日の訓練でひたすらパンツを奪ってやれば良いさ。『ノーパンツ、ノーライフ』って称号つかねぇかな。


「あのね。そもそもどうしてシルフェは私の横に立っているの? 主人であるグレイが正座しているのよ〜? 心が痛まないのかしらぁ?」

「ーーうえぇっ⁉︎」


 予想外のママンの言葉を受けて、シルフェは目玉が飛び出しそうな程面白い顔をしていた。ーーざまぁ。


「そもそもグレイが歳上を敬わない大人になったって、何も問題ないわよ? だって神龍様の後継者なんだから、全ての者はグレイに向かって跪けば良いの。それが世界の常識でしょう?」

「えっ? ふえぇっ⁉︎ 巫女様、恐れながら何かが盛大に間違っている気がするのですけど⁉︎」

「シルフェは巫女である私の言葉を疑うと? あぁ、そうですか……残念ながら新しい乳母兼メイドを募集するしかありませんねぇ」

「わ、私クビ⁉︎ ーーたった一言反論しただけでクビ⁉︎」


 おいおい、俺を置いて話がどんどん逸れていってるし、だんだんと足がジンジン痺れてきてるんですけど!


「ママン……? シルフェが矮小で愚鈍な下等生物で下級戦士なのはしょうがない事実だから、ちょっと話を戻そうよ。今回の作戦で何が悪かったのか教えて欲しいなぁ? ほら、シルフェもこっちで正座しろ」

「下等生物……下級戦士……」


 シルフェは大人しく俺の横で正座すると、死んだ魚の目をしながらブツブツと呟き続けていた。本当にこの年頃の子供は繊細だなぁ。


 是非、緋那を見習って欲しいもんだ。


 初めて俺の剣を受け切った時のドヤ顔を見て、二日間徹底的にボッコボコにしたり、料理に麻痺毒なんて仕込んで来るものだから、さり気無く皿をすり替えて別の毒を追加で盛ってトイレの住人にしたり、初めて好きになった男の子の写真を机の引き出しの裏に隠しておくものだから、ついつい紙飛行機を折って飛ばしたり、その他色々含めて強く育ってくれた。


(俺、教育には自信があるんだよね! なんたって見ず知らずの子供を立派なJKに育てあげてるし! 最後に裏切られたけどな!)


 だが、そんな風に胸を張る俺を見てカティナママンは目を細めると、再び俺を正座させ、淡々と説教を始めた。


「まず、誕生日にあげた闇隠龍のマントはどうしました? 今回装備していましたか?」

「……あっ!」


 やべぇ。完全に忘れて収納空間アイテムストレージに仕舞ったままだった。『闇隠龍のマント』には認識阻害(極)の効果がある。確かに闇夜に紛れれば暗殺プレイが出来たかも。


「忘れてましたね? 私がグレイに贈ったアイテムは全て貴方自身を守る為にあります。これからは常に装備しましょう」

「……あい」

「次に、何で勝手に神刀を持ち出しているのですか? ママンは許可していませんよ」


 やべぇ。そう言えば以前に覇幻を使って良いのは、ママンから許可を得た時だけって約束したんだった。


 でも、今回みたいな場合、緊急措置的な感じで許されても良いんじゃない? 神気の大切さを学びましたよ僕!


「言い訳は聞きません。ママンとの約束を破りましたね?」

「……あい」

「じゃあ、教えて下さい。どんな罰が一番苦しくて嫌ですか?」

(そ、それを俺に聞くんすか⁉︎)


 俺は目を見開いて驚愕した。確かに効果的過ぎる。


 俺がカティナママンの寝顔と胸を見続けた事により一瞬で無事が確認出来るように、ママンには俺の表情を見れば感情や嘘が伝わってしまう。


「グヌヌッ……」

「巫女様。恐れながら申し上げますと、坊っちゃまにはそろそろ乳離れをして貰っては如何でしょうか?」

「ーーーーはぅわっ⁉︎」

(この小娘⁉︎ 強かにも逆転のチャンスを狙っていやがったのか⁉︎ やだやだやだやだあああああああああああああああああっ!!)


 ニヤリと口元をつり上げるシルフェを見て、俺は決意した。その希望が叶った時がお前の人生の終りだ。


「嫌よ。私の母乳がグレイを育てる糧になるなんて、これ以上の幸せは無いわ? だからそれは絶対に嫌。寧ろグレイにとっても罰じゃ無いもの」


 いえ、ママン。残念ながら俺が先程から頭に思い浮かべていた最上級の罰がそれだったんだよ。寧ろそれ以外の罰が思い浮かばない程に、俺は貴女の巨乳に夢中ですよ。


 ーーでも、今の俺には言うべき言葉と渡すべき物がある。


「じゃあ、死なないで欲しい。カティナママンに死なれるのが一番辛いよ。俺にとって最上級の罰だ。だから、これを受けとって欲しい」

「…………」

「…………」


 カティナママンとシルフェは無言のまま、俺の差し出す『神の霊薬エリクシル』を見つめていた。


 ママンは俺の手元からそっと霊薬を受け取ると、突然膝をついて床に崩れ落ちる。巫女に選ばれるだけあって、一目で効果を理解してくれたみたいだ。


 ーーまぁ、バリバリに神気を放ってますしね。


「あっ、あああああああああああああああああ〜〜!!!!」

「ど、どうしたの⁉︎」

「ーー巫女様⁉︎」


 俺とシルフェが驚いてママンを起こそうと両脇を抱えると、思いっきり首を絞められながら抱擁された。


「ありが、とう……私は、もっと生きたかった! グレイを遺して一人で死ぬなんて絶対やだったぁ!! もっともっと甘えて欲しくて、もっともっと一緒にいたくて……でも、でもぉ!!」

「……泣かないでよ。ママンにはずっと生きていて貰うんだからさ。これからも俺が間違ったら説教してよ」

「ヒグッ、ウグウゥウウウウウ〜〜!!」


 おい、煩いぞ。なんでママンよりお前の方が泣いてんだよ小娘。あ、駄目だ。俺もかぁ。


「「「うわああああああああああああああああん!!!!」」」


 俺達は三人で抱きしめ合いながら暫くの間、額を擦り付けあって泣いた。号泣した。鼻水なんて気にしない位にぐっちゃぐちゃに泣き喚いた後、三人で川の字になって寝た。


 ありがとな転生神ボウヤース。いつか必ず恩を返すよ。こんなにも有用な神だなんて、出会った頃は思いもしなかったんだ。


 だって、お前黒い影だったしね。明らかに怪しい奴だったじゃん? 今は疑って悪かったなって心から反省してるさ。


 ーーまた必ず会いに行くよ。お前を俺の眷属にする事が今日決定したんだからね。

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