第22話 三歳になりました!

 

 ーー神格保有者。

 ーー深淵龍アビス化への懸念。

 ーー俺自身の成長。

 ーーカティナママンの寿命。

 ーーシルフェの胸の絶壁具合。


 色々と問題は積み重なっていたが月日は流れ、先日俺は三歳の誕生日を迎えた。


 異世界ハースグランでは一年が二百四十日だという事に最初は違和感は覚えたが、人間の適応能力とは凄いもので、見事に順応出来ている。


 誕生日を祝うのは一歳、三歳、五歳など奇数の歳だ。偶数の歳はいつもより食事が豪華程度に抑えられる。

 これは竜人だからという訳ではなく、どの種族でも共通していると聞いた。


【闇隠龍のマント:認識阻害(極)国宝級】

【輝天龍のサークレット:状態異常無効化(極)伝説級】


 ちなみに今年の誕生日プレゼントも凄かったです。

 装着者の成長に合わせてサイズを自動調整してくれる『付与』も施されていた。愛され過ぎてるね、俺。


 つか、伝説級アイテムを作り出せるバウマン爺……恐るべし。


 これは元々、神龍パパンに各属性の古龍の里から奉納された素材が使われているらしく、巫女であるカティナママンはその使い途を好きに出来る権利があった。


 故に巫女の存在は狙われ易く、危険が付き纏う。


 そんな中でも何より貴重で価値が高いとされるのが、カティナママンの胸元と、俺の額にある虹色の龍鱗らしい。


 装備のクラスは下から『下級』、『中級』、『上級』、『特級』、『国宝級』、『伝説級』、『神話級』と上がっていく。


 下級から特級までは更に『下位』、『中位』、『上位』で等級ランクが細分化される。


 虹色の龍鱗、即ち神龍の加護を受けた鱗で作った装備は『神話級』、つまり一歳の誕生日でカティナママンから貰った『慈愛のネックレス』は神話級アイテムだ。


 少なくとも、一歳児にあげるプレゼントじゃないよね。


 そんな訳で、俺は現在『魔陰の森』にいる。新しい装備の確認をしつつ、シルフェと一緒に日課である狩りをしていた。


「ほら、俺が牽制するから回り込め!」

「はいっ! ってゆーか、いつも私ばっかり突っ込ませてませんか坊っちゃま⁉︎」


 異世界の言葉も流暢に話せる様になり、コミュニケーションが俄然取り易くなった分、最近シルフェが煩い。


 魔陰の森の魔物や魔獣は深奥へ進めば進む程に、脅威度と呼ばれる値が上がる。


 俺の『鑑定(小)』は未熟で、自分の装備やスキルの凄さも小、中、大、極という大雑把な値しか表記出来ない。


 それと同じように敵の脅威も、未だにレベルしか測れなかった。


「まぁ、無いよりマシだね……おっ? ビビリーラビット発見! 今日こそ仕留めてみせろよ小娘!!」


 俺の視線の先にはカティナママンの好物である丸々太った兎がいた。この外見で、一体何故素早く動けるのかは未だに謎だ。


 真白い毛に三本角を震わせながら、逃走の準備を始める丸兎を念の為に『風の檻ウインドプリズン』で包囲しておく。


 俺には適正属性なるものは無かった。正確に言うと、どの属性であろうと習得さえすれば発動出来る。


 ーー治癒魔法以外は、だったが。


 どれだけ試してみても、目の前で発動して貰っても、治癒の力だけは一切発動しなかったのだ。『ヒール』は初級魔法であり、属性は関係ない。


 魔術ならばと魔法陣を展開させてみても、うんともすんとも発動しなかった。才能とか認めないし、納得しませんけど?


 聖属性に秀でたものだけが『上位』の治癒魔法や魔術を使えるというだけであって、カティナママンは勿論の事、シルフェでさえ初級治癒魔法は使用出来る。


 だが、俺には無理だった。その代わりに闇魔法の『吸生』と『吸魔』で回復は出来る。『付与した武器で相手にダメージを与えた分だけ』っていう物騒な力だけどね。


【ビビリーラビット レベル25】


 ギルムの里へ向かう方角で、これ程のレベルのビビリーラビットが発生するのは珍しい。


 俺はお手並み拝見と、シルフェの鍛錬の成果を眺めている。


「ーーハアァァッ!!」

「……何であいつは一々攻撃を仕掛ける度に気合いを発するんだよ」


 馬鹿だ。何度注意してもシルフェは攻撃を仕掛ける度に裂帛の気合いを咆哮する。

 結果として、不意打ち自体が成立せずに回避されてしまう。


 攻撃しますよ、と自ら声をかけてるもんだ。地球だと胸が大きい女は頭が悪いと言われがちだったけど、この世界では貧乳の方が頭が悪いのかもね。


「坊っちゃま〜〜? 今、何か不穏な気配がしたのですけれど?」

「……ナ、何デモナイヨ」


 この二年間で成長したのはシルフェも同じ。


 元々才能があったのはともかく、伸びた身体の成長に合わせて新しくバウマン爺に打って貰った装備は、『反魔アンチマジック』の効果を伸ばして維持したまま、攻撃力と防御力を高めていた。


 ちなみにこの装備に使われている『反魔石』はかなり高額で希少らしく、二度と訓練なんかで壊すなと二人して脅された。


 脆いからだと反論していたら、ボコボコにされていたかもしれない。


 魔力、魔法の類を軽減するのではなく、打ち消す効果がある装備は、パノラテーフに住まう鍛冶師にとっていわば『革命』なのだと言う。


 その代わりに物理攻撃に脆く、まだまだ改良が必要らしい。


【反魔の槍:魔力無効化(中)特級中位】

【反魔の鎧:魔力無効化(大)特級下位】


 いいなぁ。俺も早く『覇幻』を振るいたいよ。家のどこに隠されているのか大体検討はついてるけれど、刀身二尺五寸。こんな小さな身体では、振るわれる刀が可哀想だ。


「うあああああああああああああああ〜! 逃げられたあぁぁ〜!!」

「……はぁっ」


 ビビリーラビットは既に視認できる範囲には居らず、真逆の方向へ一直線に全力で脱兎していた。


 俺は溜め息を吐くと、風の流れを追いながら元々こうなると思い、右拳を握りこんで『風の檻ウインドプリズン』を発動する。


 視認不可の風に引き摺られて俺の眼前へ押し戻されたビビリーラビットは、地面に伏せながら困惑の表情を浮かべていた。


 どこまで逃げようが、一度魔法が発動した範囲内に捉われた対象を逃す事はない。


 これこそがカティナママンにビビリーラビットを望んだ分だけ献上すべく、編み出した魔法だ。


 ーーちなみに、完全なるオリジナル魔法である。


大地の檻アースプリズン』という魔法があると知って、それなら風でも出来んじゃね? っと試した所、簡単に出来た。


風の檻ウインドプリズン』の優れた所は、対象が離れても引き戻せる所である。


 土魔法は逃げられたら終わりの為、より強固な檻を作ろうと進歩していたけど、俺からすれば敵が一番隙を作りやすいのは脱出に成功した後だ。


 強張った筋肉は弛緩するし、張り詰めた緊張から乱れていた呼吸を整えようとする。


 そんな中で、いきなり元の場所へ引き摺り戻された時の絶望感は果てしないだろう。まぁ、魔物や魔獣の気持ちなんて知らんけど。


「お見事です……坊っちゃま」

「シルフェはまた俺の教えを守れなかったな。いつものお仕置きを与える」

「そ、そんなぁ〜!! 丸兎以外はちゃんと狩れてたじゃないですか!」

「カティナママンに同じ言い訳出来る?」

「……どうぞ、我が主人の思うがままに」


 シルフェは観念したのか、黒のニーハイソックスを脱ぎ始めた。これで一体何度目になるやら。


「今日はちょっときつめにいくからな! 面倒くさいから失神するなよ」

「坊っちゃまこそ、手加減なんていりません! 武装メイドの根性見せたりますよ!!」


 最近、微妙にだけど俺の口調がシルフェの成長に影響している気がする。


 俺は風魔法と水魔法を融合すると、『複合魔法』を発動した。


「お仕置きだ! 『水流竜巻アクアトルネド』!」

「アヒャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア〜〜!! らめぇ!! 漏れるううううううううう〜〜!!」


 さて、ここで良い子の皆様に俺が編み出したオリジナル魔法を紹介しますね。


 一、まず、シルフェの足首から先を『風の檻ウインドプリズン』で囲います。この際、残された手首と足首を土魔法で地面に固定しましょう。

 暴れるのを防ぐ為で、別に股は閉じていてくれて構いません。


 二、次に風の檻の中を初級水魔法の『冷たい水アクア』で満たします。冷んやりする事この上ないでしょうね。


 三、上級魔法の『竜巻トルネド』を範囲内に発動させれば、さぁ大変。風の檻の中は激しい水渦と化し、シルフェの足を擽ぐる訳ですね。


 ようはただの足擽りっすよ。それの上位版です。だけど効果は覿面テキメン!! 悪戯っ子のお仕置きに如何ですか⁉︎ 今なら魔法が使える貴方なら、異世界お値段価格なんと0円!!


(やっす〜〜い!!)


 まぁ、小芝居はともかく凄惨な光景が目に余る。この後どうしよっかな。また川で洗濯かぁ。


 色々漏らしちゃいけないものを漏らしつつ、舌を口元から横に垂らしてアヘ顔を晒している我が家のメイドは、身体をビクビクと震わせながら絶頂しているみたいだ。


(お仕置きの方法変えようかな……これ、俺の方がトラウマになる気がする)


 俺は軽い溜め息を吐きつつ、近場の木陰に腰掛けた。

 シルフェを狙ってる馬鹿な魔獣を『風氷の槍アイスランス』で排除する。


「レベル上げは順調だ。でも、ママンの寿命を伸ばすには一体どうしたらいい……」


 小さく膝を抱えて蹲りながら思う。カティナママンはいつも気丈に振舞っているし、母乳も以前より出は悪くなっているけどまだ出る。


 でも、明らかに食欲が衰えていた。だからこそ、この狩りについて来ていないのではないか? 本当は家の中で一人、苦しんでいるのではないか?


 ーーそんな事は許せない。認めない。


 俺は二歳になってからスープを中心として普通の食事を取るようになった。三歳にもなって母乳をまだ飲むのは、離乳の平均的時期からすればおかしいのだろう。


 でも、ママンが幸せそうな顔をするなら俺は母乳を飲む。たまに、さり気無く揉む。


 そんな俺の思惑なんて全部受け止めて、微笑むママンが愛おしい。だから俺は考えてしまっていた。


深淵龍アビス』に堕ちてでもいいから、この大陸を出てカティナママンを救う手立てを探してしまおうか、と。

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