第2話 王の友情

 男は涙を流していた。ジャングルジムの上で泣く男を他人とは思えず、変わった人だと思った俺たちは不思議がって登った。タクヤが男の肩を叩くと、男は眼を開いてタクヤに話し始めた。

「俺の書いた小説を読んでくれ。」、そう言ってジャングルジムを降りた男は持っていたカバンからくしゃくしゃな字でジャングルジム・ティーンと書かれた紙束を持ってきた。


 俺たちはジャングルジムをしなやかに降りて登る男を見て奇異な眼で見ていた。そして、タクヤが例のジャングルジム・ティーンを読み始めた。


ージャングルジムには、8人の男が集まった。だれが王になるか、だれが王にふさわしいか、決めるたたかいがここに始まった。王は一人しかなれない。

 王にクーデターを起こした6人はみな血の○○る思いでこちらを見ていた。ー


 なんとなく想像できたが、男のジャングルジム・ティーンを面白いとは思えなかった。パイプにお尻に食い込み、痛くなってきた。タクヤも降りたそうにしているから、俺は男に訴えた。

「おじさん、お尻が痛いので降りていいですか?」

 男は「わかった。下のベンチで読むから聞いてね。」

 タクヤと俺はベンチに座って、男が読むのを聞いていた。


 男が語り始めた。

 ー俺の青春は、ジャングルジムにあった。王でいたかった。王は一人でなければならなかったし、俺は王に相応しいと思っていた。部下と呼んでいた奴らのことも全て知っていると思っていたんだ。まさか部下の一人、ケンイチが転校生のタカヒデを突き飛ばすとは思ってもなかった。


 ケンイチは体格が良かった。俺はケンイチより身体は細かったが、体操をしていたからかしなやかに動かすことができた。タカヒデも参戦したが、鈍臭いとは思った。

 ケンイチが座る玉座を奪おうと俺は登ったが、いつも忠実な部下はいつにもまして厳しい表情だった。


 背が高く腕が長い部下もいたし、タックルする部下もいた。よろめきながら耐えたが、いかんせんジャングルジムの上であった。

 いつ落ちてもいい状況で、俺には覚悟があった。1番になれなかったら王をやめて二度とジャングルジムに登らない、そう誓った。


 ケンイチは裸足だったからひょいひょいとパイプを交わして攻撃をしてきた。玉座には誰もいなかった。タカヒデは玉座に下から攻めているのがわかった。


 体格のいいケンイチはジャングルジムの内側に入るのに手こずり、中から攻めるのはやめたようだ。俺は追ってくる部下の攻撃を交わしながら、ケンイチよりもタカヒデよりも誰よりも先に玉座を奪った。


 再び王になった俺は、玉座を奪われたきっかけにもなったケンイチがタカヒデを突き飛ばしたことを登ってくるケンイチに問うた。

 ケンイチは言った。「いつもお前に負けたくないと思っていたが、東京から来たというだけでお前と仲良くなるなんて許せなかった。」


 俺は反省したんだ。「友人を知るべきだと、相手の気持ちになって考えるべきなんだと。」タカヒデは玉座にたどり着いて言った。「俺が王になっていつも一人だったキミに友だちを作って欲しかった。」


 王になってから、友だちだったはずの関係が王と部下になっていた。王は一人しかなれなかったから、タカヒデは俺がいつも一人ぼっちだと思ったのかもしれない。 初めてケンイチとタカヒデという友人を知ることができた。俺は2人の友に近づき、固い握手をした。ー


 男の人はそこまで言って、深呼吸をした。空は見えなかった。タクヤも全部聞いていたようだ。この男の人は悪い人じゃなさそうだ。

 

男の人は再び語り始めた。

 ー俺たちが小学生、中学生を卒業して高校生になったころ、この公園にガラの悪い人が居座るようになり、BB弾やビールの缶、注射器が落ちていることがあった。


 子どもも公園で遊ばなくなるし、先生はこの公園に近寄らないよう指導していた。


 俺たちは、今まで遊んでいたこの公園を汚す悪い奴を退治しようと思った。しかし、相手はどんな武器を持っているかわからない。そこで、夜3人で公園をパトロールしていた。警察官になりたいケンイチは、小学生のときから柔道を習っていて三段になっていた。タカヒデは、中学生で野球部に入り、今では高校球児で高校1年生にもかかわらずレギュラーで活躍している。俺は中学生で地理にハマり、ついには地理オリンピックにエントリーしたほどだ。


 そんな俺たちは勝てる自信があった。


 パトロール中に1人のフラフラした男がやってきた。暗くてよく見えなかったが、肩を揺らして歩いてきている。俺たちは恐怖を感じたが、負ける気はしなかった。右手にビール瓶、左手に注射器を持った長髪で痩せ型の男は途中で止まり、こう言った。

「勇ましい子羊ちゃんたち一緒に遊ばないか。楽しいものがあるだよ。」かすれ声の男は、続けた。「俺はいつも一人だった。遊んでくれる奴もいなくなった。」


 俺は、王だった時代を思い出して同情し始めた。


 かすれ声の男はだんだん近づいてきている。俺たちは後ろに下がっていった。後ろはいつものジャングルジムがある。


 かすれ声の男はビール瓶を投げ捨て飛びかかってきた。俺たちは間一髪避けることができたが、かすれ声の男はジャングルジムを登っているタカヒデの右脚を掴んだ。タカヒデは恐怖で動けなくなっていた。かすれ声の男が左手に持った注射器をタカヒデの右脚に刺そうとした。


 咄嗟に俺は近くの石をかすれ声の男に投げた。石はかすれ声の男の額にあたり、ウゥーんと言って倒れた。


 タカヒデは恐怖で失禁してしまい動けなかった。一番冷静だったケンイチが警察を呼んで、かすれ声の男は警察署に連行された。タカヒデは怪我がなく、しばらく病院で心のケアをするという。


 翌朝、学校の先生から夜に出歩いたことを注意されたが、同時にこの事件のことを心配された。やはり、かすれ声の男が持っていた注射器の中身は違法薬物だったそうだ。

 この事件のあと、公園は立入禁止となってしまった。ー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ジャングルジム・ティーン たっくんスペシャル @taka11111

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ