ジャングルジム・ティーン
たっくんスペシャル
第1話
この街は暗くなった。平成が終わるさなか、男は考えた。30年前に始まった都市開発は瞬く間に人を呼び、新幹線の駅も近いことから一時はこの街も賑やかだった。
「この橋がなければ、この橋がなければ」男の声は荒くなった。
この橋とは、都市開発が開始された直後に作られ、鉄道を跨いでインターチェンジへと結ぶ主要な幹線道路の自動車高架橋である。橋の下には公園があり、子どもたちがスマートフォンでおのおのゲームをしている。
男は公園を見渡した。4車線道路の下にあるこの小さい公園は、小さな2本の木のほかに自然がなく無機質な遊具があるだけだ。ジャングルジム、鉄棒、ブランコ、シーソー、砂場、子どもたちは遊具に目もくれずゲームに夢中だ。
「ジャングルジムの王だった」そう呟いた男は、ジャングルジムに登り始めた。
この公園のジャングルジムは金属パイプの枠だけで構成されていて、無機質さを強調させていたが多くの子どもが使ったことから枠はもうペンキが剥がれて錆びていた。
男は頂点まで登り、また公園を見渡した。通いつめた公園のジャングルジムの頂点は、玉座そのものだった。
王は、橋ができた時代を振り返った。
王だと知って給食の牛乳や唐揚げを捧げる人がいた。王には6人の部下がいて、王が鉛筆を忘れても部下が調達した。宿題も朝までには終わっているし、王は満足していた。王を慕う人も大勢いたし、王に逆らう奴もいなかった。
いつでも王は頂点にいなければならなかった。
暑い始業式の日に、見慣れない男がいた。奴は東京の方から来たという。王は東京がどこにあるか知らなかったが、東京がすごい場所だということは知っていた。東京男は、いつも洒落た服を着て話し方も違って目立ってきた。
東京男が王に話しかけたことがあった。
王は信頼している部下の話しか聞かないが、東京男の話は聞きたかった。
東京男「キミはいつも一人だけど、なぜ遊ばないの?」
王「オレは一人じゃない、こんなにも部下がいる。」
東京男「部下がどんな人か知ってるの?」
王「オレはなんでも知ってる、部下のことも味方も敵も。」
東京男「じゃ、オレは敵なの?」
王は黙った。そして、口を開いた。「お前は敵だと思ったことがない。」
東京男は「じゃ、一緒に遊ぼうか。」と答えた。
王は、初めて「一緒」という単語を聞いた。
東京男は「オレはタカヒデだ。よろしくね。」と言った。王は部下にすら名乗りたくなかったが、タカヒデには名乗ることにした。
王はいつもの玉座でタカヒデを待った。部下ですら登ることを禁じているジャングルジムにタカヒデを登らせたくなった。タカヒデは約束の時間を過ぎていつもの公園へやってきた。部下たちは恐怖で体が震えていたが、タカヒデは構わずこちらに向かってきた。
しかし、タカヒデがジャングルジムを登っているとき、部下の一人がタカヒデをジャングルジムから突き飛ばして登り始めた。王は部下のことを見ることをせず、ジャングルジムから飛び下りて痛がるタカヒデの元に近寄った。タカヒデは頭を地面に打っていて、たんこぶができていた。
部下の一人が玉座を占領すると、残りの部下もジャングルジムに登り始めた。王は部下になぜタカヒデを突き飛ばしたのか問うたが、部下は「オレも王になりたかったんや」と言った。
タカヒデは起き上がったが、部下に何も言わずにジャングルジムを登りはじめた。
王は部下のクーデターに驚き、怒ったが、タカヒデがジャングルジムを登っていることを見て、もう一度玉座を奪うつもりで登り始めた。王は部下に慕われていると思っていた。しかし、玉座を奪われたことで見せかけの忠誠心だったと改めて気づいた。
8人が玉座をかけてジャングルジムに登っている。橋の下では、男同士の暑い熱いバトルが始まった。
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