犬神家の鍵貸します
影宮
暗殺を
彼の名は、
暗殺を仕事とする犬神家の長男であり、また表向きではただの高校生だ。
犬神家は代々、三男が依頼を受け、次男が必要な道具を揃え、長男が暗殺に出ると決まっている。
暗殺に引退は無い。
両親は、彼らのサポートへと徹するだけだ。
三男が誰からも好かれる笑顔で、兄二人へ依頼書を見せた。
「見ろよこれ!すっげぇ額!ターゲットは三人!暗殺方法は問わない!」
目を輝かせている三男は金に目がない。
依頼を受ける時は必ず高額の依頼に応と答え、額が低いと犬神家はそんな安くないと言って断るか、ぎりぎりまで額を上げさせる。
次男は暗殺方法を問わない暗殺任務であることを面倒臭がる。
「えぇ、そこは問えよ。何が要るかわかんねぇよ。俺様、無駄に用意すんの嫌いなんだわ。」
そんな次男に長男はまず両親から情報を得てから必要なモノをリスト化して渡すと言って、PCを開く。
「あら、今回は誰?」
こうして血塗れた一日を終えて、帰宅するのだ。
代々犬神家の長男たちを辿って情報を引っ張りだしても、長男の名前は鍵以外無い。
何故、鍵と決まっているかと言えば、
犬神家の先祖は犬神様という神様で、望んだ死をもたらすという。
犬神様に殺された者は皆、首に大きな犬の噛み跡が残っている、という言い伝えがあるからだ。
その、犬神様の血を引き継ぎし長男は犬神様の大事な大事なとあるモノの鍵であるとされている。
その鍵であるから、名前を鍵としており、また犬神様の代役として暗殺をする。
そんな長男を暗殺依頼で働かせ代わりにその望んだ死をもたらしにいってやろうということで、犬神様の家、犬神家の鍵を貸すと表すのだ。
「犬神家の鍵貸します、っと!」
三男がそう打ち込みながら声に出した。
次男、三男が暗殺に加勢する時は、長男一人では困難な時だけだが、二人とも腕は確かだ。
次男は和を好んで、手裏剣や苦無、刀などを武器にするが、三男はスナイパーなのでそのスナイプ技術でターゲットをロックオン、撃ち抜く。
長男は得意不得意は無く、総合的になんでも出来る。
兄弟揃って暗殺に出る時には、次男がターゲットを変装して誘き寄せ、三男か長男がターゲットを殺す。
得意分野で役割を決めてそれぞれやるのだ。
「目的地に着いた。親父、ナビを頼むぞ。」
「任せとけ。」
耳に取り付けた機械で会話をして依頼を達成していく。
「まずは監視カメラ四つを探し壊せ。映るなよ。」
「了解。」
回転式拳銃で一つ目の前の監視カメラを撃った。
一つ破壊。
家の外を一周し、監視カメラを全て破壊していく。
「全て破壊完了。」
「中に入れ。」
「了解。」
ガレージがあり、シャッターが下がっている。
信号ボックスを見つけ、ドライバーを使い操作する。
電源を破壊することにより、ガレージのシャッターを難なく開けることが出来た。
ガレージの中には車が収まっているが、人は今留守であると聞いている。
クロロホルムを見つけ、手に取った。
奥の倉庫に進み、殺虫剤を入手。
リビングへ入る。
テレビが付けっぱなしだな。
戸締りも甘い。
閉めて外から見えないように遮断していく。
部屋を廻り、何処に情報があるか探る。
二階に上がり、寝室に入れば机に放置された報告書を発見した。
なるほど。
回収しておいて、隣の部屋に入ればPCがあるのに気付いた。
「親父、PCを発見。それと報告書。」
「アクセス可能か?回収しろ。」
「了解。」
親父も暗殺をしていた身だ。
指示に従えば問題は無い。
「暗号化されてる。」
PC画面が赤く光り、表示される文字顔をしかめた。
「兄貴、俺様の調べによると今兄貴のいる部屋、一番大きいんだわ。わかる?」
割り込むように次男がそう発した。
カチカチとマウスを操作する音が微かに聞こえる。
「一番だと?可笑しい。」
「そう。可笑しいんだ。間取図を見りゃ一発。隠し部屋があるぜ。」
くふふ、と低い声で笑う次男に親父が頷いた声も重なった。
隠し部屋か…。
「俺様の予想、聞く?」
「あぁ。」
「その部屋のどっかに、幅が人ひとりが両手を広げた大きさの絵画がある。多分それ。」
お前、それ知ってる口だろ。
次男の予想、勘は口だけで実はちゃんと調べあげている情報だ。
それに、次男だけは犬神家の血をと繋がっていない。
歳が三男より上だったから、次男にまっただけで。
孤児院出身で、次男の先祖は忍らしい。
だから、次男は忍のようなことを好み、得意とし、その役割しかやりたがらない。
次男が言った通り、絵画を見つけそれを掴んで傾けた。
するとガタンと扉が開く。
「俺様、万能じゃね?」
「自画自賛か。」
「事実。」
「そうだな。」
また、くふふと笑う声が聞こえる。
表情豊かで飄々としてるが、これが暗殺に加勢すると冷酷な顔をするんだ。
それが俺は兄として結構好きだ。
隠し部屋の中には、武器がいくつか揃っていた。
「日本刀と手裏剣もあるな…。」
「あ!俺様の土産にして!」
「はぁ…わかったわかった。」
無邪気な口調の割には低い渋い声してるんだから、少し笑う。
会話してるだけで、次男のあの緩いオールバックも鋭い目も、弧を描く口も全部思い浮かんだ。
隠し部屋のボードには、ターゲットが描いたのであろう次の襲撃場所の見取り図らしきものがある。
それをカメラに収めておく。
カメラレコーダーを破壊し監視カメラの記録も消去。
それからPCのパスワードを拾った。
ロックピックで脱出経路を確保する為に鍵穴破壊。
ドアを解放しておく。
PCにパスワードを入れ、アクセス。
「データをアップロードするぞ。」
「はいはいっと。俺様が受信するぜ!」
やけに上機嫌だな。
「完了したぞ。」
丁度、ターゲットが帰宅してきた。
車が複数この家に向かってきている。
「ならターゲットを殺して脱出しろ。見張り一人殺し、変装しろ。見張り同士は顔を覚えてないからな。」
「了解。」
ガレージ前に一人立っている見張りを後ろかた口を抑え殴り気絶させる。
それから首を斬った。
服を剥ぎ、変装し、死体をボックスの中に投げ入れた。
「ターゲットの位置は見えるのか?」
「俺様、そこまで面倒なこと出来ない。弟にパス。」
出来るくせにやらないタイプだということは知っている。
「サービス料取るぜ?」
「ならいい。」
「冗談!冗談!ターゲットは寝室で寝てる!」
賑やかだな、と毎回思う。
手榴弾を屋上から放り投げて、爆発音で見張りの目を引く。
「起きた。あ、避難してる。」
「そうか。」
「動きが止まったぜ。」
屋上から換気扇に毒を入れてやる。
すると、密室の中にいるターゲットを含めた人は毒で死ぬはず。
「兄さん、ターゲットの反応が途絶えた。」
「脱出しろ。見張りの注意を引き付けとけばボートに乗れる。」
「了解。」
回転式拳銃を構え、外のトラックの荷台に積まれた荷物を撃った。
ガソリンで燃えるかと思いきや、花火が上がった。
花火を積んでたのかよ…。
「兄さん、今のうちだと思うぜ。」
「兄貴、俺様の土産持ってるよな?」
それぞれに答えてやって、ボートに乗り込んだ。
すると先客がいる。
「帰るわよ。」
「母さん、いつの間に…。」
「うふふ、内緒!」
母が操縦するボートでその場から脱出した。
帰宅し、依頼の情報をまとめて三男に渡す。
これを三男は依頼人に渡すか送信する。
そして金を振り込まさせる。
それで犬神家は生活しているのだ。
土産にしろと言った手裏剣と日本刀を次男に渡せば目を輝かせる。
「俺様専用武器はまた増えた。兄貴、流石!」
「お前の働きのお陰でもある。ありがとな。」
くふふと笑う次男の頭を撫でてやり、今日は血がつかなかったと俺自身も満足だ。
『犬神家の鍵貸します。
暗殺依頼は報酬次第。
必ず望んだ死をもたらしてみせましょう。』
後日、それは報道された。
犬の噛み跡が全ての死体に刻まれていると画像まで。
「兄さん、噛んだ?」
「いや、毎回言うが俺はそんな趣味はない。」
次男の頭に手を乗せて、未だに知らない三男を笑う。
「俺様、忍だから。でも、犬神様には忠義誓ってるんだぜ?」
「わざわざ毎回大変だな。」
「これも俺様の仕事ってね。印を忘れちゃ駄目絶対。」
勿論、次男が噛んでるわけじゃない。
噛むのではなく、犬の噛み跡を似せて傷をつけているだけだ。
毎回、毎回、こうして次男が印と呼んでやっているが、実は俺ですらどのタイミングでどうやってその傷をつけているのかわからない。
忍と神の家なんて、カオスだな。
犬神家の鍵貸します 影宮 @yagami_kagemiya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます