始まり
ドアが激しく蹴破られた。
大きな音を立て倒れたドアが、派手にホコリを巻きを上げる。
ホコリの中から男が現れた。
汚れきってボロボロになった服を身にまとい、その手にはナタが握られている。
「っと…なんかあってくれよ。」
男は倒れたドアを踏みつけて、植物で覆い尽くされた部屋を物色し始めた。
「フッ…フッ…」
狭い部屋には男がナタで植物で覆われた塊を斬りつける音だけが響いていた。
おそらくその下にはタンスか何かが埋まっているのだろう。
「ゴスッ…」っとにぶい音が響いた。
「切れ味落ちてきやがったな…クソッ。」
男は一瞬手を止めたがまたすぐにナタを振り下ろし始めた。
ようやく覆っていた植物の下から白い塊の一部が見えてきた、どうやら木製のタンスのようだ。
取っ手のような金属がまだ引き剥がされていない植物の下から少しだけ見える。
「フンッ!」
男はナタを大きく振りかぶって木製のタンスに力いっぱい振り下ろした。
激しい音を立ててタンスの木片が辺りに飛び散る。
同じ動作を4,5回続けるとタンスの中のものが木片とともに溢れてきた。
赤い積み木だった。どうやらタンスはおもちゃ箱のようだ。
「クッソ…。」
男は悪態をついてナタを放り投げ、その場に腰を下ろした。
乾いた音が静かすぎる部屋に響く。
「ろくな物がありゃしねぇ…。」
男はしばらくそのまま座り込んでいた。
どれほど経っただろうか、男はナタを拾い上げ立ち上がり、そのまま蹴破ったドアをもう一度踏みつけその部屋を後にした。
「次は…こっちだな。なんだ、やけにドアがキレイだな。」
男は隣の部屋のドアノブに手をかけた。
ドアノブはすんなりと回った。
男は少し驚いた様子だったが、そのままドアを押した。
ドアは静かな「キィィ」という音をてゆっくりと開いた。
「うわっ!」
部屋の中を確認した瞬間男は思わず仰け反った。
部屋には無数の蝶たちが飛び回っていた。
「何だこりゃ…。」
男は恐る恐る部屋に足を踏み入れた。
その途端、蝶は散り散りになって部屋の窓から逃げていった。
「何だったんだよ…。」
不機嫌そうな声を漏らした。
しかしすぐに男はそれの存在を思い出したかのようにナタを握り直すと、部屋を物色し始めた。
しかし、その直後に男の身体は硬直していた。
男の目に人間が。
正確に言えば人間だったものが映り込んだのだ。
「女…?」
男の声は震えていた。
初めてこの世界で死体を目にしたからだ。
一体としてこの世界には存在していないと思いっていたものが。
現に、男はあの日から今まで一体も死体を見てこなかった。
…本当に死体なのだろうか。
植物まみれでソファに横たわるそれは、死体と呼ぶにはあまりに美し過ぎた。
男は恐る恐るそれに近付いた。
「死んでる…よな。」
頬のすぐ下まで茶色く変色し、その女性がすでに死んでいることは明らかだった。
「なんでコイツだけ残ってるんだ…?」
男はしばらく本来の目的も忘れ、吸い込まれるように死体の顔を見つめていた。
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