片道
「わぁ…ねぇ見えた?」
「あぁ、塔か何かが倒れたね。土煙が舞ってる。」
「見に行ってみましょ」
「えぇ…遠いよ…。」
「なによ。いいじゃないそれくらい。」
「わかったよ…。」
「やった、じゃああそこでお昼にしましょ。」
「えぇ…つく頃にはヘろへろで食べれないんじゃないかな……。」
「いいじゃない、たまには運動も必要よ。」
「それ今までずっと歩いて来た人に言う言葉かな。」
「もう…口数だけは多いんだから。ほら、行きましょ。」
「……それは君もだろ。」
「なにか言ったかしら?」
「いや、ほ、ほら行こうよ。」
「ふーん…ま、いいわ。行きましょう」
「そういえば、君はどこに向かっているんだっけ。」
「どこなんでしょうね。」
「ごめん、聞かなかったことにして。」
「いいのよ別に。………私はね、どこにも向かってないの。ただ、あなたにくっついて彷徨っているだけ。」
「どこにも…?」
「そう、どこにも。会いたいと思える人もみんな居なくなっちゃったし。」
「…そっか。」
「実は……僕もなんだ。もう、誰もいない。」
「無理もないわ。実際あなたと出会って2週間は経つけど、その間誰とも合わなかったわけだしね。」
「そうだね、君は?僕に合う前は誰か他の人には会わなかったの?」
「あの日が終わってから会ったのは、あなただけよ。」
「そっか。」
「あなたは?」
「一人だけ、男の子に会ったよ。12歳くらいかなぁ。」
「その子とは…?」
「………朝起きたら、居なくなってた。」
「悲しいわね。」
「なんだよそれ、他人事みたいに。いや、他人事だけど……、そっけなすぎないか。」
「わからないわよ、感情なんて。あの日ほとんど失ったわ。」
「それも…そうか。」
「……怖かったのかなぁ」
「どうでしょうね…いや、怖かったと思うわ。」
「私もね、怖いの。」
「そっか」
「えぇ、死ぬのは、怖いわ。ひとりぼっちで居るよりも。でもそれだけね。感情なんて。」
「……そうだね。僕もだ。でも、もう生きてるのも辛いかなぁ。」
「そうね…。」
「ねぇ、僕たちはどこに行くんだろうね。」
「わからないわ、あと何年こうやって歩くかもわからないし。」
「そうだね。」
「あなたといつまで一緒にいるかもわからないわ。」
「そっか。」
「ねぇ、」
「なに?」
「あの塔のところで、お別れにしましょ。」
「……行くの?」
「……えぇ。もう疲れたわ」
「そっか、……わかった。」
「……怖く、ないの?」
「怖いわよ、さっきも言ったじゃない。」
「そっ、そうだよね、ごめん。」
「……そろそろ着くわね。」
「あ、、ほんとだ。」
「わぁ…」
「うわぉ…」
「奇麗…」
「だね。」
「…この塔は、死んだのかしら。」
「まだ、生きてるんじゃないかな。」
「倒れてるわよ?」
「そうだね、でもまだ死んでない。」
「そうね…確かにまだ死んでないわ。そんな気がする。」
「さ、お昼にしようよ。」
「なによ、へろへろで食べれないんじゃなかったの?」
「わからないけど、なんか空腹のほうが勝っちゃった。」
「そうね、わたしもお腹が空いたわ。」
「…ねぇ。」
「なに?」
「やっぱり私、まだあなたと居たいわ。いいかしら?」
「…うん、分かった。いいよ。」
「………いい…よ。」
「なんで泣いてるのよ。」
「君だって…泣いてるじゃなか。」
「泣いてなんかないわ、涙が…涙が勝手に流れるだけ。」
「なんだよそれ…酷い言い訳だな。」
「………ふふっ」
「……へへっ」
「さ、食べましょう。」
「そうだね。…そうだ、今日はここにテントを張ろうよ。」
「いいわね。」
「それじゃ。」
「「いただきます。」」
「……美味しい。」
「ありがとう、嬉しいわ。でも、ちょっとだけしょっぱいわね。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます